「社会福祉法人」相次ぐ破綻

2019.11.29

「社会福祉法人」相次ぐ破綻…それでも会計監査「先送り」の違和感
2019年度のはずがなんと5年後
老人ホームの倒産が止まらない
老人ホームや保育園などを運営する「社会福祉法人」の経営透明化に向けて導入が決まっていた「会計監査」の義務付けが、大幅に先送りされる見通しだ。
すでに大規模な法人(収益30億円超または負債60億円超)については義務付けが始まっているが、厚生労働省によると2万818ある社会福祉法人のうちの370と、1.8%に過ぎない。
 
当初、2019年度からは「収益20億円超または負債40億円超」に対象が拡大されるはずだったが、「負担が重い」という業界の要望を受けた厚生労働省が2018年に通達を出して、導入を延期していた。
このほど、自民党などとの調整で、適用拡大の時期をさらに2023年度以降に先送りする案を厚労省がまとめたことが明らかになった。
社会福祉法人は社会福祉法の定めに従って厚生労働省が認可した公益法人で、非営利とみなされた事業には法人税や消費税、固定資産税が原則免除される。国の代行で市や県が業務内容や決算書をチェックしており、これまで潰れることはないとみられてきた。
ところが、老人ホームなどを中心に、事業環境が大幅に悪化したことから、社会福祉法人でも破綻するところが出始めている。2018年12月には神奈川県で高齢者介護施設などを運営する社会福祉法人「大磯恒道会」(大磯町)が、東京地裁に破産を申し立て、業界に驚きが走った。負債額は6億4400万円だった。
帝国データバンクの調べでは、2018年の老人福祉事業者の倒産件数は83。ここ3年ほど高水準が続いている。多くが株式会社や有限会社形態だが、一般社団法人やNPO法人、社会福祉法人などが含まれていた。
独立行政法人福祉医療機構が2017年度の経営状況を調査したところ、回答した6930の社会福祉法人のうち、24.8%に当たる1716法人が赤字だった。赤字の社会福祉法人の比率は2015年度21.3%、2016年度23.2%と年々上昇しており、経営が厳しさを増していることを示している。
 
誰のための負担軽減
老人ホームなどへの入居者からすれば、ホームは終の棲家で、運営主体が破たんすれば行き場を失う。こうした破たんを防ぐためにも、決算書が正しく作られているか、経営体制が整っているかをチェックする公認会計士による「外部監査」が重要、ということになる。
厚労省関係者によると、自民党の委員会では業界団体から、「大規模法人よりも中小規模の法人に会計処理の不備が多い傾向」だという発言があった一方で、「監査報酬や事務負担が課題」だとして、負担軽減を求める声が相次いだ、という。
本来ならば会計処理に不備が多い中小規模の法人にこそ早期に会計監査を義務付けるべきだという議論になっても良さそうだが、「負担が大きい」という業界の主張を受けた自民党議員からは対象拡大の延期を求められたという。
拡大第一弾の対象になる「収益20億円超または負債40億円超」の社会福祉法人は339で、現在義務化されている法人と合わせても全体の3.4%に過ぎない。こうした規模の大きい社会福祉法人が税制上の恩典を受けながら、外部監査すら行っていないわけだ。
実際には全体の88%に当たる1万8281法人が「収益10億円以下、負債20以下」の小規模法人で、こうした法人の決算書が十分に信頼に足りるか心もとないのが実情だ。
一方で、現在は、国の委任を受けた市や県による「監査」が行われているが、実際には数が多すぎて手に負えないのが実情とされる。現在は3年に1度、役所による監査が行われることになっているが、厚労省は、会計監査を導入した法人については6年に1度に頻度を減らすことも検討している。
そうでなくても収益が苦しい社会福祉法人に監査の手間をかけるのは問題だという業界側や国会議員の意向に沿った措置とみられるが、老人ホームなどを利用する市民からすれば、決算書に外部の監査すら受けていない法人に人生を託するのは大いに不安だ。
 
会計士不足の影響がここにも
監査費用が高止まりしている背景には、公認会計士の人数自体が少なく、中小規模の社会福祉法人のチェックに当たる人材が払底していることがある。人数の多い税理士に中小規模の法人の監査を開放する案も繰り返し提起されているが、日本公認会計士協会や大手監査法人は強硬に反対している。
社会福祉法人の団体からは地方に会計士がいない「会計士の地域偏在」を問題視する声も根強い。
会計士協会は自民党のヒヤリングで、非営利法人を専門とする会計士が2574人おり、全都道府県をカバーしていると答えたというが、2万を超すすべての社会福祉法人を監査するのは無理だと言っているに等しく、会計士監査の潜在需要に応えるにはそもそも人数が少ないことを吐露している格好になる。
前回のこのコラムで示したように会計士試験の合格者数は底入れしたとはいえ、年間1337人。「人数を増やすと仕事がなくなる」という既存会計士の声に従って、かつては3000人を超えていた合格者数を絞り込んだツケが回っていると言ってもよいだろう。