行政主導の性急な改革があだに

2019.02.07

【第1特集 病院が消える】--行政主導の性急な改革があだに--大混乱! 新潟県魚沼の教訓
2019.02.09 週刊東洋経済 


【第1特集 病院が消える】

行政主導の性急な改革があだに

大混乱! 新潟県魚沼の教訓

 魚沼基幹病院(454床)は、新潟県の魚沼地域で高度急性期・3次救急を担う拠点として2015年に開院した。新潟県が設置し、一般財団法人・新潟県地域医療推進機構が運営する。

 1月のある朝の9時。広くて真新しい待合室は外来患者でごった返していた。「2時間も待たされた。予約なしだったとはいえひどい」。受付の奥にある、意見や苦情を掲載するボードにそんな怒りの声があった。予約も紹介状もなく来る患者も多そうだった。

 新潟大学医歯学総合病院の院長をしていた内山聖氏が、魚沼基幹病院長のポストを県から打診されたのは病院設置まであと2年に迫った13年だった。

 魚沼基幹病院は地域で手薄だった高度医療を行う拠点として計画された。魚沼市を中心とする医療圏には3次救急(重症患者対応)を担う病院がなく、県がその設置を急いでいた。一方で、県立と市立の病院が4つあり、医療圏全体で病院床削減と機能分化が課題だった。

 魚沼のケースは、再編による規模縮小と高度医療の提供を一挙に狙い、「地域医療構想のモデル」として全国からも注目された。

 内山氏は、そうした医療構想に関わることもなく、要職に担がれることになった。状況がのみ込めないまま、慌ただしく医師の採用や住民向けの説明会を行った。

 ところが準備不足は拭えなかった。単に「新しい病院ができた」と認識した住民は、重症度にかかわらず魚沼基幹病院に殺到することになった。

 軽症患者を診療する1次医療を担う診療所や小規模の病院と、高度医療を行う魚沼基幹病院とは役割が違う。だが内山氏によると、事前に明確な業務の線引きはなされなかったという。そのため医師たちは訪れた患者一人ひとりを丁寧に診察した。稼働中のベッドはすぐに埋まりがちとなった。

 割を食ったのが高度急性期医療を本当に必要とする患者だった。「基幹病院に患者を紹介したら断られた」(開業医)。「(魚沼医療圏にある)越後湯沢のスキー場で骨折した患者が、基幹病院は満杯だからと群馬県の病院に連れていかれた」(ある医療関係者)。

 内山氏は「周辺の病院も満杯なので、転院もうまくいっていない」と釈明する。住民が高齢化して在宅の介護がしにくくなっており、介護の受け皿がなくなっていることが背景にある。「そうした問題があることは、急性期病院の再編案だけを描いた行政の構想を見ても、考慮されていなかった」(内山氏)。

 看護師の採用は県が担うことになっていた。当初案では県立病院からの派遣中心に380人が集められる計画だった。だが最初は270人しか集まらなかった。現在は採用が進んだが、習熟度の問題もあり、ベッドはまだ454床の7割しか実働させられていない。18年度に予定していた単年度黒字化は、20年度以降に後ろ倒しとなった。

 現場の混乱と多忙の中、昨年、新潟大学から派遣されていた循環器内科の常勤医が一斉に離職し、一時は循環器の急患受け入れ停止を余儀なくされた。

 「こんな状態で医療ミスが発生していないのは幸いだ」と内山氏は話す。だが、事前に現場や地域住民を巻き込みながら構想を練っていたら、混乱は抑えられただろうと内山氏は言う。行政主導での性急な再編に、医療者も住民も巻き込まれた形だ。

(井艸恵美、西澤佑介)


東洋経済新報社