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医療法人制度の実務と課題

「医療法人制度改革の基本的な        方向性」をふまえて

東日本税理士法人    会計士補 長 英一郎

 平成17年4月に厚生労働省医政局指導課より「医療法人制度改革に関するご意見の募集について」が公表された。
  同課では、将来の医療法人制度について、
(A)非営利性を徹底した新しい医療法人制度と、(B)さらに公益性を求めた新たな医療法人制度(認定医療法人)(仮称)との二つの観点から考え方を整理している。
 「医療法人制度改革に関する意見の募集について」は、より広く国民からも意見を求めるものであり、筆者も5月13日付で同課に意見を提出した。
 本稿は、同課から提出された「医療法人制度改革の基本的な方向性」(以下、「医療法人制度改革の基本的な方向性」(以下、「厚生労働省の意見」とする。)とそれに対する筆者の見解という構成になっている。筆者の見解は同課に提出した意見に加筆修正を加えたものである。

剰余金を医療に再投資する仕訳は不可能
 
厚生労働省の意見】
 剰余金の使途については、@剰余金の使途に関する理念規定、A剰余金に不適切な費用負担の禁止規定を医療法に明確に規定することによって、医療法人の非営利性をより鮮明にするとともに、剰余金はすべて医療に再投資する
 

 剰余金の使途の明確化という理念は理解できるが、剰余金は会計上貸方科目であるので、剰余金を医療に再投資させることによる仕訳は不可能である。
 仮に、剰余金を医療機械に充てた場合に仕訳を行うとすると図表ー1の仕訳になるが、この仕訳によると医療機械が売却されたことになってしまう。医療の再投資について仕訳を可能にするためには、学校法人会計を参考に図表ー2の仕訳を行い、第2号基本金の取り崩しは医療法人の量的規模の縮減に限り認めるという方法が考えられる。
 しかし、基本金は純資産の内訳表示の1つにすぎず、基本金の繰入れにより現実に資金が留保されるわけではない。また、厚生労働省も「剰余金の使途に関する理念を定めるに当たっては、従来からの効率的な医療法人の経営を硬直的なものにしないように配慮するものとする。」としている。基本金の取崩し規制により医療法人の弾力的な経営を阻害する恐れがあるので、基本金会計の導入は非現実的である。
 そこで、「剰余金」という文言ではなく、キャッシュフロー計算書で用いられる「フリーキャッシュフロー」という文言を用いてはどうだろうか。「フリーキャッシュフロー」とは、平成16年8月改正の病院会計準則で追加されたキャッシュフロー計算書の「業務活動によるキャッシュフロー」から業務活動に必要な設備投資額を差し引いたものである、業務活動を継続した上で自由に使えるキャッシュのことをいう。
「フリーキャッシュフロー」という文言であれば、仕訳が可能になる。上記の例では、「(借方)医療機械×××(貸方)現金預金×××」で足りることになる。「フリーキャッシュフロー」が、医療に再投資されたが否かについては内部統制の設備、外部監査の導入によりチェックすることができると思われる。


図表ー1 剰余金を医療機械に充てた場合の仕訳現行の病院会計準則に準拠した場合)
 

(借方) (貸方)
医療機械 ××× 現金預金 ×××
 剰余金  ××× 医療機械 ×××



図表ー2 剰余金を医療機械に充てた場合の仕訳(基本金会計を導入した場合)

(借方) (貸方)
医療機械 ××× 現金預金 ×××
剰余金  ××× 第2号基本金 ×××



 医療法人に剰余金が帰属すると医療法人、出資者に課税

【厚生労働省】
 医療法人の剰余金については医療法人に帰属するものであることを医療法関係法令上明確に位置づけ、社員の退社時に出資額に比例して剰余金が分配されないようにするものとする。


剰余金が医療法人に帰属することを明確に規定した場合、その剰余金の額につき、出資者・医療法人に対して課税されるのではないだろうか。
 現行法上.医療法54条において剰余金の配当が禁止されているので、医療法人の大部分を占める持分のある社団医療法人の場合、利益剰余金相当額は社員の退社時又は医療法人の解散時まで留保されている。社員が死亡により退社すると、社員相続人は退社時の医療法人の利益剰余金を含めた純資産価額等算定を基準にしされた評価額を相続税として負担することになる(財産評価基本通達194−2)。
 これに対し、剰余金が医療法人に帰属することを明確にした場合、現存する持分のある社団医療法人では利益剰余金相当額が確定的に医療法人に帰属することになる。医療法人側には受贈益課税が生じ、出資者側には譲渡所得税が生じる可能性が高い。
 医療法人制度は医療法人の安定的、継続的運営意図としているにもかわらず、出資者・医療法人の双方に多額の課税が生じるのはあまりに影響が大きい。特に、一人医師医療法人においては、大口出資者である理事長と医療法人は経済的に同一であり、規模も小さいことから課税が生じた場合、医療法人の存続にかかわる。
 「剰余金」ではなく「フリーキャッシュフロー」であれば、医療法人の含み益相当が医療法人に帰属されたと設定されないからである。

