特集
看護師を大事にしない病院に、発展はないー。病院事業管理者として、医療の質を落とさずに病院の収支改善をはかることで知られる武 弘道氏は、そう言い切る。武氏が、現場の実態から確信したこととは。



2005年6月16日、朝7時のNHKニュースが伝えた言葉が忘れられない。「この激しい競争の時代を、企業が生き残るには、女性管理職を登用するしかない」といって、あちこちの会社の実例を紹介した番組だった。
日本経済新聞の6月9日号にも「女性管理職を大幅に増やした企業は5年前より売上が平均7割大幅に増やした」という記事が出た。21世紀職業財団が2003年に上場企業を対象にした調査の結果である。
日本の企業に管理職として働くようになったのは、高度経済成長期移行であるが、長い間、女性を役員や社長にする会社はごくまれであった。それが、上記の記事のごとく、最近では、女性を登用することが企業の発展につながることが実証されたのである。
企業で女性が働くということの歴史はせいぜい50年であるが、看護師が病院で働くことには、日本でも130年の歴史がある。しかも、病院職員の6割が看護師なのに、看護師副院長は全国で70余名しかいない。この状況に、私はずっと憤慨してきた。日本の病院には、看護師蔑視、女性蔑視があると考える。
私は先のNHKの報道と同じく、「女性副院長を置かない病院は、これからの激しい競争の時代を生きぬけない」ということを、私のこれまでの病院事業管理者体験をもとに、強く主張したい。
|
私は鹿児島市病院事業管理者兼市立病院長を8年間勤めた後、埼玉県に病院事業管理者としてスカウトされ、埼玉県立のがんセンター、循環器・呼吸器病センター、小児医療センター、精神医療センターの4病院の経営改革に取り組んだ。
4年間で70億円の収支改善を達成されたが、同時に医療の質も向上した。その改革の詳細は「こうしたら病院はよくなった!」(中央経済社刊)に書いたが病院改革の成功の最大の要因は看護師副院長の誕生だったと考えている。
知事から人事権を委譲された筆者は、4病院のすべての看護部長を副院長に昇格させた。一般に県立病院の看護部長は、県庁の格付けでは課長補佐級であるから、2階級特進である。
このことにより、4病院の全看護師が病院改革と経営改善に奮い立った。副院長職は病院の管理・経営をする立場である。そこに自分達の代表が入り込んだからには病院の経営の方針に看護師の意見が大きく取り入れられることになり、看護師の発言と行動には重みが伴うようになる。具体例をあげよう。
病棟に患者を入院させる権限を医師の部長から看護師長に変えたところ、病床利用率が7%上昇した。医師は年に何回も学会に出張する。外科学会、内科学会など大きな学会になると、その科の医師のほとんどが一週間不在ということが起こる。
そんな時に看護師長が入退院の権限を持っていると、外科医の不在期間は、他の科の患者がそのベッドを使うようにして、空きベッドの有効利用が図られるようになった。看護師副院長の発言力は医師より部長より強いのである。
現実に、埼玉県立がんセンターの副部長として、3年間活躍された向田良子さんが「看護の視点から、看護部長・副院長として医療経営にどう参画するか」(『病院』2005年5月号、医学書院)を書いておられるので、その中から引用してみる。
『・・・職員の意識改革なくして経営改善の成功はあり得ない。特に看護部は病院組織の中で5分の3を占める大集団であることから、看護職がいかに病院経営に貢献できるかは重要な要素である。看護師集団は医師集団と比較して組織としての指令命令系統がはっきりしており、情報伝達がスムーズに末端まで行き届くというメリットを持っている。このメリットを生かして、まず主任、師長に病床利用率、平均在院日数をはじめとする入院・単価・外来単価などの経営データの周知とともに、確信推進の必要性、現場の管理監督者の役割・責任について理解を求め経営改善意識の高揚に努めた。・・・・」
向田さんは、看護職が副院長であることのメリットとして次の4点をあげている。
@専門職の中にあって、看護職は生活者の視点を強く持っており、患者中心の医療の考えを浸透させやすい。
A看護部は組織の中でで5分の3を占める大集団であり、看護職が副院長であることはその組織力を経営の面においても有効活用できる。
B看護職は院内情報把握が容易な立場にあり、職域を超えた調整が容易である。
C看護部長職にある者は最大規模の部門を管理するという経験を持つ強みがある。
そうだ! 看護部長は何百人という看護師を管理・統率してきた実績があるのであって、せいぜい10数名の医師を統率してきた診療科の長より人間管理の経験があるのだ。
埼玉県立病院は、他の3病院でも、森山征子(精神医療センター)、白土睦(循環器・呼吸器病センター)、野中甲子(小児医療センター)という適任の看護師副院長が活躍し、それぞれの病院の経営も改善したし、医療の質の向上も成し遂げた。
