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<医は算術>病院再建 会計士頼み
2006.10.06 北海道新聞朝刊全道 


 紅に染まり始めた山の木々が、壁の所々にひび割れの走る三階建ての病棟を、むしろ浮き上がらせている。

 夕張市中心部の市立総合病院。一九一○年(明治四十三年)創立の夕張炭鉱病院を、八二年、市が買い取って設立した。しかし今年六月、六百三十億円の実質債務を抱えた市は、財政再建団体入りを表明。病院の累積赤字は四十億円に迫る。

 「病院を立て直すには、身内に甘いわれわれ市職員では限界がある」

 秋元斎・事務部長はそう言って目を伏せた。

 病院が頼ったのは、道庁幹部から紹介された「再建のプロ」だった。

 東京の公認会計士、長隆(おさたかし)さん(65)。

*道内で実績

 九六年から今年六月まで、総務省地方公営企業経営アドバイザーを務め、全国約六十カ所の自治体病院に経営改善策を提言してきた。道内では、旧・胆振管内穂別町(現むかわ町)の町立病院(六十三床)を十九床の診療所に縮小するよう助言し、二〇○五年に実現。病床削減で経費を抑える一方、診療科は三科から五科へ拡充した。

 夕張での仕事も早かった。八月十四日、市からアドバイザーとして来年三月末までに再建の道筋をつける役を任され、二週間で中間報告を示した。《1》経営を民間に委託《2》負担の大きい百七十一の病床を三十に減らし、収益が見込める老健施設(百五十床)を開設−などが柱。

 病床数の削減の多さなどに、病院側には不安もある。案の定、道からも「異論」が漏れてきた。

 九月中旬、東京・池袋の事務所にいた長さんに、道内の関係者から連絡が入った。「夕張の財政再建を担当する道の職員の間に中間報告の実現性を疑問視する声がある」

 長さんは即座に道に電話をかけまくし立てた。

 「あなたたち北海道庁は反対なのか。え? はっきりしてくれよ!」

 電話を受けた職員は「そうじゃないんです」と必死で弁解した。

 長さんはこう言う。

 「許認可権を持つ道には常に市町村を管理・制御したいという意識がある。外部から手が入ると自らの権限が侵されると感じ妨害しようとする」

 「病院再建」は机上の計算だけでは実現できない。さまざまなしがらみ、思惑、利害を乗り越えるため、したたかな権謀と行動力を要する。長さんは地元の声や道庁の動きもうかがいつつ、最終的な再建案をまとめる。

 静岡県下田市の生まれ。早くに父を亡くし、高校卒業後、製薬会社に勤めながら夜学に通い、税理士の資格を取った。三十年ほど前に埼玉県医師会の顧問公認会計士に就き、病院経営に習熟し、いつしか「再建のプロ」として知られるように。

*体質を改善

 姉が二十三歳の時、原因不明で治療困難な膠原(こうげん)病を患った。「貧乏人だからと医者はろくに診てくれず、結局死んだよ。病院は排他的で冷たい場所だ」。病院の古い体質を変えようとする強い意志の裏に、そんな原体験がある。

 日本政策投資銀行などによると、全国約千の自治体病院のうち一般会計からの繰入金を除くと、○四年度に黒字だったのは七十病院。道内では百六病院のうち、黒字は岩見沢市立総合病院と名寄東病院のわずか二つ。

 「人口は減っているのに規模は昔のまま。近接する病院間で役割分担せず、それぞれ医師を集め、医療機器を入れ、患者を奪い合っている」と長さん。「国や道が何とかしてくれる時代は終わった。しかし、住民のために病院はなくせない。ではどう乗り切るのか」

 「プロ」の鋭い視線は「夕張予備軍」の他の病院にも注がれている。

病院経営が大きな曲がり角に立たされている。自治体の財政悪化や、診療報酬のマイナス改定など、さまざまな要因に見舞われ、公営、民営問わず、病院は生き残りをかけた淘汰(とうた)の時代を迎えた。苦闘するその実態に迫った。