監査の目的を明確にすべき 

【厚生労働省の意見】
 認定医療法人(仮称)については、地域で安定的な医業経営を実現するために公認会計士等の財務監査を受けなければならないものとする。


 地域で安定的な医業経営を実現のために財務監査を受けなければいけないものとしているが、監査の目的が不明確である。監査の目的を明確にしなければ、ともすれば公認会計士等の職域拡大につながるのではないかとの批判を受け、認定医療法人の目指す目的が矮小化されかねない。
 主たる監査の目的として、以下のようなものを挙げてはいかがであろうか。

(1) 内部管理のサポート
 医療法人の内部統制の有効性を確かめることにより独善的な経営を排し、医療法人等を保護する。国から税制上の優遇措置を受ける認定医療法人は当然安定的経営が求められる。経営者は、自らの権限と責任において健全な内部管理、内部統制組織の維持管理が必要とされる。外部監査は内部管理等をサポートし私的経営を排除するために実施されるものである。

(2) 継続企業の前提についての意見表明
 継続企業の前提に基づき財務諸表を作成することが適切であるか否かを検討することにより安定的な医業経営を実現し、債権者等を保護する。継続企業の前提とは、企業が将来にわたって事業活動を継続するとの前提をいう。監査人は、理事長が実施した合理的な期間にわたる医療法人の継続の前提に関する評価について、その期間のうち少なくとも貸借対照表日の翌日から一年間を対象期間として検討する。財務諸表監査により継続企業の前提について意見表明されれば、医療法人が一定期間存続することが期待され、債権者・地域住民が保護される。

 (3) 財務諸表の適正性確保
 財務諸表が一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して適性に表示されているか否かを意見表明することにより、公募債を購入する投資家の信頼性が確保される。財務諸表の適正性確保により財務格付けが向上し、資金調達コストが節減される。

(4) 公益性の向上
 特殊関係者に対する利益供与の有無等を確かめることにより私的経営が排除され、医療法人職員の志気が向上する。

(5)自治体病院の受け皿となることの前提
 認定医療法人は、地域住民に支持される存続が期待されている。不効率経営の自治体病院の受け皿に認定医療法人がなる場合には、公立病院と同様の運営と透明性が当然求められる。

(6)書面添付制度(税理士法33条の2)の普及
 税理士法33条の2において、納税義務の適正な実現を図るため、書面添付制度が規定されているが、あまり広く普及していない。書面添付制度では末監査の財務諸表を基に税理士が申告書に意見を表明することが1つの原因になっている。監査導入によって税理士が書面添付制度を活用し、正確な申告書が作成されることが期待される。納税者側の医療法人にとっても、税務調査による予期せぬ課税を回避することが可能となる。

 社員の財務保障排除は認定医療法人普及の最大の鍵

【厚生労働省の意見】
 認定医療法人(仮称)が行う事業については、(中略)収益事業又は児童福祉事業、障害者福祉事業若しくは介護福祉事業を行えるようにする

独立行政法人社会福祉医療機構では、社会福祉法人等が社会福祉事業施設の設置・整備に必要な資金を借り入れる場合、社会福祉振興試験センターに一定の保証料を支払うことを条件に代表者個人の連帯保証を不要としている。
 しかし、医療法人が社会福祉機構より融資を受ける場合、上記のような制度はなく、理事長及び施設管理者(院長、介護法人保健施設管理者)を含む役員2名以上の連帯保証が義務付けられている。
 特定医療法人では、出資持分の相続人は出資持分の払戻請求権がない反面、保証債務を負うため、特定医療法人移行をためらう医療法人も少なくない。個人として保証債務(経営責任)の対価としての給与の支給は、勤務とは無関係であるため税務上損金算入が認められていない。非常勤で、医療法人の経営に参画し保証債務を負っている社員については社員総会の日当の支給しか認められていないのが実態である。そのため、保証債務への見返りとして、剰余金の配当禁止に抵触するような高額の役員報酬を支給する動機の1つになっている。
 認定医療法人が、介護福祉事業を実施することが可能になるのであれば社会福祉法人のように社会福祉事業施設の設置が可能になる。認定医療法人に財務状況の開示と公認会計士等の財務監査が義務付けられるのであれば、社会福祉法人と同様に個人の連帯保証については不要とする制度の創設を望みたい。

 おわりに
 医療法人制度改革は約50年ぶりの大改革であり、医療法等の法改正が伴う。特に認定医療法人は、非効率経営の自治体病院の受け皿としてその普及が期待されるところである。筆者の意見により医療法人制度改革に一石を投じられたらと切に願うところである