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医療法人社団の非営利性について
弁護士 堀 克巳(深沢綜合法律事務所)
出資額限度法人への移行


株式会社による病院経営参入について議論される中で、医療法人社団(以下、単に医療法人という)の非営利性について、改めて考える時期がきた。
 医療法人は、剰余金の分配を禁止する医療法54条の規定から、当然に非営利法人と考えられていた。しかし、厚生労働省モデル定款の「社員資格を喪失したものはその出資額に応じて払い戻しを請求することができる。」「本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする」という規定に対して、非営利性を徹底していないと批判され、厚労省も動き始めた。
 厚労省は、2004年8月、各都道府県知事に対して「いわゆる『出資額限度法人』について」を通知した。その上で、医療法人の非営利性確保のために、持分ありの医療法人をすべて出資額限度法人に移行させる案が検討されている。
 厚労省のこの通知では、出資額限度法人を「出資持分のある社団医療法人であって、その定款において、社員の退社時における出資持分払戻し請求権や解散時における残余財産分配請求権の法人の財産に及ぶ範囲について、払戻出資額を限度とすることを明らかにしたものをいう」としているが、法制度ではなく定款の規定に基づく医療法人の一形態である。したがって、出資限度法人を選択するかどうかは医療法人の社員の意思に任されている。
 定款変更は、各医療法人の定款の規定に基づいて多数決で行われる。なお厚生省モデル定款では、定款変更の要件として「社員の3分の2以上が出席し、その3分の2以上の同意を要する」とされている。
 このように、定款変更で出資額限度法人への移行が可能であるが、同意しない社員の財産権を多数決で奪うことができるだろうか。出資額限度法人への定款変更は、全社員の同意がなければ憲法違反にある、という指摘もなされている。しかし、社員は定款の規定に従うことを前提に出資しており、将来定款の規定変更されることも了解している。解散ですら社員全員一致は要件とされていないのだから、多数決による出資額限度法人への定款変更を憲法違反と論じるのは早計である。もちろん社員全員の同意があることが望ましく、反対の社員については出資持分を払戻して退社できる道を残すべきであろう。
 それでは厚労省が医療法人の非営利性を確保するために、行政指導にとまらず、医療法を改正して全医療法人を出資額限度法人としてしまう、といった議論までなされているが、問題ないだろうか、社員の意志に基づく定款変更ではなく、国家権力によってこれを強制することは、憲法違反の指摘を免れないであろう。
 医療法人制度が創設して50年以上経過し、出資金の帰趨については定款の規定に委ねられ、税制面でも出資金を財産権として評価することでも定着している。医療法人の出資は、憲法29条で保障されている財産権に含まれ、医療法の改正や行政指導で全医療法人を出資額限度法人としてしまうことは、財産権を国家が奪うことになり、憲法違反と考えられる。
 憲法29条2項は、財産権は公共の福祉に適合するように法律でこれを定めるとしているが、医療法人制度創設時に医療法人を出資額限度法人と定義するのであれば格別、すでに設立許可されている医療法人の社員の財産権を奪うことまでまで許されるものではない。
 社員が医療法人の公益性・非営利性という規制を受けるのは、あくまで医療法人の存続中であり、かつ社員資格を有していることに基づくと考えられば、出資持分がなかったり出資額限度法人でなければ、医療法人の公益性・非営利性が確保されない、という考えに拘泥される必要はないはずである。従来の医療法人も、決して公益性・営利性を充分充たしている、改めて考えることはできないだろうか。
 なお、厚労省は、出資額限度法人へ定款変更した後に、従前の定款に戻すこと(後戻り)は、非営利性の確保のために期待される方向に照らし適当でない、としている。
 しかし、定款変更の許可は、法令または定款に違反していなければこれを拒むことはできない【医療法50条2項)。この点は、定款そのもので後戻りを禁止する規定を設けても、規定事体の変更ができるので意味のないことである。出資額限度法人について、厚労省の定義を充たさない定款や後戻りを行うことを規制できるのは、税制面での措置だけと考えるべきである。