|
TOP

『夕張希望の杜〜期待される再生へのチャレンジ〜』(長 隆)
2007年2月28日 夕張市議会で 夕張市立総合病院の指定管理者選定が承認される。
野村証券が有床診療所に 証券市場から資金調達して医療機関に協力するというニュースは衝撃的で各紙が大きく取り上げたことは当然である。
野村の代表者は事業的に採算が取れると記者会見で言明し自信を示したことは 社会医療法人の普及に大きくインパクトを与えることになろう。
米国の非課税病院債が 非営利病院の発展に大きく寄与したことの再来となるであろう。
「以下は9年前の私の論考です 損益計算書の法制化がまず実現し今回社会医療法人債が実現しました」。
効率的医療経営へ「病院債」を
‐長期資金、安定的に 固定費削減も‐
日本経済新聞「経済教室」1988年2月18日掲載
・日本の医療機関を取り巻く環境は今後、自由化、多元化、多様化の方向に向かい「競争原理」の導入が進む。これに合わせて医療経営の理念を明確にする為に、医療法の改正が必要である。
・医療機関の会計制度には問題が多く、このままでは医療法人の育成、病院新増設の規制という国の方針も、国民の医療費負担の軽減にはつながらない。
・医療法の改正によって医療機関に企業体としての意識をもたらし、ムリ、ムダ、ムラのない効率的な医療経営を目指すべきである。
・さらに、効率的な医療経営のためのファイナンスとして、「病院債」の発行を提案したい。
損益計算書提出も義務化を
高齢化社会を迎えつつある今日、日本の医療需要は増加の一途をたどる傾向にある。これからは、必要な医療資源をより効率的に活用しなければ、国民が負担する健保、税金は際限なく増大していくだろう。
そうした医療資源の効率的活用の一環として、現在考えられているのが医療法人の育成である。例えば六十年十二月、衆院社会労働委員会は医療法人の育成について対策を講ずる決議をした。また六十年の改正医療法では、診療所についても医療法人化の道が開かれ、六十三年一月一日現在、四十七都道府県で七百二十三件認可されている。
法人化は、医療機関経営の安定と近代化につながるとの観点から、積極的に推進すべきものとされているわけである。しかし、日本の医療をみると、法人化は必ずしも医療資源の効率的活用に結びついていないのが実情である。このままでは総医療費の抑制に効果があるかどうかも疑わしい。
そこで以下、この問題と関係が深い医療法の「会計に関する規程」を中心に取り上げ、日本が高齢化社会に向けて取り組むべき課題を明らかにしたい。
医療法は、医療機関の管理と医療資源の確保、その体制整備などを目的としており、いわば医療の基本法である。二十三年に施行されて以来、何度か改正を重ねてきたが、一貫して変わっていないのが医療公経営(非営利経営)という前提である。医療機関は国家財政と同様の考え方、つまり「支出が先にあってその後収入が確保される」という論理が相変わらず前提になっている。
この前提が変わらないまま、競争原理が導入されればどうなるか。例えば現在、総医療費抑制の有効手段として、地域医療計画による病院の新増設規制が始まったがこうした物理的規制は、短期的には駆け込み増床などによってかえって総医療費増加につながる懸念さえある。
医療法の五十二条は、民間の医療機関が毎会計年度終了後、二ヶ月以内に財産目録、貸借対照表及び収支計算書を作成し、保健所に提出する事を義務付けている。ところが、収支計算書とは資金繰り表のことであり、経営の成績を示すものではない。
例えば、医薬品の仕入代金の支払期限を一ヶ月延長すれば、収支計算上は収支が改善されたことになる。しかしこの場合、収支が改善されたからといって、経営成績が改善されたとは言えないのである。つまり、収支計算書だけでは、医薬品の仕入代をどれだけ支払ったかはわかるものの、医薬品を実際にどれだけ使用したかは明らかにならない。
