【第1特集 医学部&医者の大問題】--Part1 医学部人気の光と影--私立大「裏の入試方針」とは 受験のプロは見た! 医学部受験のオモテとウラ

2018.09.07

【第1特集 医学部&医者の大問題】--Part1 医学部人気の光と影--私立大「裏の入試方針」とは 受験のプロは見た! 医学部受験のオモテとウラ
2018.09.08 週刊東洋経済) 



【第1特集 医学部&医者の大問題】

Part1 医学部人気の光と影

私立大「裏の入試方針」とは 受験のプロは見た! 医学部受験のオモテとウラ

 筆者は仕事柄、受験生とその親から相談を寄せられることが多い。子どもの教育に懸ける、特に母親の熱意には圧倒される。中でも、医学部を目指す多浪受験生の親からの相談は、祈りにも似た感情をその言葉の端々に感じる。

 医学部入試の過熱ぶりを言うまでもなく、三浪以上の多浪受験生は3割程度存在する、その入試の様は、他学部には見られない独特の世界を作り出している。その担い手は主に世襲を望む親子である。医師という職業からは、金銭的な見返り以上に、患者の生命を支えるという絶対的なやりがいや、世界中どこでも尊敬される自尊感情を得ることができる。ここにファミリー全体が医師を輩出しているという状況が加わるなら、受験生本人の意志で医学部志望を降りるのは非常に困難である。武家に生まれた子どもが、武士以外の道を志すことと同じ困難さがある。

 こういった状況になると、多くの親から「裏口」の有無を問われることは日常茶飯である。しかしそれに対する答えは「ない」というものが定番である。かつてはかなり信憑性のあるうわさが多かったが、現在は昔ながらの金銭だけを媒介とする裏口入学はないといってよい。その意味で東京医科大学事件は衝撃的ともいえる。そういった金銭がらみの悪評を払拭するために、多くの大学が工夫を重ねてきたからだ。

裏口入学ならぬ 「裏の入試方針」とは

 多くの私立大学医学部が採用している推薦入試は、医学部ゆえにか、英語、数学、理科などの学科試験があり、現役生であることを受験資格とするところが多い。あしきうわさの源流となることが多い推薦入試でも、学科試験の点数がひどい受験生の点を金銭でカサ上げするのは原理的に困難である。またすべての私立大医学部では2段階選抜の試験があり、英数理で構成される一次試験を突破しなければ、小論文・面接の二次試験にたどり着けない。東京医科大のように、一次試験の段階から不正をしようとしても必ず事実は漏洩し、大学幹部は責任をとることになる。

 しかし不透明な実態がないかといえば、そうではない。裏口ならぬ「裏のアドミッションポリシー」ならば、多くの大学でいまだ健在である。一次試験を突破し、二次試験に進んだ受験生の中から誰を選ぶかは、裁量が働きやすい。おそらく一点に数十人が凝集する私立大医学部受験では、一次の合格最低点周辺では、誰を選んでも学力はほぼ同じになる。この激戦地帯の小論文・面接受験者の中から誰を選ぶかは、主観を旨とする面接で高得点を付す優遇措置が可能となる。

 「裏口」「不正」というわけではないが、自校OB・OGの子どもを優先的に合格させることは、私立大学にとって一定の合理性がある。強制せずとも寄付金が期待でき、これを「裏口」ということは難しい。低学力の者を受け入れると、医師国家試験の合格率で苦労することになる。

 編集部が入手した河合塾のデータ(センター試験を一次試験とする私立大医学部の試験の追跡データ、左ページ)は、得点別に合否の分布を示している。この試験は通常、一次試験突破の最低点が低い大学で、得点率は85%前後だが、信じられないほど低得点でも合格していることがわかる(左ページ表左)。

 センター試験の得点によって二次試験へ進む者を決定するこの試験で、絶対に呼ばれるはずのない点数の者が二次試験に呼ばれ、それをも乗り越え合格しているのは異様だ。もちろんこのデータ自体が受験生の自己申告に基づくもので不確かさを伴うが、それでも著しく低い得点の合格者が出る大学とそうでない大学とに分かれる。

女性を減点するならひよわな男性も減点に

 実態は闇の中だが、こういったぬぐいがたい不信感を与える余地が、いまだ私立大医学部の入学試験に残されている。特に東京医科大に見られるような「命を預かる医学部だから入学試験の操作も致し方なし」という専横さは、何年も浪人をして挑み続ける浪人生にとってとても許容できるものではない。入学試験競争の根幹は絶対的な公平性にあり、不透明さのある入学試験はその意義を損なっているといってよい。

 多くの大学のオープンキャンパスでは、学校の夏の宿題ということを理由に、高校1、2年生の参加者が急増している。加えてすべての大学は、「アドミッションポリシー」(どのような学生を求めているか)を高らかに公開している。東京医科大は、「多様性、国際性、人間性を兼ね備えた医療人となる高い志を持った(中略)人を求めている」とある。不正入試の顛末を見ると、一種のお笑い劇のようだ。

 もし、女性は力がない、ということで減点が許されるならば、ひよわな男性も排除すべきだ。試験に体力測定を設定してもよい。眼科や皮膚科の志望が増えて困るなら、そうした情報を明記すべきだ。

 事実、地方の国立大学では、面接での一発不合格を明記している大学もある。地域医療の担い手を必死に育成しようとする地方大学の医学部では、都市出身の受験生で、いずれ出身地に戻ることを面接で明言する受験生を受け入れることは原理的にできない。この判断は妥当だろうが、東京医科大のように、表では美辞を語り、裏では不正な操作をすることは許されない。

 東京医科大の事件を受け、2019年1~2月に実施される入学試験で、多くの私立大医学部の女性合格者比率が急上昇するか否か、厳しく注視すべきである。

医学部予備校 The Independent代表●河本敏浩

かわもと・としひろ●同志社大学法学部卒業、同大大学院文学研究科新聞学専攻修士課程修了。医学部専門予備校インディペンデント主宰。著書に『医学部バブル』。