【第1特集 医学部&医者の大問題】--Part2 医者のキャリア&働き方--INTERVIEW 「女性医師では現場は回らない」は本当か?

2018.09.05

【第1特集 医学部&医者の大問題】--Part2 医者のキャリア&働き方--INTERVIEW 「女性医師では現場は回らない」は本当か?
2018.09.08 週刊東洋経済) 


【第1特集 医学部&医者の大問題】

Part2 医者のキャリア&働き方

INTERVIEW 「女性医師では現場は回らない」は本当か?

「女性医師3人で男性医師1人分」「女性医師は離職率が高い」…。これらはいずれも偏見や先入観に満ちている。海外で活躍する研究者や現役の女性医師に聞いた。

聞き手・本誌:山田雄一郎

「女性は男性に劣る」は偏見

シカゴ大学教授 社会学者 山口一男

 「女性医師は男性医師よりも能力的に劣る」というのは偏見にすぎない。女性医師のパフォーマンス(成果)は男性医師に劣らない。

 米ハーバード大学の研究者による、「女性内科医による患者の治癒率は男性内科医より高い」という研究結果が最近話題になった。また、女性医師のほうが男性医師より患者の平均満足度も高い。『米国医学雑誌(AJM)』に1992年に載った論文によると、専門別医師数を一定として男性医師が医療過誤で患者から訴えられる率は女性医師の約3倍である。

 日本では治療率や患者の満足度などアウトカムではなく労働時間や離職率でパフォーマンスを測るが、それは間違いだ。また、男性医師の長時間労働を前提に「女性医師はアクティビティ(活動量)が劣る」と主張する人がいるが、男性医師の多くは家事や育児をしていない。家事や育児は女性に任せきりで、「女性医師の活動量が劣る」と決め付けるのは不当である。家事と育児の男女での分担バランスをまずは変えるべきだ。

誇張された「離職率の高さ」

 「女性医師は離職率が高いから医療現場で当てにできない」というのも、誇張された事実だ。内閣府によると、25~60歳の平均就業率は男性医師91%弱に対して、女性医師は84%弱とわずか7%ポイントの違いにすぎない。この程度の違いは、ワーク・ライフ・バランスなど社会のあり方が改善されれば十分解消できる度合いだ。

 OECD(経済協力開発機構)諸国における女性医師の割合は平均45%くらい。中央値は43%だ。日本は先進国中最低で、ようやく20%台に達したところだ。高度な専門職である医療で女性進出が遅れている。その原因が医学部入試における女性差別ならば言語道断。政府がこの問題を放置するならば、海外の優秀な人材は、「日本で働きたい」とは思わないだろう。

やまぐち・かずお●1946年生まれ。71年東大理学部数学科卒、旧総理府統計局入局。81年シカゴ大学社会学博士。米コロンビア大学、米カリフォルニア大学を経て91年から現職。

女性医師のほうが死亡率低い

米カリフォルニア大学 ロサンゼルス校(UCLA)内科学助教授 津川友介

 女性医師に診てもらったほうが男性医師よりも死亡率が低く、再入院率も低い──これは米ハーバード大学での研究で明らかになった事実だ。2016年12月に米国医師会の学会誌に論文が掲載された。

 内科に緊急入院した患者の30日以内の死亡率と、退院後30日以内に再び入院する割合を米国で調査。30日死亡率も同再入院率も、女性医師のほうが4%低いことがわかった。

 この違いは無視できない大きさだ。たとえば、米国では心筋梗塞の死亡率を4%下げるのに10年かかっている。新薬が開発されたり、治療法が発達したりして、ようやく4%下がったのだ。この例でいえば、結果として、女性医師の担当患者は2018年の最新治療を受けているのに、男性医師の患者は10年前の08年の治療を受けているようなものだ。最新の治療が存在しているにもかかわらず、10年前の治療を受けたい患者がどれだけいるだろうか。

女性医師はリスク回避に努める

 女性医師は男性医師よりもガイドラインにのっとって治療するし、ほかの専門医師に相談することが、ほかの研究論文で明らかにされている。

 最近では、女性医師のほうが患者の話をじっくり聴いているという研究結果もある。女性医師は患者の話を3分間聴いてから遮ったのに対して、男性医師は47秒で遮った。

 これらはリスクに対する感受性の違いだと私は考えている。女性の多くはリスクを回避しようとする傾向がある一方で、男性はリスクを取ることをあまりストレスだと感じない。

 内科医に関しては上記のとおりであるが、外科医に関しては、術後死亡率は男性医師と女性医師で変わらないという研究結果もある。米国では現場から率先して問題を解決しようとする。日本でも現場が主体となって差別をなくす努力をしてほしい。