もし収支計算書に加えて、損益計算書の提出も義務付ければ、医薬品の実際の使用量はもとより、毎月の医療行為も明示されることになる。医療機関の医療行為の総量(企業の売上高に相当)が把握できるわけで、同じ医療行為に無駄ない費用がかかっていないかがチェックされ、同時に、医師や看護婦など一人当たりの収入もわかるので、人件費のムダも排除できる。さらに診療科目別の採算も明らかになるというメリットもある。
損益計算書の提出を求めない限り、本当の経営成績をつかめないのは当然のことで、一日も早い医療法の改正が望まれる。そうすれば、医療機関の経営も国の予算のような発想から脱却し、経営体としての意識を持つ環境が整うだろう。
一方、公的病院は収支計算書さえも提出を義務付けられていない。これでは民間医療機関との公正な競争は望めない。官民の病院に対し、ともに損益計算書も含めて提出を求めることで、正しい経営成績を開示し、お互いが競争しながら国民の批判に耐える経営体質になってもらわなければならない。
ムリ・ムラ・ムダ排除の努力を
もちろん医療法を改正し、損益計算書の提出を義務付けるようにしたからといって、医療機関の効率的な経営がすぐに実現する、というわけにはいかない。医療機関自身がムリ、ムラ、ムダのない経営のために、全ての面で十分に検討をし、それを実施する必要がある。
医薬品の在庫管理一つを例にとっても、人手不足などを理由に医薬品卸業のセールスマンにまかせ、その結果、過剰な在庫を抱えている病院を数多く見かける。
患者によって、どのような薬品が必要かは違ってくるので、できるだけ多くの在庫(備蓄)が在った方が良いという考え方もあるが、現在では大半の医薬品は、特に都市部では毎日のように回ってくる卸業者を通じていつでも入手できる。手に入りにくい一部の医薬品は別としても、効率的な在庫を目指さないと、いわゆる在庫金利だけでもその負担は重くなる。
例えば総収入が年間十億円の医療機関では、医薬品代は平均三億円程度だがその医薬品の在庫期間を四ヶ月間とすれば金利だけで五百万円かかる計算になる。このようなムダな在庫をなくす為、東京都内の十の病院グループ(年間医療収入計二百億円)は、毎月末、医薬品の棚卸を実施し、適正在庫管理の手法とされるABC管理を導入している。
ここでは消費する医薬品の正確に基づいてA、B、Cに三分類し、需要に応じて発注形態を変えている。これにより「この量まで減らない限り新たな発注はしない」といった適正購入のシステムが確立している。
スーパーなど流通業では一週間に一回、全店員を動員して商品を一斉に棚卸することも珍しくない。商品を現金と同様に考えることが、トップから末端まで徹底している。医療機関も固定費化されがちな医薬品代を完全に流動化させることが望まれる。
診療報酬が十分に上がらず、経営が苦しくなる中で、医療機関は必要利益を確保するために、規模の拡大を目指す傾向が見られる。しかし、規模拡大による収入増加を百とした場合、人件費や在庫金利といった固定費も六十程度増えるというケースが多い。規模を拡大すればするほど、逆に必要利益は確保しにくくなり、しかも医療費そのものは際限なく増加し、国民に重い負担となってのしかかってくる、という不幸な結果につながりかねない。規模の拡大よりも、まずムダな固定費を削減する努力をすべきである。
損益計画もたてやすい
医療経営の安定化と効率化のための方法として「病院債」の発行を認めることも有効だと思う。病院経営者は最低限必要な増改築もままならないのが実情である。そのためにムリな借金をして規模を拡大し、利益を追求するという行動も誘発する。営利企業に認められている「私募債」の発行が、病院にも認められてよいのではないだろうか。
ここでいう病院債は、証券会社を経由せずに発行病院(医療法人)の特定の取引金融機関に直接依頼して発行するものをいう。病院債のメリットとしては次のようなことが考えられる。
・比較的多額の長期安定資金を調達することが出来る。
