第28回DPCマネジメント研究会学術大会■「日本海総合病院における経営管理の現状と課題~地域医療連携推進法人設立の背景

2019.09.17

第28回DPCマネジメント研究会学術大会■「日本海総合病院における経営管理の現状と課題~地域医療連携推進法人設立の背景~山形県酒田市病院機構理事長 栗谷義樹氏
2019.09.16 The Doctor


■DPC維持の取り組みとしてワーキンググループ発足

 日本海総合病院は2008年に県立と市立の自治体病院を統合再編して設立され、急性期の日本海総合病院と回復期の酒田リハビリテーション病院を運営している。

一般病床は168床減したものの、医師数は統合前から増加し、両病院の機能分担が進み外科などの医療技術が集約化した。外来患者は診療所に逆紹介し、総合病院は急性期病院へ実質転換している。

その結果、統合前と比べて延外来患者数は11.6%減、新外来患者数は28.3%減、新入院患者数は11.0%増、平均在院日数は5.9日短縮した。
 
統合再編は劇的な経営改善効果をもたらし、統合の翌年度以降は一貫して黒字を計上している。
人件費率は業務量が減ったため、15.3ポイント減の44.2%となった。

病床回転率は90.5ポイント増の266.8%、経常収支比率は12.8ポイント増の104.5%だった。
 
09年からDPC対象病院に認定され、16年にはDPCII群(特定病院群)に指定された。DPC指定は病院の経営に大きな影響を与えた。特定病院群維持の取り組みとして、DPCの分析を行うソフトを導入し、課題の把握のためのワーキンググループを発足、対策を病院全体で共有した。特に値が低かった「診療密度」を中心に取り組んだ。

具体的には、
▽包括される算定項目を漏れなく入力する
▽在院日数を短くする
▽適切なコーディングを実施する――などに取り組んでいる。
 

また具体的な取り組みとして、外泊も入院期間に含まれるため、可能なら避けることや、以前は月曜日に手術が行われる患者を金曜日に入院させていたが、土日に入院させることなどを実施している。

さらには、クリニカルパスの設定日数を短縮したり、DPCのコーディングを委託職員から病院職員が直接行って、入院期間IIIやIII超の患者リストを作成し、対応できるものは対応したりしている。



■医療費を地域の連結決算で考える必要がある
 地域医療連携推進法人設立の趣旨と共同事業について紹介する。
地域の最大の問題は過疎化と高齢化である。
1980年の酒田市の人口は12万5000人で、高齢化率は10.9%だった。
一方で16年の人口は10万4000人あまりで、高齢化率は33%となっている。
高齢化が国の2040年の推定高齢化率に20年以上前倒しで進んでいることになる。
想定を再構築していかないと、経営も成り立たなくなる。

酒田市の今後の医療介護需要予測は後期高齢者人口は30年が最大だが、15年比でも112%だった。特に急性期医療の需要は、15年にピークを迎えており、介護需要は30年がピークで、15年比で108%にとどまる。

国の財政が厳しくなって、給付負担割合が改定されれば、推定値よりもさらに低くなるかもしれない。
実際の新入院患者数の年次推移では、10年から17年まで毎年1.5%ほど減っている。
 
そのため連携推進法人設立に向けた考え方となる地域の過疎化、財政悪化、診療報酬改定の懸念に向けて、地元の医療法人などで意見を交わした。


病院機構単体での事業計画は今後おそらく不可能となり、地域で必要な医療介護費用を地域の連結決算で考えることで効率化を目指せないか、というのが主な論点だった。

連携推進法人設立にまとまって動いたのは、深刻な経営環境の変化に対して危機感を共有したというのが決定的な理由だった。
 

法人設立に向けては、実務者会議や設立協議会で議論した。18年2月に一般社団法人日本海ヘルスケアネットを設立し、同年の4月から正式にスタートした。参加法人は9団体となっている。新法人を設立する前に、参加法人から業務内容や財務状況を共有してもらったところ、各参加法人の課題が、経営持続性への不安と医療人材の確保にあることが分かった。
 

