「病院大淘汰」都心立地ですら安泰じゃない過酷

2019.02.06

「病院大淘汰」都心立地ですら安泰じゃない過酷/実需次第で再編すれば今の半分でも成り立つ
2019.02.04 東洋経済オンライン ビジネス  


井艸 恵美:東洋経済 記者





「医は仁術」というが、経営が安定しなければ医療の質は保てない。赤字経営を放置すれば、病院の存続自体が危うくなる。
2月4日発売の『週刊東洋経済』は、「病院が消える」を特集。人口減少や医師不足、コスト上昇で病院の経営は厳しい。診療中止や民事再生に至った病院を追っている。

今年1月、東京都中央区の石川島記念病院は白い仮設の壁で囲まれていた。

壁には診療中止を知らせる貼り紙があり、道行く近隣住民が足を止めて眺めていた。近くのマンションに住む女性は、「自分もかかったことがあるが、休院とは知らなかった」と驚く。




この病院は47床の入院病床があり、内科や整形外科、心臓病センターなどの診療科を設けていた。が、昨年12月から経営悪化を理由に診療を休止していた。近くに住む男性は、「突然診療をやめて困っている。この地域は高齢者が多いが、整形外科が少ない。腰を痛めた母親が通っていたが、ほかの病院を探さなければいけなくなった」。また、中央区に3つある2次救急指定病院の1つだったが、9月から救急患者の受け入れも中止していた。
中央区医師会の遠藤文夫会長は、「廃止は寝耳。医師会にも直前まで連絡がなかった。中央区は治療後のリハビリや療養が必要な患者に対応する病院が不足している。石川島記念病院は、こうした患者の受け皿になっていた」
昨年9月、病院側から東京都に連絡があった時点で、病院は休止ではなく廃止の予定だった。石川島記念病院は、もともと大手重工業メーカー・IHIの健康保険組合が運営していた病院だ。それが2012年、医療法人社団健育会に特例で譲渡されていた。それにもかかわらず、たった6年で休止になったのだ。病院に対し東京都は再開を要請しているが、都の担当者は憤りを隠せない。
「健育会に引き継がれたのは、特例措置だった。本来なら病院を廃止したうえで開業という流れになるが、この地域はすでに病床数が多かったため、新しい病院を設立できなかった。しかし、『地域医療を守る責任を果たす』という条件で、特例的に引き継ぎが認められた」 




『週刊東洋経済』は、法人の直近3期分の財務諸表を入手した。2015年は約5億円の最終赤字、2016年は約1200万円の黒字を出しているものの2017年は17億円の最終赤字に転じていた。健育会は石川島記念病院以外にも、板橋区の竹川病院や静岡県の熱川温泉病院、神奈川県の湘南慶育病院など7病院を運営している。健育会の担当者は、病院ごとの財務の詳細は明かせないというが、石川島記念病院について「2014年に新設した心臓病センターが地域のニーズに合わず、患者が集まらなかった」と説明した。
この病院の元職員は、こう実情を明かす。
「診療中止には驚かなった。石川島記念病院の赤字によって法人が運営する他の施設の黒字を帳消しにする状態だった。もともと高齢者向けのリハビリや療養の病院に強い法人で、心臓病治療に関しては素人。近くに聖路加国際病院などの有力病院がある中で、素人集団が心臓病センターを構えても儲からないのは当たり前だ。心臓病を手術する医師とのつながりがないから有力な医師を確保できず、周りの診療所からの紹介も得られない」
東京都と医師会からの要請を受けて同院は、心臓病治療からリハビリや整形外科を中心にした診療に切り替えて、今年9月以降に再開を予定している。
病院数が過剰な日本、再編と淘汰の時代へ
この病院のように地域のニーズを見誤れば、たちまち経営が傾いて存続不可能になる。個別の経営だけが問題なのではない。日本は、世界の中で圧倒的に病院数が多い「病院過剰」国だ。人口当たりの病院数は、OECD(経済協力開発機構)加盟国中2位。しかも、患者数(人口)は長期的に減少する。一方で、人口当たりの医師数はOECDの中で26位と、医師の数は多くない。 
日本病院会の相澤孝夫会長は、「日本の病院は天空の城」だと言い切る。「地上で何が起こっているかは見ていない。アンバランスな供給体制を実需に合わせて再編すれば、病院は多くても今の半分の4000病院あれば成り立つ」。
厚生労働省は地域医療体制の再編を目指す「地域医療構想」を掲げ、人口動態を基に2025年のあるべき日本の病床数を試算した。それによると13年度対比で約15万床過剰とされている。多くの地域で再編と淘汰は避けられない。
日本の病院経営は厳しい。医療法人は全体の約34%が赤字経営だ。自治体立病院は自治体からの繰入金を含めなければ約9割が赤字、含めても約6割が赤字である。
社会保障費抑制の流れを受けて、医療サービスの価格(診療報酬)は伸びない。だが消費増税によって病院側のコスト負担は増えた。患者が支払う医療費には消費税がかからないが、薬剤費など病院が払うコストには消費税がかかるためだ。
追い打ちとなるのは、働き方改革関連法だ。医師への本格的な適用は2024年4月からだが、これまで青天井だった医師の時間外労働が是正されることになる。年々低下してきた利益率がさらに圧迫されると予想される。コスト削減や業務の効率化など生産性を上げる努力が急務である。
患者減少、医師不足…消耗戦の末共倒れに
2017年に民事再生法の適用申請に至った岐阜市の医療法人社団誠広会は、医師不足と患者数の激減が経営悪化の一因となった。この法人が運営する岐阜中央病院は、ピーク時の2008年は年間11万人だった患者数が6万人まで激減した。「最盛期は警備員が必要なほど駐車場が埋まっていたが、最後にはがら空きになった」と元職員は話す。
大学病院から派遣されていた医師が徐々に引き挙げられ、内科の医師は2人にまで減っていた。周囲の診療所から患者を紹介されても入院を受け付けられず、別の病院に紹介するという事態まで起こっていた。「残った常勤医師は70代。372床の病床数はとても回せない。いつまでもつかという状況だった」(元職員)。
現在は医療法人清光会に譲渡され、岐阜清流病院として再起を図っている。清光会理事長の名和隆英医師は、「急性期病院から回復期に移行する患者の受け皿となるように、リハビリ機能を強化している」と話す。名和医師は元大学病院の勤務医で、大学とのつながりが強い。医師の確保に尽力し、現在は徐々に患者が戻ってきているという。




日本は急病や重症患者に対応する急性期の病院が多い。地方都市では急性期の病院がひしめき合っているが、実際は患者数上位の5~6病院が大部分のシェアを占めている。中位以下の病院は現在のままの病院形態に固執すると生き残りが難しい。郊外ではすでに上位の病院でも患者数減少が始まっている。今後も消耗戦を続ければ、共倒れしかねない。
「命のために」という大義があっても、すべての病院は生き残れない。病院大淘汰の時代が迫ってきている。
『週刊東洋経済』2月9日号(2月4日発売)特集は「病院が消える」です。