・資金調達コストは発行時に固定され、その後は変動しない。従って損益計画がたてやすい。・受託銀行が手続きを一括して行うので、個別の借入より手数が軽減される。・増資(持分の定めのある医療法人に限る)の場合と違って、購入者は単に投資目的のために病院債を保有するので、病院の経営には何ら関与しない。
・「病院債発行病院」ということで対外的信用度評価がさらに強固なものとなり、病院のイメージアップにつながる。
米国では病院の資金調達手段として病院債(免税債=Tax Exempt Bond)が、免税、低利の魅力から一九七〇年代以後、活用され始めた。免税債を購入した人の受け取る利子は連邦所得税法上、非課税とされ、さらに多くの州で住民税も非課税となっていた。
このため、米国の病院が発行した免税債額は八十三年が百億ドル、八十四年百一億ドル、八十五年百二十億ドル、八十六年(見込み)百億ドルと、ここ数年、常に百億ドル以上の規模となっている。
八十六年度の税法改正により、公共目的以外に発行される債券からの受取利息が課税対象となり、しかも所得税の最高税率五〇%から二十八%に引き下げられたことから、投資家にとって税制上のこの魅力は低下した。しかし、低利安定資金としてのメリットは依然として残っているため、米国では規模の大きな病院が病院債により資金調達する傾向は今後とも続くと予想されている。
日本で病院債を認める場合、将来的には非課税債にまで発展させることが望ましいが、当面は国の財政に負担をかけない課税病院債としてスタートさせるべきであろう。金融機関にとっても、金余り現象が続く中で、潜在的資本需要が極めて旺盛な病院への投資は魅力的なものとなる。
医療機関の資金調達手段としては、現在禁止されている株式発行なども考えられる。株式発行や配当を認めることによって、資本の論理を導入すべきだとの意見もあるが、医療をもうけの対象としてとらえることは、医療法上も国民感情からも望ましくないだろう。病院債の導入により、効率的な医療経営、国民の医療費負担軽減のためのファイナンスを期待したい。

「地域の医師育てる」 社会医療法人債の構想も 夕張市立病院引き継ぐ村上医師会見
2007.02.22 朝日新聞
2007年4月から夕張市立総合病院を引き継ぐ見通しの医療法人財団「夕張希望の杜(もり)」(理事長・村上智彦医師)が21日、夕張市内で記者会見し、4月に国に社会医療法人を申請するなど今後の構想を明らかにした。病院の空きスペースで保育所やコンビニエンスストアなどの収益事業を運営し、経営を安定させるという。また、資金調達の面では野村ホールディングスの子会社がアドバイスしていく。
昨年12月から同病院で働いている村上医師は、「自分1人ではできない。皆さんの協力をいただき、高齢化社会の医療のノウハウを作ることは、将来の日本に生きてくる」「地域で働く志ある医師を育てて、住民のためになるようにしたい」と語った。
4月の改正医療法施行にあわせて、社会医療法人化を申請。認められれば社会医療法人債を発行できるほか、寄付も受け付けられ、広く資金を集めることができるようになる。野村ホールディングスの子会社が法人債の購入を呼びかける。
経営を安定させるため、病院の空きスペースを使って収益事業を手がける。ケア付き集合住宅、保育所、コンビニエンスストア、喫茶店などを経営する。従業員には高齢者を雇用することで、生きがいを持てるようにする考えだ。医師、看護師が近くにいることで、いざというときにも安心して働ける場所になるという。
黒字経営の見通しについて報道陣から問われた村上医師は「一生懸命働くしかない。往診もやり、医師の研修も受け入れるなど幅広く取り組みたい」と述べるのにとどまった。

(過去の私の論考)
介護充実へ病院債整備
讀賣新聞「論点」1999年7月15日掲載