つがわ・ゆうすけ●1980年生まれ。東北大学医学部卒。米ハーバード大学で修士号・博士号取得。聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て2017年から現職。

お粗末な「やってる感」演出

立教大学現代心理学部教授 精神科医 香山リカ

 東京医科大学はず抜けた最先端の大学ではないが、良質な中堅校。それだけに今回の事件を知って本当に驚いたし、お粗末だな、何をやっているのだろうという脱力感を覚えた。

 東京医大は、私の在籍時も今も「女子を受け入れてくれる大学」というのが私の印象。私が在籍していた頃は、同学年の2割は女子で前後の学年や他の医大よりも多いほうだった。最近では「5割近くが女子で面食らう」という話を大学関係者から聞いたことがあるくらいで、受験で女子を差別しているとは、私レベルでは聞こえてこなかった。

口うるさいOB対策の面も

 東京医大は地域に根差した医師を輩出してきた。大学が地域の病院と地続きにつながっていて、関連病院へ医師を派遣する機能への期待が大きい。「OBの発言権が強い」といわれるのには、そういう背景がある。

 一方で、女子学生は僻地の病院に行きたがらないし、整形外科とか脳神経外科とか、激務とされる診療科に進みたがらないといわれてきた。そこで臼井正彦前理事長は、地域の病院のOBから「もっと男子学生を増やしてほしい」と言われていたのだろう。だから、女子の入学率が4割を超えた翌年には女子学生を減らすような操作をしていたのではないか。

 ただし、女子を抑制すれば地方へ行く学生が増えるとか、激務の診療科に進むとかいうエビデンスはない。地域医療や外科にチャレンジする女性医師も多い。この点において私は、今回の事件を実にお粗末だと思う。

 女性差別は決してあってはならないことだが、男子にげたを履かせる点数操作は東京医大OBへのポーズという面もあったのでは。「地域に医師を派遣できるように、大学は対策をしています」という「やってる感」を演出していたのではないか。

かやま・りか●1960年生まれ。86年東京医科大学卒。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題への取り組みからサブカルチャー批評まで幅広く活躍。

医局システム破綻の裏返し

公益社団法人日本女医会理事 青木クリニック院長 青木正美

 日本は大学病院の医局が医師の人事を決めるシステムを長らく維持してきた。医局が全国津々浦々に医師を派遣することで、医療の質を担保してきた。医学部受験の段階から女性を差別しなければ回らないのだとしたら、現在の医局システムの限界といわざるをえない。

 「医療現場で女性差別は当たり前だ」とか「女性医師ばかりでは病院が回らない」とか言っている人がいるが、それは海外の病院事情をよく知らないからに違いない。海外には女性医師が全体の過半を超える国もあるが、それで病院が回らないということはない。医療現場における女性差別の問題を考えてこなかった人ばかりが発言している。

人間の集中力は長続きしない

 男性医師はバリバリ働くと思われているようだが、実はダラダラと働いているだけのことが多い。人間の集中力は長く続かないから、医師は長時間労働をしてはいけない。患者の話をよく聴いて、親切にするならば、8時間以上働くのは無理だ。

 「男性医師のほうが長時間労働を拒まないから」という理由で、医学部受験の段階から女性差別をしてきたのだとしたら、それは大きな間違い。性別を問わず、そもそも長時間労働は禁止すべきで、長時間労働をしなくて済む態勢の構築を急ぐべきだ。

 産科で例外的に働き方改革が進んでいるのは、大野病院事件(帝王切開手術を受けた産婦が死亡し、執刀した医師が逮捕・起訴された2004年の事件)がきっかけだった。産科を選ぶ医師がもともと少なかったのに、この事件の影響で拍車がかかって産科の医師が全国的に少なくなった。「これは出産・育児で女性医師をリタイアさせている場合ではない」と、各病院が働きやすい環境を整備した。深刻な医師不足が改革を促したのである。

あおき・まさみ●1958年生まれ。獨協医科大学卒。第1麻酔科入局後、国立栃木病院などを経て1996年ペインクリニック(痛み緩和)専門の青木クリニックを開業。

東洋経済新報社