介護ケアの喫緊の課題は、看護師・介護士の確保が極めて困難なことで、病院機構職員の共同事業として、不足している職種の相互補完を行った。

病院機構職員が在籍出向し、給料は機構が支払い、出向先には給料体系に応じた額を独法に入金してもらい、給料の差額は求めない形にした。
 
他には、訪問看護ステーションの新法人への一元化を計画している。
6月に2つのステーションを統合し、来年4月に残りの2つをまとめて、21年に全てを統合して日本海ヘルスに移行する計画を立てている。

また病院勤務医の定年後の働き場所として、継承者が不在のクリニックを独法がサテライトとして運営する計画や、新オレンジプラン地域に落とし込む計画を策定して連携推進法人の共同事業の中で運営する計画も進行している。
 

地域医療推進法人設立の狙いは、地域全体の黒字経営だ。
地域医療構想、包括ケアを実現するためには、各事業の経営が成り立たないといけない。
しかし、単に連携機能を推し進めると、現行の診療報酬・介護報酬の制度上、不利益を被る法人が出てしまう。業務調整を介す必要がある。連携推進法人に医療介護報酬の地域における再配分機能を持たせる仕組みができないかを考えている。




■薬剤が多量・重複使用されている患者が2割いることが判明
 連携推進法人の共同事業と地域フォーミュラリーを支える医療情報ネットワーク、「ちょうかいネット」についても紹介したい。

北庄内地域では11年4月から患者に共有用の固定IDを持たせ、患者をキーとして検索し一覧表示できるようなシステムを導入した。

情報を共有することで、切れ目のない医療体制を構築して、地域全体を一つの病院として眺められるような環境を目指した。

同意した登録患者において、利用料金は無料で医師記録のほぼ全てを開示した。登録数は安定して伸びており、6月時点の登録者数は3万9452人で、庄内地方人口の14.1%となっている。情報開示病院は5カ所で、積極的に利用しているクリニックは67カ所となっている。
 



また、ICTの活用で調剤情報を共有して、薬剤の適正使用に関する業務支援を目的に、昨年11月から「お薬情報共有システムの運用」を開始した。

地域の調剤薬局・調剤情報をクラウド化して共有しており、重複・禁忌・相互作用薬剤をリアルタイムに検知して、ポリファーマシーの解消や地域フォーミュラリーのデータの捕捉と推進に活用している。患者のマイナンバーカードの公的個人認証を活用して同意を得る形をとっている。

 調剤薬局での実際の流れは、患者は処方箋とマイナンバ―カードを持って薬局を訪れ、薬局のレセプト端末で処理する。
調剤情報と固有情報を紐づけてクラウド上で管理し、調剤情報から各種チェックを行い、薬剤師は薬剤使用の適正化に努める。
調剤情報は患者同意の下、ちょうかいネットとも連携することが可能となっており、医療機関側でも処方状況を知ることができる。
 昨年11月から今年2月までの登録延べ患者数は、4658人となっている。登録患者数は2900人を超えていた。これらのデータから、重複発生件数は118件、添付文書上の相互作用発生件数が85件、6種以上の処方薬が出ていた患者数は約17%以上(808人)あったことが分かった。
薬剤が多量、重複使用されている患者が2割弱いるという、これまで捕捉できなかった不都合な真実が明らかになりつつある。



■地域フォーミュラリーは調剤薬局の今後の在り方を根本から見直すきっかけに共同事業としてスタートしている地域フォーミュラリーとは、患者に対して有効性、安全性、経済性などの観点から、医薬品使用の指針を地域で策定し実施する仕組みだ。

地域フォーミュラリーは院内フォーミュラリーとは違いステークホルダーが多く、管理運営は薬剤師会だが、地区医師会、病院医師の意向と調整しなくてはならない。そのため運営の難易度は高いが、適切に運営されれば地域医療経済に対する有効性は高いものになる。
 
