医療法人の設立者が出資額に応じて払い戻しを受ける権利「出資持ち分」をなくし、突然の払い戻しや課税のリスクをなくす「持ち分なし医療法人」への移行が進まない。

2019.03.19

 
 

   ニュースBOX=持ち分なし法人 移行進まず 地域医療に潜むリスク 出資者への払い戻し、課税…(金野真仁/浜松総局)  
2019.03.15 朝刊 静岡新聞


 医療法人の設立者が出資額に応じて払い戻しを受ける権利「出資持ち分」をなくし、突然の払い戻しや課税のリスクをなくす「持ち分なし医療法人」への移行が進まない。国は地域医療の弱体化を防ぐため、2017年10月から3年間の期限で移行に伴う要件を緩和した。しかし、期限の半分が過ぎても周知は進まず、移行は全国でわずか100件程度にとどまっている。

 例えば3人が1億円ずつ出資して設立した医療法人の資産が、その後の経営で15億円まで増えた場合、各出資者は退社する際に3分の1に当たる5億円ずつの払い戻しを受ける権利(持ち分)を持つ。ただ、法人の資産は現金以外の建物や設備なども含まれ、急に5億円を支払えば法人の経営が立ちゆかなくなる恐れがある。

 ■事業継続に支障

 出資者が死亡した場合も同額が妻や息子などに相続され、親族は相続税を現金で支払わなくてはならなくなる。現金を用立てるために医療法人が建物や設備を売却すれば、その後の事業継続に大きな支障が生じる。一方、出資者や相続人が持ち分を放棄すれば法人への贈与と見なされ、多額の贈与税が法人に課されることになる。

 これらのリスクは医療機関の廃業にもつながりかねず、政府は07年の医療法改正で新設する法人の出資持ち分を廃止した。これにより、資産の増加にかかわらず払い戻しは多くても出資額までに限られた。07年以前に設立された法人については、一定の要件で持ち分放棄に伴う贈与税を免除するなどして、持ち分なし医療法人への移行を促してきた。

 県東部の医療法人は昨年、持ち分なし医療法人に移行した。同法人の理事長によると資本は投資額の約30倍に増加し、持ち分を子供に相続した場合は「個人で払えない額の税金が課される」と頭を悩ませていたという。「移行できて安心した。病院を今後も続けていくには必要な手続き」と語る。

 ■1年半で99件 

 ただ、医療法改正から10年以上が過ぎても移行は思うように進んでいない。厚生労働省によると、18年3月末で全国にある5万3575の医療法人のうち、持ち分が残る法人数は3万9716。厚労省は17年10月から3年間の期限で移行に伴う贈与税の非課税要件を大幅に緩和したものの、1年半でわずか99件の移行にとどまっている。目標の「3年で千件の移行」にはほど遠く、担当者は「セミナーを各地で開いているが、周知はまだまだ必要」と制度の普及に力を入れる。

 講演会などで周知活動を続ける河合医療福祉法務事務所(浜松市北区)の河合吾郎代表は、持ち分なし医療法人への移行を「地域医療を守る視点で大きな意味を持つ」と指摘する。3年の期限も半分が経過し、「非課税要件が将来どうなるかは分からない。今なら間に合うので、まずは制度をしっかり認識して移行を検討してもらいたい」と呼び掛けている。

 (浜松総局・金野真仁)