学者が斬る・視点争点〕医療提供体制の効率化で費用削減=河越正明

2018.10.11

学者が斬る・視点争点〕医療提供体制の効率化で費用削減=河越正明
2018.10.16 エコノミスト 第96巻 第40号 通巻4571号 




 ◇消費税換算で約1%分が節減可能

 9月21日に公表された2016年度の国民医療費は10年ぶりに対前年度比で減少したが(マイナス0・5%)、同じ日に公表された17年度の概算医療費の動きから見ると、17年度は2%程度の増加と見込まれる。高齢化の進展や高度医療の普及による医療費の増加傾向は続いている。
 ただし、こうした全国計の動きの中には大きな地域差が隠されている。効率的な医療提供体制を実現している地域を「お手本」にすれば、医療費の伸びを抑制できるかもしれない。では一体どれくらい効率化が可能で、その結果どれくらい医療費を節減できるのであろうか。

 ◇「東高西低」の効率性

「効率化」とは、ただ単に医療費を減らせばよいというわけではない。治療をしなければ投入はゼロだが、健康状態という成果も悪化するので、効率的とは言えない。つまり「効率」とは、所定の結果・成果を出すための投入を一番安く(または小さく)しようという概念である。こうした効率性を分析する一つの手法として「包絡分析法(DEA)」を使って試算した。この手法では、医療資源の指標を入力値に、医療の成果の指標を出力値に用いて効率性を計算するのだが、その際に似た者同士の地域の比較をすることで、当該地域の効率性が求められる仕組みになっている。
 医療の地域的な概念として、1次・2次・3次の医療圏がある。1次医療圏とは身近な医療を提供する医療圏であり、市町村が一つの単位とされる。
 2次医療圏とは、特殊な医療を除く一般的な医療サービスを提供する医療圏で、複数の市町村が一つの単位となる。3次医療圏とは最先端、高度な技術を提供する特殊な医療を行う医療圏で、通常、都道府県が一つの単位となる。
 17年3月までに各都道府県は地域医療構想を策定しており、その際に2次医療圏を一つの単位としているので、2次医療圏で相互に比較するのが適当である。2次医療圏は全国で344あるので、各都道府県には平均7程度の2次医療圏がある。
 東京大学公共政策大学院医療政策・教育研究ユニットが整備した「HPU医療圏データベース」を活用すれば、2次医療圏ごとのデータが得られる。
 入力する医療資源としては、(1)施設数(病院数と診療所数の合計)、(2)病床数(同)、(3)医師数、(4)医療機器数──の四つを用いた。出力する成果としては、(1)男、(2)女、それぞれの標準化死亡比(各地域の実際の死亡数を当該地域の人口構成が全国と同じだった場合の死亡数と比べた比率)と、(3)1人当たり医療費の地域差指数──の三つを用いる。ともに地域間の年齢構成による違いの要因が除去された「全国=100」とする指数である。
 似た地域同士の比較には工夫が必要である。2次医療圏は人口260万人超の大阪市から2万人の隠岐(島根)まで実に多様だからだ。そこで、人口規模でA~Eの五つに分類した。グループAは50万人以上(地域数82)、グループBは30万人以上50万人未満(同56)、グループCは20万人以上30万人未満(同48)、グループDは10万人以上20万人未満(同75)、グループEは10万人未満(同83)である。
 また、患者は必ずしも自分が暮らす2次医療圏で治療を受けるとは限らない。つまり、ある2次医療圏の医療資源は、当該地域に住む住民の治療を行うためだけに使われるわけではないことを考慮する必要がある。そこで、入力値の各変数には、「(1-流入患者割合)÷(1-流出患者割合)」という調整係数を乗じている。
 以上の変数を用いた分析を行った結果、2次医療圏ごとに効率性の高さを示す「効率値」が求められた。この得られた値を、人口でウエートを付けて集計した「都道府県別加重平均値」が図である。値が「1」の時に効率性が最も高い。
 効率値が最も高いのは埼玉県、最も低いのは徳島県となった。従来から、医療費は西の方が高い「西高東低」にあると言われていたが、より総合的に医療資源と成果の関係を効率性で判断しても、西日本の効率が悪い傾向が示された。医療の効率は「東高西低」と言える。

 ◇医療費5%の節減可能性

 このように、効率性の高かった地域を「お手本」に各地域の出力値の水準を維持しつつ入力値の医療資源の水準をどこまで削減可能か、計測することができる。では次に、この削減可能な医療資源は金額ベースでどの程度に相当するのか、推計しよう。
 そのためにまず、医療資源からどのように医療費が決定されるかを知らねばならない。そこで、人口構成要因の違いを調整してもなお残る医療費の地域間の違いとして、「1人当たり医療費の地域差指数」が、(1)医療提供体制の変数(病床数、医師数、医療機器数、平均在院日数)、(2)経済変数(課税所得)、(3)人口・世帯特性(人口密度、高齢単身者割合)、(4)政策変数(保健師数)──からどのように決まるのかを推計した。
 この推計結果を基に各グループにおいて節減可能な医療費を求めると、グループAで1兆1670億円、Bで4520億円、Cで2990億円、Dで2900億円、Eで480億円と求められる。全国計では約2・3兆円に達し、14年度の国民医療費約40・8兆円の約5・5%に相当する。
 このように、似た地域同士を比較して、一番効率的なところに合わせるというように医療の提供体制の効率化を図ることで、医療費は5・5%程度、金額にして約2・3兆円が節減可能という結果となった。これは消費税率に換算すると約1%分である。今後は、この試算結果がどれくらい頑健なものなのか、検討することが次の課題である。
(河越正明・日本大学経済学部教授)