地域フォーミュラリーの目的は、医療費削減が第一ではなく、適切な薬物使用の推進である。
妥当性、安全性が担保され、経済性も優れている薬物治療が実施されなくてはいけない。
特に薬物使用について、先進国で非効率な処方が野放しにされているのは日本だけだ。
患者にとってもメリットはほとんどないと言われている。10兆円ともされている薬剤費用の効率化は、日本の医療保険財政の健全化においてとりわけ重要だ。地域フォーミュラリーは効率的な医療体制に根幹になるものだと考えている。
 
地域フォーミュラリーは厳しくなる国の医療体制に貢献できるとともに、連携推進法人の設立理念である地域の連結費用管理に結びづく考え方だ。
当地域では地区薬剤師と病院薬剤師で構成する検討会で、選考基準に基づいて薬剤選定等を行い、素案を作成している。

これを受けて作成運営委員会が、実際の地域フォーミュラリーを作成し、協議会で承認を経た後に連携推進法人の理事会で承認をするという形をとっている。
 
現段階での地域フォーミュラリー選定薬剤は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、αグルコシダーゼ阻害剤、アンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)、スタチン、ビスホスホネート製剤の5種、バイオシミラー1種が対象となっている。日本海総合病院のPPI使用量は推奨薬の「ランソプラゾール」が2.13倍となり、「ネキシウム」は0.64倍、「タケキャブ」「パリエット」はほとんど変化がなかった。
 
これに対応するため5月から、電子カルテの処方オーダーから推奨品への変更を勧めるアラートを導入した。アラート効果は絶大で、導入以降は非推奨薬の薬剤費用が落ち込んできた。医師の行動変異を阻んでいるのは、先発品への強いこだわりよりも慣れ親しんでいることが主な理由で、処方変更の際に手間暇を解消できる仕掛けが効果があると考えている。

日本海総合病院の院内フォーミュラリーの6月実績では、運営前と比べた単月削減率は、PPIが35%減、ARBが21%減、スタチンが3%減となり、3剤の削減率は26%減となった。
 
地域フォーミュラリーはこれまでの調剤に偏った業務から本来の役割を取り戻す薬剤師の復権ともいうべき事業で、調剤薬局の今後の在り方を根本から見直すきっかけになると考えている。

地域フォーミュラリーの地域への影響は、漫然投与やポリファーマシーの削減など、患者への服薬管理が格段に進むことと、多品種少量在庫が解消され、在庫管理が効率化することだ。お薬情報共有システムとセットで運用することで、ポリファーマシーと地域フォーミュラリーのデータ捕捉が同時に可能となって、これまでの薬剤費用の効率化に劇的な効果をもたらすことが期待される。



■過疎化が進む地域ほど医療圏の見直しを
 地域医療構想策定の背景には、人口減少が類を見ないスピードで進行している日本で、国際標準からかけ離れて多い医療提供体制、特に病床数の多さが背景にある。

18年度段階で過剰病床は21万床あまりとされるが、急性期病床廃止やリハビリ転用などは進んでいない。都道府県は6年ごとに医療計画を更新するが、入院需要は平均3%減少しているにもかかわらず、実際の病床削減は1%前後しか進んでいない。今後急性期需要は想定以上に落ち込み、需給バランスが崩れるのではないか。余剰病床がさらに膨らむのではないかとの懸念がある。
 
人口減少時代の病院の在り方を考えると、急性期医療の提供には多額の費用と人員が必要で、従来型の限られた機能を分散する方法では限界を迎えている。

急性期疾患の対応をベースに医療圏を再構成し、疾患単位の医療圏、高額医療機器設置基準を将来人口推計から作成し、施設基準を厳格化して基幹病院を戦略的に再整備する必要がある。
 同時に、基幹病院の医療圏に対するハブ機能も整備する必要がある。また行政は、24時間365日のアクセス整備に予算を投下した方がコストの削減ができると考える。特に、過疎化が進む地域ほど医療圏の見直しを行い、急性期基幹病院の集約化を急がないと、手遅れになる地域が今後続出する懸念がある。