社説 勤務医の残業規制 これでは過労死防げぬ

2019.01.21



社説

勤務医の残業規制

これでは過労死防げぬ

 2024年度から勤務医に適用される残業規制について、医師の働き方改革を議論している厚生労働省の有識者検討会が今月、制度案を示した。

 救急や周産期、高度のがん治療などを担う医療機関に限り、35年度末までは特例として年1900~2千時間の残業を認めるという。

 勤務医の上限は原則、年960時間と示したものの、それでさえ1カ月当たりでは80時間に達する。脳・心臓疾患の労災認定基準である「過労死ライン」に等しい。その倍以上に当たる残業まで、特例とはいえ認めるというのだから、もはや「歯止め」とは呼べない代物というほかない。

 過労死や過労自殺につながる長時間労働を食い止める―。それが、まさしく昨年6月に成立した働き方改革関連法の本旨だったはずだ。勤務医の心身を守るために、政府は検討会案を差し戻すべきである。

 それにしても検討会はなぜ、誰の目にも法外と映りそうな目安を打ち出したのだろう。

 あくまで緊急避難、激変緩和の措置だと指摘する声が聞こえる。とりわけ医師不足の目立つ中山間地域では対応しきれず、地域医療が崩壊しかねないとの懸念が強いだろう。

 勤務医の長時間労働が、懸け離れており、一般労働者並みの規制を一律に当てはめるのは無理との受け止めもあろう。本年度版「過労死白書」も、過労死の目立つ業種として医療を教職員などと共に特別調査の対象に挙げている。

 厚労省によると、病院勤務医の1割余りは、年換算で1920時間以上の残業に追われている。そんな医師のいる割合は病院全体の3割近くに上り、救命救急センター機能を持つ病院では約8割、大学病院では9割近くを占めるという。

 本紙くらし面の連載企画「お医者さんとどう向き合う?」でも、翌朝まで2日間の当直で28時間以上働き続ける救急医の姿を追っていた。診療を求められると原則拒めない医師法の応召義務規定だけでなく、「患者のために」といった尊い使命感のなせる業だろう。

 しかし、長時間労働は医師本人の健康を損なうだけではない。医療過誤まで引き起こしかねない。そうしたリスクは確実に摘み取る必要がある。

 そもそも、勤務医の数は足りているのだろうか。

 医学部不正入試問題では、女子を不利に扱ってきた不公平が明るみに出た。日本における女性医師の比率が15年時点で経済協力開発機構(OECD)加盟国中、最低の20%にすぎないのも既得権を持つ男性医師がつくり出した「現実」とも映る。入学定員も見直されていい。

 仲間である勤務医の苦境に、地域の医師会や開業医がどんな手を差し伸べられるだろう。都市部に医師が集まって中山間地域には手薄という地域的な医師の偏在、あるいは診療科目の人気、不人気といった偏りなど、未解決の問題も少なくない。

 医療の立場から、地域社会をどう支えるか。時間配分の「働き方」改革にとどまらず、医師や医療の質を問い直す「在り方」改革こそが望まれよう。

 もちろん、私たち患者も地域医療を変える一員であることも忘れてはなるまい。

中国新聞社