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<医療過疎の解消(9)>

過疎地からの長距離搬送

 

第3章 全国の農山村に見る医療過疎の問題とヘリコプター

<承前>

3 和歌山県の長距離ドクターヘリ

 和歌山県のドクターヘリは2003年1月、県立医科大学附属病院救命救急センターの屋上ヘリポートに拠点を置いて運航を開始した。ここは和歌山県西北端にあるため、県の東南端に向かうと丁度100kmになり、救急業務としては比較的長距離の飛行とならざるを得ない。

 そうした状況から2003年10月なかばまでの9か月半で、ヘリコプターは172件の救急出動をしたが、そのうち53件(30.8%)は50kmを超える長距離飛行であった。このうち現場救急は8件のみで、あとは遠方の病院や診療所で初期治療をほどこした後の高次医療機関への病院間搬送である。

 このように高度医療施設のない農山村地域から長距離搬送が有効と考えられる症例は、たとえば四肢切断、集中治療を要する病態、集中治療の必要な早生児またはその母体、また2次病院でも救急車で搬送すれば長い時間がかかるような場合である。このような症例にドクターヘリを使うと、患者の身体的な負担が軽減される、遠くの3次医療機関に短時間で直接到達できる、地元医師が患者に付き添ってゆく必要がないため負担が軽減できるなどの利点がある。

 こうして和歌山県ドクターヘリは農山村の医療過疎地に和歌山市の高度医療センターを一挙に近づけ、農山村地域にヘリコプターを使うことの有効性を、発足から1年未満で実証することになった。これにより今後、ヘリコプターの利用度はますます増加するものと思われる。

 そうした中で、ヘリコプターの効果をいっそう高めるためには、緊急電話を受ける消防本部がヘリコプターの運用にもっと慣れて、覚知と同時に出動要請を出すようにすべきだというのが拠点病院の医師の見解である。現状は殆どの場合、救急車が現場に到着したのち、救急隊員が患者の容態を確認してからヘリコプターを要請しているが、これでは多少とも無駄な時間を費やすことになる。

 もうひとつ、医療サイドからは、和歌山県中央部にもドクターヘリを配備すべきではないかという提案がなされている。これが実現すればヘリコプターの運航効率は飛躍的に向上し、農山村地域の隅々まで、少なくとも和歌山県内では15分以内に医師と患者が出会えるようになるであろう。

 なお和歌山県ドクターヘリは、三重県や奈良県とも協定を結び、県境を越えて救急出動をしている。これで紀伊半島中央部の山深い地域もヘリコプターの恩恵を受けることが可能となった。最初の9か月余りの期間では、三重県に4件、奈良県に2件の出動をしている。
導入以降の出動件数は02年度35件(うち奈良県・和歌山県の要請4件)、、03年度265件(9件)、04年度338件(10件)、05年度は400件に達する勢いで出動成績を重ねており、医療過疎地の多い紀伊半島の救急医療において、「プリベンタブル・デス(避けられた死」の回避に貢献している。
 和歌山県でのドクターヘリの運用状況とその有用性について、和歌山県立医大病院救急集中治療部の篠崎正博教授に聞いた。

「プリベンタブル・デス」を回避へ

Japan Medicine 2005・10・14

和歌山県立医大病院救急集中治療部の篠崎正博教授


-導入以降、出動件数が順調に増加していますね

篠崎氏 県の防災ヘリの救急利用は年30件程度しかなかったため、県の中では、ドクターヘリの導入に際してそれほど利用頻度は多くないのではという意見もありました。しかし、われわれの試算では、年300件程度の適応患者は確実にあると予想していました。実際、その通りの規模で利用されるようになっていますし、まだ増える傾向にあります。

ードクターヘリによる搬送がなければ、いわゆる「プリベンタル・デス(避けられた死)」として死に至ったケースも多いと思いますか。

篠崎氏 そうだと思います。和歌山県の場合、運航区域は常駐する和歌山県立医大病院から半径100kmの圏内(運行時間30分以内)で、和歌山県と三重県・奈良県南部の紀伊半島全域をカバーすることができます。
 大阪などのような都市部でどれほど必要化は議論する必要はありますが、海岸部や山間部に人口が散らばっている地方では、ドクターヘリは非常に有効だと思います。救命救急センターをつくることを考えれば、経済的にも非常に有効ではないかと思います。

ー有用性については、すでに世界的に確立しているのでしょうか。

篠崎氏 欧米ではすでに30年以上前から整備がすすめられていますし、有効性に関するいろいろなデータが蓄積されています。日本でも日本航空医療学会などで報告されていますし、有用であることは言うまでもありません。和歌山県の場合、救急隊もよく勉強してくれていますので、適応患者を見極めて迅速に搬送してくれるようになっています。そうしたことも、出動件数の増加につながっています。

ー防災ヘリを代用して、救急医療に使用しているところも増えていますが。

篠崎氏 中型の防災ヘリは防災が目的ですし、発着場所や飛行時間などを含めて、いろいろな制約があります。ドクターヘリよりも人手がかかりますし、維持費も高い。その点、ドクターヘリは機動性がありますし、要請があればすぐに飛びたてます。防災ヘリは病院間搬送や救助も兼ねた救急には有用ですが、救急医療では、ドクターヘリとは別のものと考えた方が良いと思います。

ー和歌山県のドクターヘリの運用には、どのような特徴がありますか。

篠崎氏 隣接する県と共同利用しているのは和歌山県だけです。また、ドクターヘリの拠点病院で、屋上にヘリポートがあるのは当院だけです。救急は時間との勝負ですから、やはりヘリポートは病院の屋上にあるのが一番望ましいと思います。このほか、ヘリに消防無線を付けたのも和歌山県が最初ですし、いろいろな工夫をして、ドクターヘリの機能を最大限発揮できるようにしています。

ー今後の課題を教えて下さい。 

篠崎氏 やはり今後は、欧米のように夜間運航も視野に入れるべきでしょう。当院の場合、現在の運行時間は明けから日没まで。夜間はドクターヘリによる救急医療の空白時間となっています。夜間は海岸部しか飛行できませんが、もし夜間運航できれば、適応患者は現在の倍はあると予想しています。
 また、将来は災害時の救急にも利用できないかと考えています。当院でも災害派遣医療チーム『DMAT(Disaster Medical Assistance Team)』を編成していますし、ドクターヘリの代替機を使えば、災害時の利用も可能ではないかと考えています。
 日本全体で見れば、ドクターヘリの導入も徐々にではありますが増えていますし、その有用性に対する認識も高まっています。医療資源を有効に使うという点が理解されれば、もっと普及するのではないかと思います。