読み解く=患者不利益 是正へ一歩 九大病院2外科統合へ 情報共有不足 専門医手薄に 改革 全国に波及も

2018.10.18


読み解く=患者不利益 是正へ一歩 九大病院2外科統合へ 情報共有不足 専門医手薄に 改革 全国に波及も
2018.10.17 


 「患者にとっての分かりにくさ」「診療分野の重複による無駄」「不十分な意思疎通」…。九州大病院(福岡市東区)の二つの外科の存在は、数々の弊害を生み、統合の必要性が指摘されてきたが、100年以上続いた伝統やしがらみもあってなかなか実現しなかった。外科医不足などの現実に地方の大学病院が統合を迫られる中、九州最大の大学病院である九大病院で改革が成功すれば、全国的にも大きな影響を及ぼしそうだ。 【1面参照】


 二つの外科の弊害は、群馬大病院で同じ男性医師の手術を受けた患者が相次いで死亡した問題を機に注目された。2009年度、当時の第二外科所属の男性医師による肝臓切除手術などを受けた8人が死亡。しかし、手術を一時休止しただけで改善策を取らないまま継続した。病院の調査では計30人の死亡が明らかになった。

 第三者調査委員会の報告書が問題点の一つとして指摘したのは、第二、第一外科間の「潜在的な競争意識」。第二外科の肝胆膵(すい)チームは手術を男性医師だけに頼る脆弱(ぜいじゃく)な体制だったが、同分野のチームを持つ第一外科への競争意識で独立した診療体制を取り続け、死亡事例の情報共有もされていなかったという。

 この問題などを受け、九大を含む国立大学付属病院長会議は15年の緊急提言で「同一術式を院内の複数の外科系診療科(第一外科、第二外科など)で行うことは、古くは競争を促すという目的で始められた」とした上で「グローバル化の進んだ現在ではその意義はほとんどなく、むしろ、標準的治療からの逸脱、有害事象の隠蔽(いんぺい)や情報共有の障害、人材の分散など、患者にとって不利益を生じることが多い」と指摘した。

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 医療の質を高め合う目的だったはずが「足を引っ張り合う存在」ともなった二つの外科。九大病院も例外ではない。

 消化管、呼吸器、乳腺などの診療分野が重複し、患者には分かりにくい。両外科それぞれの関連病院も決まっており、例えば、第一外科の関連病院は、第一外科にしか患者を紹介しないという。「二つに分かれているとそれぞれの専門医も手薄になり、関連病院から紹介された患者を経験不足の若手が手術しないといけないケースもありうる」(九大病院出身医師)と危ぶむ声もあった。

 「手術での縫合の方法や器具の持ち方も違う」と言われるほどそれぞれが独立し、意思疎通も十分でなかった。同病院出身の外科医は「別の外科に指導を仰いだだけで『どうしてよそで指導を受けるんだ』と教授からこっぴどく叱られたこともあった」と話す。

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 九州では既に外科を統合する流れはある。九州の9大学病院に取材したところ、久留米大や福岡大、宮崎大など大半で臓器別や疾患別に診療科を改編していた。

 宮大病院では15年に二つの外科を統合した上で、五つの臓器別診療科に再編。教授2人が全体を管理している。宮大医学部の中村都英(くにひで)教授(心臓血管外科)によると、外科医不足が叫ばれる中「外科志望の若手医師がどちらかを選ぶ必要がなくなり、外科に人が集まりやすくなった」。特に「消化管・内分泌・小児外科」は診療が重複していた分野で「統合により若手医師が幅広い症例を診られるため、医療の質の向上につながっている」と話す。

 医療現場では医師の働き方改革、地方の医師不足や偏在など、大きな課題に直面している。影響力の大きい九大病院で始まった改革が、九州全体の地域医療の改革にもつながることが期待される。

 (吉田真紀、宮崎拓朗)


 ●「任期2年半で道筋を」 第二外科 森正樹教授の一問一答

 1日付で九州大の第二外科教授に就任した森正樹氏(62)=写真=は、2008年から今年9月まで在籍した大阪大で、教授として大阪大病院の外科の統合に取り組んだ実績がある。森教授に、外科を統合する意義や難しさを聞いた。

 -なぜ外科の統合が必要なのか。

 「二つの外科が同じようなことをやっていては、患者さんや外科医を目指す学生にとって分かりにくい。切磋琢磨(せっさたくま)という良い面もあるが、弊害が顕著になってきた。統合によって1+1が3、4にもなる力を発揮できると期待している」

 -大阪大病院での外科統合で苦労した点は?

 「大阪大や九大など旧帝国大の病院は、歴史が長く関係者も多い。統合の必要性は認識していても、競り合ってきた同士がすぐに仲良くなるのは簡単なことではない。大阪大では第一、第二外科の伝統を築いてきたOBの医師たちと何度も話し合い、理解を得られてから統合が急速に進んだ」

 「大阪大では今、かつてどの医師がどちらの外科にいたのか分からないほど成果が出ている。九大でも、関係者と丁寧に話し合いをしながら進めたい」

 -定年まで残り2年半。教授の任期としては異例の短さだ。

 「大阪大での経験がある私が短い任期で教授を任されるのは、外科の統合を期待されているからだと受け止めている。関係者の間では『九大の外科統合が一番ハードルが高い』とも言われ、非常に注目されている。九大でうまくいけば、他の旧帝国大の病院にも波及すると思う。私の任期中に、大きい道筋だけは付けたい」

 -外科統合の延長線上に何を目指すのか。

 「中国の主な病院は、1年間で九大病院の何十倍もの手術を経験している。外国の大学に対抗するには、オール九州で物事を考えないといけない。最終的には、九州の大学が一つになれるようなスタートを、九大の外科でやっていきたい」

西日本新聞社