【特集】広がる「産後ケア」=核家族化に対応、乳児虐待予防も視野─働く母親の「職場復帰」支援にも

2018.11.27


【特集】広がる「産後ケア」=核家族化に対応、乳児虐待予防も視野─働く母親の「職場復帰」支援にも
2018.05.15 厚生福祉
 核家族化や出産の高年齢化などを背景に、子どもを産んだ母親をサポートする「産後ケア」のニーズが高まっている。いわゆる「産後うつ」や乳児虐待の予防策としても必要性が指摘されており、国は施策の充実に力を注ぎ、自治体の取り組みも広がっている。

 民間団体が進めている「産後ケア教室」にも注目が集まっている。出産後も仕事を続ける女性が増える中、「スムーズな職場復帰」の観点からも産後ケアは重要。出産でダメージを受けた心身のリハビリを行うことで、仕事と子育ての両立に不安を抱える人たちを支えている。

【「助けてくれる人」が減少】

 「産後の女性の体は、全治1カ月の負傷状態と同じ」などといわれ、特に子どもを産んで1カ月ぐらいは、体の回復を最優先に過ごすべきだとされる。しかし、体を休めたくとも、家の中に手助けしてくれる人がおらず、実家の親も高齢で頼ることができないなど、出産後の母親を取り巻く環境は厳しくなっている。

 厚生労働省母子保健課によると、出産時の入院期間も短縮傾向で、以前の平均7日間ぐらいから同5日間程度に減っている。「病院ではもちろん、新生児のケアなど基本的なことは教えてもらい、十分な対応を受けている」のだが、自宅に戻ると助けてくれる人が少ないため、「不安を持っているお母さんは多い」のが現状だ。

 「妊娠期から子育て期まで、切れ目のない支援」を目指す同省は、2014年度に産後ケアのモデル事業、15年度からは産後ケアを進める市町村に補助する事業をスタートさせた。

 対象となる母親は、(1)出産後に身体的な不調、回復の遅れがあり、休養が必要(2)授乳が困難(3)出産後に心理的な不調があり、身近に相談できる人がいない(5)家族などから十分な育児や家事の支援が受けられない──などの状況を考慮し、市町村が決定する。

 ケアの実施担当者については、「助産師、保健師、看護師を1人以上置くこと」とされている。実施方法は、利用者を宿泊させて行う「宿泊型」、来所によって個別または集団で行う「デイサービス型」、利用者の居宅を訪問する「アウトリーチ型」のいずれか。16年度末時点の実施市町村は179で、18年度はさらに増える見通しだ。

【ホテルでのケアも】

 14年度から産後ケア事業を推進している群馬県館林市。出産できる施設が個人開業の産科診療所1カ所のみで、市外の医療機関で出産する人が増えているという。「出産時の入院期間が短く、母乳育児や新生児との生活に不安を抱えたまま退院となる産婦が多い」ことが、同市にとっても課題だった。

 同市の産後ケアは「デイサービス型」で、市内の公立館林厚生病院と同県太田市にある助産院の2カ所で実施。利用者負担は1割の2000円、昼食も提供される。授乳や沐浴(もくよく)、育児に関する相談・指導、母体のケアや休息などが主な利用内容で、助産師が対応。同助産院では、母乳育児に力を入れているという。

 利用者数は、16年度実績で厚生病院が延べ250人、同助産院が119人。利用者からは「赤ちゃんが母乳をよく飲んでくれるようになった」「ゆっくり休めてよかった」「ちょっとしたことも気軽に相談できて安心」などの声が聞かれるという。

 同じく14年度から実施している千葉県浦安市は、転出入が多い地域で「子育て世代の9割が核家族世帯、身近に支援者がいない状況」だ。デイサービス型の「個別タイプ」2カ所、同「集団タイプ」1カ所に加え、東京ベイ・浦安市川医療センターと順天堂大学医学部付属浦安病院の2カ所で「宿泊型」も行っている。

 宿泊型は、1日当たりの自己負担額が3000円で、いずれかの施設1回、6泊7日までの利用が可能。16年度利用者は62人だったが、「親が高齢、または病気のため頼ることができない高齢初産婦が多い」という特徴があるという。

 デイサービス型の個別タイプは、市内にあるホテルの客室を利用。自己負担額は4000円だが、リラックスした雰囲気で、助産師と一対一で向き合うことができ、市民の好評を得ている。「初めて自分だけの時間を持てた」「他人には話せない悩みを話すことができた」などの感想が寄せられているそうだ。