四十歳以上の人から月額三千円程度の保険料を徴収する四番目の社会保険制度である、公的介護保険制度が二〇〇〇年度から始まる。同時に住宅サービス、施設サービスも実施される。日本の高齢者の住居は、在宅の千五百八十五万人と、施設の百五万人に分かれる。在宅で何らかの介助を必要とする人は八十四万人である。施設にいる百五万人は有料老人ホームの二万人、老人福祉施設の二十七万人、老人保健施設の七万人、及び病院・診療所の六十九万人となっている。病院が60%強の施設サービスを担うことが今後、重要視されなければならない。
施設の整備の必要性と資金需要の巨額さに資金供給のミスマッチが著しい。六十九万床の施設更新には最低でも七兆円以上の資金供給が必要である。今年度を目標年度とする新ゴールドプランで、特別養護老人ホームなどの老人福祉施設の増設目標が掲げられているが、都市部では地価が相変わらず高いこと、採算性が悪いこと、資金調達の困難さから、予定通りは難しい。中小病院の病床「療養型病床群」が介護保険の中心となり、圧倒的多数の施設サービスの役割を担うこととなる。中小病院の側にあっても介護保険制度への対応、生き残り策として比較的条件が緩やかな改造を来年三月末までに実施するところが多い。施設内容の悪い施設にやむを得ず移行する病院が49.1%であっては、要介護者をかえって増加させるのではないかという批判も理解できる。
国民の期待する完全療養型に移行するためには、建て替えが必要である。現在の病院の隣地に建て替え用地を確保でき、金融機関からの融資が受けられることが条件となるが、無理である。年間利益が五億円以上出ている病院でも都市銀行は融資に応じていない、といわれる。建て替え更新の時期は迫っているのに、社会福祉医療事業団の融資だけでは不可能である。老朽化設備を改修したくとも資金調達がきわめて困難である。驚くべきことだが、診療報酬の中に声なき弱者たる患者のささやか願いともいえる良的環境の維持の設備投資についての減価償却費相当が認められていない。
金融機関が設備投資資金の返済財源に確証が得られないゆえんである。長期安定資金としての社債、優先株に転換可能な病院債などの債券市場の育成が期待される。今回、石原都知事が中小企業やベンチャー向けの債券市場を東京に作る公約を掲げた点に注目し、高く評価したい。株式会社の社債発行については、九十三年の商法改正で、社債発行額の上限規制廃止、「社債管理会社」の設置など大改正が行われた。しかし、原則として上場会社を対象とし、中小企業は利用困難であった。東京都が債券市場を育成する場合、保証制度や社債管理会社の支援をすることになろう。
現行法でも、有限会社や医療法人の発行する債券も商法が予定する社債契約と同一、又は類似の内容を持つ契約をなすことはできる。
医療法上、限度内であれば医療法人は病院債を発行できる。利息の支払が医療法人の配当禁止規定に触れるのではないかとする論もあるが、社債が株式と類似している資金調達であっても違反ではない。しかし、出資法に抵触しないよう不特定かつ五十人を超える人からの資金の受け入れは、当面できないことになっているから流通性は難しい。これは広く普及している学校債と同じ扱いである。
医療法人について市場性ある社債(病院債)の発行が認められる見込みが出てきた。流通市場が東京都や社会福祉医療事業団などの協力得て整備されることが期待される。
一億円以上の大口や五十口未満の起債について東京都や審査能力の優れている社会福祉医療事業団が保証する制度が現実的といえる。債権購入者に不測の事態が起きないよう、また、購入しやすいように、発行病院は社会的責任を自覚し、・財務内容の公開・外部監査の受け入れ・二千床以上の規模となるよう中小病院が共同して起債することなどが考えられてよい。
特定医療法人などは非同族経営で資本の論理が排除されているので、投資リスクがほとんどなく優先的に起債可能となろう。投資家にとっても病院は倒産の割合が最も少ない業種であり、確定利息が電力債以上に有利となるなら魅力的な債券市場として発展していくだろう。
|