病院淘汰時代は始まっている

2019.02.07

【第1特集 病院が消える】--病院淘汰時代は始まっている--統合で成功した酒田市 機能分化で生き残り図る
2019.02.09 週刊東洋経済 


【第1特集 病院が消える】

病院淘汰時代は始まっている

統合で成功した酒田市 機能分化で生き残り図る

 人口減少が加速する地方都市では、患者の減少や医師不足によって、現在あるすべての病院がこのまま存続するのは難しくなっている。

 医療人材の効率的な配置や患者の無用な奪い合いを避けるため、全国各地で病院統合の動きが本格化しつつある。下の図は各地で検討されている、地域を代表する病院の統合だ。公立病院だけではなく、JA厚生連や赤十字など準公的病院、企業が設置する病院なども含まれている。

理事長が粘り強く調整 国の施策も追い風

 統合の成功例とされているのが山形県酒田市にある2つの公立病院の統合だ。2008年、似通った機能の病院を1つにした。さらに現在では地元の開業医を巻き込み、医薬品でも統一的な基準を設けてコスト削減に取り組んでいる。

 地方独立行政法人、山形県・酒田市病院機構。今から11年前、市立酒田病院(400床)と県立日本海病院(528床)が統合し、日本海総合病院(646床)が設置された。その経営主体である。

 統合前、酒田市では2つの公立病院が並立していた。旧市立病院は約50億円の内部留保があるほど経営が安定していたが、旧県立病院は慢性的な赤字で、約100億円の欠損金を抱えていた。

 公共インフラとして県立病院の立て直しを図りながら、どう地域医療を維持するのか。その答えが2つの病院を統合しつつ病床の機能分化を徹底し、経営改善を目指すことだった。統合以来、日本海総合病院は黒字が続いている。

 「統合しなければ共倒れになってしまう」

 当時、危機感を抱き、統合の中心となったのが、旧市立病院長で現在、病院機構の理事長を務めている栗谷義樹医師だ。地元自治体や山形大学医学部、医師会などと粘り強く調整し、統合までこぎ着けた。

 日本海総合病院は旧県立病院の建物を使い、ここに急性期機能を集約化した。旧市立病院は治療後のリハビリや療養に対応する病院(114床)になっている。役割を分けることで業務が効率化し手術件数が増加した。医師も統合前の105人から157人まで増えている。

 栗谷氏によると、日本海総合病院で統合がうまくいったのは国の施策も追い風になったという。総務省は07年、公立病院が経営改善に取り組むよう、「公立病院改革プラン」の策定を自治体に求めた。その中で目指すべき重要項目の1つが、病院の統合や役割分担を見直すことだった。

 旧市立病院は黒字を維持していたものの、その当時検討されていた病棟の建て替え案に、市当局は必ずしも前向きではなかったという。栗谷氏は建て替えよりも統合を進めることに方針を変え、経営改善と機能分化の道を選んだ。

 さらに国は13年には地域医療の再編を促す「地域医療構想」を打ち出し、地域での医療資源の最適な配分を求めた。各地で病院の統合プランが検討されているのは、国の施策を反映したものだ。

病院が存続できず診療所に改組

 酒田市の病院機構は昨年4月、市立八幡病院(46床)を編入し、八幡病院は診療所として再スタートした。もともとこの病院は酒田市と合併した旧八幡町の町立病院。人口減少と医師確保の難しさから経営が悪化しており、16年は酒田市から1億7000万円を繰り入れても3000万円の経常損失を出していた。

 栗谷氏は、「人件費比率が80%を超えていて存続が不可能な状態だった。よく『地域の医療を守るため』ときれい事で病院を存続させようとするが、個別最適化を積み重ねても地域全体の医療が守れるとは限らない」と指摘する。

 酒田市では、病院の統合に加え、別の大きな動きが起きている。それは開業医を含め地域の医療コストを下げる動きだ。昨年、地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」が設立され、日本海総合病院を中心に医療機関や医師会、薬剤師会の連携が強化された。

 地域連携推進法人は17年から始まった制度で、医療機関や介護施設が参画し、病院の再編や医師の配置変えなど病院間の連携を促す業務を担う。注目されるのは、薬剤費の抑制のため共同購入が可能な点だ。加盟する医療機関を一つの法人のように見なし、地域内での共同購入ができるようになる。

 日本海ヘルスケアネットでも共同購入を予定している。しかし、「それよりも重視しているのは、処方する薬の種類を定める規定を作ることだ」と栗谷氏は強調する。

 薬剤の効果が劣っていなければ、価格の低い後発薬(ジェネリック薬)に切り替えようとしている。昨年11月から胃潰瘍などに使われるプロトンポンプ阻害薬と、糖尿病で使用されるグルコシダーゼ阻害剤という薬で、推奨するメーカーの製品を定めた。薬の処方権はあくまで医師にあるが、推奨する薬を取り決めることで価格の低い薬の使用が広がる。

 地域連携推進法人は、現在全国で7つある。こうした病院間の統合と連携は膨張したコストの抑制の切り札となるかもしれない。

 次の記事では、混乱する新潟県魚沼地域の病院を取り上げる。

[図表]同一地域に同じような病院が並立 ─全国における    主な統合検討事例─

[写真]山形県・酒田市病院機構理事長で日本海ヘルスケアネット代表理事の栗谷義樹氏(左)。日本海総合病院は統合以来、黒字経営が続いている

東洋経済新報