 個別タイプの利用者は16年度で約200人。一方、市内の助産院で実施されている集団タイプは1人7回まで利用可能で、同年度の利用は1140回に上っている。利用者からは「子育て中の人と話ができてよかった」などの声が上がった。

【産後メンタルヘルスで健診助成】

 出産後の母親は、育児への不安やストレス、生活の変化からうつ状態に陥りやすいとされ、厚労省の調査(13年)によると、11人に1人が産後うつを経験。同省の研究班の報告では「初産婦の場合は、うつのリスクは産後2週間で最も高くなる」などとしている。

 出産後の女性の心と体のヘルスケアに取り組むNPO法人「マドレボニータ」(東京都渋谷区)は16年、約1000人の産後女性を対象に産後うつに関連したアンケート調査を実施した。その結果、産後うつと実際に診断を受けた人は4.6%だったが、30.4%が「診断は受けていないが、産後うつだったと思う」、46.7%が「産後うつの一歩手前だったと思う」と回答。8割以上が精神的に何らかの変調を来たしていたという状況だった。

 「産後のメンタルヘルス」の観点から同省は昨年度、「産婦健康診査」を新規事業として盛り込んだ。産後うつの予防、虐待の未然防止も視野に、産後の健診の費用を助成するものだ。助成対象となるのは、産後2週間と1カ月の2回の健診で、それぞれ5000円が上限。国と市区町村が半分ずつ負担する。

 産後の健診にはこれまでも、出産した病院での「1カ月健診」などがあるが、新生児の成長の確認が中心となっている。新たな産後健診は「母体の身体的機能の回復、精神状況の把握」が主目的。健診実施機関は結果を市区町村に報告し、「支援が必要」と判断された母親については、適切な産後ケアが受けられるようにする。

【筋力アップ、心肺機能の回復がカギ】

 「妊娠出産には行政も本当に手厚いのに、産後の母親に対しては、体のケアも心のケアも十分ではない」と、マドレボニータ代表の吉岡マコさん(45)は強調する。吉岡さんは大学院で勉強していた25歳のとき、妊娠出産を経験。思ってもみなかった体の変化、ダメージに悩み、産後の身体機能を回復させるための産後ケアの必要性を痛感したという。

 吉岡さんは、東京大の文学部で身体論を学んだ後、「もっと生身の体を扱う学問を勉強したい」と同大学院の総合文化研究科に進み、身体運動科学を専攻した。出産後、それまでの研究も生かし、出産でダメージを受けた身体機能を回復させるためのプログラムを開発。「産後のボディーケア&フィットネス教室」を立ち上げた。

 07年11月にマドレボニータを設立し、08年2月にNPO法人として登記。現在は全国約60カ所で、産後2カ月から1年ぐらいの人を対象に、産後ケア教室を展開している。120分のレッスン4回が1セットで、体への負担が少ないバランスボールを使った有酸素運動で筋力を鍛え、心肺機能の強化を目指す。参加者同士で人生や仕事について語り合う時間も設け、「心のケア」にもつなげている。

 マドレボニータは同教室に加え、東京都の文京、北、葛飾3区が開催する教室に、インストラクターの派遣などもしている。それら単発開催も含め、産後ケア教室への参加者は年間約1万人。

 「『ママさん体操』と、娯楽みたいに捉えられることもあるが、すべての母親に普遍的に必要」と吉岡さん。行政や企業の理解を得て、すべての母親が産後ケアの機会を得られるよう、取り組んでいきたいとしている。

【「育休期間を有意義に」】

 産後ケア教室の利用者の8割は、育児休暇中の女性だ。吉岡さんによると、体のダメージを回復させないまま生活を続けると、子育てが楽しめず、イライラや不安感が募り、社会復帰への意欲も湧かなくなる。一方で「早い時期に体と心のケアをすれば、育休期間も有意義に過ごすことができる」。

 「腹筋はこの時期、感覚がなくなるまで鍛えないと回復しません」。18年3月中旬、東京・吉祥寺の教室ではインストラクターの指導の下、産後4カ月から1年の10人が、音楽に合わせ汗を流していた。ほぼ全員が子ども連れで、膝の上に子どもを抱えたまま1時間に及ぶエクササイズに励む姿も。いずれも育休中だが、復職間近の人もいて動きに熱がこもっていた。

 5カ月前に第2子を産んだ会社員の女性(42)は「産後は、無理をしてでも何かしなければと思った」と言う。第1子のときは産後8カ月で復職した。今回は教室に3カ月以上通ってトレーニングを積んでいる。職場は忙しく、2人目を産んで復職した女性はほとんどいないが、「自分の働き方で後輩女性に道を開きたい」と前向きだった。

時事通信社