現在、私が病院事業管理者として働いている川崎市においては阿部孝夫市長の英断により、平成16年度から2つの市立病院ともに看護師副院長がいる。市立川崎病院に篠原弘子副院長、市立井田病院に鈴木悦子副院長がいて、それぞれの病院で副院長としての職務を的確に処理していると同時に、病院改革のリーダーとして職員の先頭に立っておられ、両病院が活性化されつつある。
私が調査した限りでは、現在、看護師副院長を置いている病院は表のとおりである。
表 看護師が「副院長になっている病院数
| 設置主体別 |
全病院数 |
病院数 |
| 国立病院・療養所 |
146 |
1 |
| 自治体立病院 |
1,081 |
18 |
| 日本赤十字病院 |
92 |
0 |
| 済生会病院 |
78 |
1 |
|
|
123 |
0 |
国家公務員
共済組合連合会立病院 |
37 |
0 |
| 社会保険協会連合会病院 |
52 |
0 |
| 労災病院 |
38 |
2 |
| 大学病院 |
126 |
14 |
| 個人および医療法人の病院 |
6,521 |
38 |
日本では、看護師副院長がいる病院は圧倒的に民間病院に多い。民間病院のほうが、患者サービスや経営ということに敏感であるからであろう。
実際、看護師副院長を置いている病院は、名門病院であったり、患者主体の医療をやったり、経営がしっかりしている病院である。日本で最初に看護師副院長を置いた聖路加国際病院をはじめとし、天理よろづ相談所病院、麻生飯塚病院、済生会熊本病院などが代表としてあげられる。
民間病院に対して、公立・公的病院は少ない。
国立病院・療養所146病院のうち1病院、国家公務員共済組合連合会ゼロ、日赤ゼロは情けない。
これらに共通しているのは、病院の運営が官僚的に行われている病院群ということである。官僚の「前例のないことは出来るだけしない、現状維持が鉄則」の基本路線の上に「看護師が事務部長の上にきてたまるか」という感情論がブレンドされて一向に改善が進まない。
こうなれば、看護師集団自らが立ち上がって、勝ち取るほかはなく、病院長をはじめとする医療人はそれを支援すべきであろう。
病院の院長や理事長の集まりで私が「看護師を副院長にすべきだ」と講演すると、終わってから「本当に看護師を副院長にして大丈夫ですか?」と真顔で聞いてくる院長達がいる。私は聞き返す「君の病院の医師副院長はちゃんとした仕事をしているかね?」。診療や研究ばかり熱中している医師副院長より、看護師の副院長のほうがよっぽど病院をよく把握している。
私の卒業した九州大学医学部の付属病院には、かつて24年間総看護婦長をつとめた須河内トモエさんという方がおられた。2年でどんどん交代する病院長たちが、曲がりなりにも病院トップとしての仕事ができたのは、この人の存在が大きかったといわれる。現在の看護部長、尾首睦美さんは、若い頃、小児科病棟で一緒に働いた仲間であるが、そのすばらしい人柄と能力で4人の病院長を補佐してこられた。
病院長をできるだけ多くの教授に経験させようとする国立大学医学部付属病院では、たいてい2年間で病院長が交代しているが、未熟な病院長を裏で支えているのが看護部長たちであり、その激務には副院長として遇すべきであると私は考える。
と、ここまで書いたところで、快ニュースが入った。「国立大学医学部の付属病院ではこれまで看護師副院長は全国で3人であったが、今年の4月から一挙に14人に増えた。また、副病院長格になる病院長補佐になっている所が9大学となった」。
文部科学省の英断に大拍手を贈りたい。
小泉内閣の法務大臣、南野知恵子さんは、私と同じ鹿児島県立甲南高校出身で一級違い、お人柄も経歴もよく存じているが経験豊かな看護師である。
全国に116万人いる看護師の中には、副院長どころか、病院長でも大臣でも務まる能力と器量を持った人が沢山いるのである。
たいていの公立・公的病院で、看護部門の要求を抑え込むのが、事務局長または本庁の事務官僚である。彼らは長年お役所で生きてきたので、病院という組織が如何に流動的に、効率的に運用しなければならないかを理解しない。
病院の看護師は、年度のはじめは定員が充足されていても、結婚や夫の転勤などのため年度途中で何人も退職していくが、その事態に臨機応変して対策をたてねばならないのに、事務部門の無理解のため、看護部長が苦しんでいる病院が多い。看護師を副院長にすると、院内幹部会議での発言力が強くなり、看護部門の意見が通るようになる。
あんなに医師がいばっていたアメリカでも、近年は多くの病院の看護最高責任者が「副院長」という名称を持つようになってきている。オーストラリアの最名門病院であるシドニー病院にも、有能な看護師出身の副院長がいる。
日本は、なぜ看護師副院長が少ないままなのか、自治体の首長も、病院の理事長も、医師も、そして看護師自信も、本腰をいれてじっくり考えて、みることが必要であろう。
「看護師を大事にしない病院に発展はない」というのが、12年間病院事業管理者として働き、また全国の病院を見て回った私の確信である。
|
|
|