松本市、4年連続市立病院赤字 地域医療の基盤、再生模索  波田地区移転新築計画の一方で 目の前の経営改革優先 

2018.11.20


リポート=松本市、4年連続市立病院赤字 地域医療の基盤、再生模索  波田地区移転新築計画の一方で 目の前の経営改革優先 
2018.11.19 信濃毎日新聞朝刊 


 松本市波田にある市立病院の経営が厳しい状況にある。2010年に旧波田町が松本市に編入合併したのに伴い町営から移行。現在市が経営する唯一の病院だ。「平成の大合併」で編入した旧町村部の市西部地区への医療を主に担っているが、入院、通院とも患者が減少傾向、4年連続の赤字経営に陥った。市は老朽化に伴う建物の移転新築計画を2年ほど先送りし、経営改革に集中する考えだ。「健康寿命延伸都市」を掲げ、県外からも注目されている松本市。旧村部にある市立診療所との連携強化も懸案だ。周辺部の地域医療を支える基盤の早期再生が求められている。

(木暮有紀子、百瀬平和)

 「発達は順調ですね」。市立病院で生後1カ月の定期健診があった13日、津野隆久副院長(60)が母親に話し掛けた。長女を連れて訪れた同市安曇の主婦(25)は「近くで産科と小児科がそろうのは市立病院だけ。長男もここで出産しました」と話した。

 平成の大合併で松本市に編入した旧5町村のうち、市西部地区の波田、梓川、奈川、安曇の旧4町村は人口計約3万人。西部地区で出産できる施設は他になく、17年度の新規入院患者のうち、26%が産科か小児科の患者だった。地域にとって欠かせない病院との認識は根強い。

 現在の建物は完成から30年余が経過した。手狭で老朽化が進み、市は波田地区内で移転新築を計画。緩和ケア病棟も新設する予定で、22年10月の新病院開設を目指していた。

 だが病院事業会計は14年度以降、赤字決算が続き、17年度も経常収支では2億1300万円余の赤字に。累積赤字は5億円を超えた。14年度の診療報酬改定で長期入院患者を受け入れられず、病床利用率は10年度の83%から14年度は66%に落ち込み、17年度も70%と低迷。外来患者も減少傾向だ。

 病院改革を優先せざるを得なくなり、市は9月下旬の住民説明会で新病院建設について「2年ほど遅れる可能性がある」と説明。一方で現施設でも10月から病床数を215床から199床に削減し、かかりつけ医としての機能を持つ在宅療養支援病院に転換した。生活習慣改善のための指導管理料などを診療報酬として請求でき、年間約1億円の増収を見込めるとする。

 ただ、患者に医療機関として選択してもらうための他の具体策はこれからだ。

 松本市はもともと旧市域に信州大病院や相沢病院をはじめとする総合病院が多く、医療機関が充実。市は病院経営に関わる必要がなかった。それが、合併によりこうした病院との競合も踏まえる必要が出てきた。

 市は市立病院の経営改革について指導、助言する特命参与として諏訪赤十字病院(諏訪市)名誉院長の小口寿夫氏(76)を9月から起用。小口氏は医師や職員から、患者に選ばれる病院とするためのアイデアについて聞き取りを始めた。小口氏は、地元患者を幅広く受け入れるのが鍵とし「医師会などと連携しつつ西部地区に医師らが出て行き、入院する際などに選んでもらえる病院にすることが大切だ」とする。

<合併した旧村部の診療所 連携強化、市全体見据え>

 今月上旬、紅葉に染まる山々に囲まれた市奈川診療所。「足の痛みはどうですか」。虎走(こばしり)英樹所長(52)が患者に声を掛けた。

 人口約700人、高齢化率49%超の奈川地区で唯一の医療機関。虎走所長は「行財政的に効率的かどうかではなく、住民に必要とされているからこそ仕事をしている」。地元の奥原ちなみさん(62)は「いつでも診てもらえる。地域に医師がいるだけで住民の気持ちは違う」と話す。

 05年の4村編入を受け、市は複数の小規模の診療所も運営するようになった=地図。

 移転新築に向けて市立病院の機能などを議論した建設検討委員会(委員長=杉山敦・市医師会長)は17年6月、中山間地の住民に必要な医療を提供するため、安曇・奈川地区の5カ所の市立診療所と、四賀地区の会田病院(現四賀の里クリニック)の支援体制を構築するよう提言した。

 旧村部の市立診療所は、健康福祉部が安曇・奈川地区の5診療所と四賀地区の錦部歯科診療所を、病院局が四賀の里クリニックを所管。縦割りによる運営はコスト面で非効率だとして、市は組織統合に向けた検討を進めている。

 健康福祉部は、統合による経営効率化について「人材確保や経費縮減、在宅医療支援の観点からも有効」(樋口浩部長)との姿勢だ。虎走所長は「今も市立病院のサポートを受けているが、病院局とより一体的になれば心強い」と受け止める。

 一方、市立病院の奥原広幸事務長(59)は「将来的な統合は想定している」としつつ、「目の前の市立病院の経営改革が最優先。診療所を多く所管した場合の経営上の問題も整理しなければならない」とする。

 地域の医療福祉に詳しい信州大の井上信宏教授(52)=社会政策=は、地域の結び付きや「遠隔診療」などの技術革新を踏まえ、特に市立病院と地理的に近い奈川・安曇地区の各診療所との連携強化の必要性を指摘。「市全体を見据え、医療格差が生じないよう調整できるかが問われている」としている。

 [松本市立病院]

 国保直営診療所が前身で、1985(昭和60)年に旧波田町の波田総合病院として現在地に建設。2010年の松本市への編入合併を経て12年に現在の名称になった。病院職員は430人。このうち医師は非常勤の10人を含む40人。産科、婦人科、内科、小児科など27科ある。17年度の新入院患者のうち48%は波田、安曇、奈川、梓川の市西部地区の住民。山形村と朝日村の利用者も計16%を占め、市西部地区以外の松本市や塩尻市、安曇野市の利用者もいる