【第1特集 親の看取り方】  カギを握る医療と介護の連携

2018.08.02


【第1特集 親の看取り方】  --カギを握る医療と介護の連携--在宅看取りの先進自治体 独自進化する横須賀、松戸
2018.08.04 週刊東洋経済) 


【第1特集 親の看取り方】

カギを握る医療と介護の連携

在宅看取りの先進自治体 独自進化する横須賀、松戸

 超高齢化・多死社会の到来を見据えて厚生労働省は、住み慣れた地域で最期を過ごせるよう、自宅や介護施設で療養・介護できる体制作りを推進している。

 この中で国の政策に先駆けて、人生の終末期を自宅で迎えるいわゆる「在宅看取り」に取り組んできた自治体に今、全国から視察が相次いでいる。その代表例が神奈川県横須賀市だ。

 在宅看取り実現度の指標の一つが、厚労省が発表する全国市区町村の「在宅死亡率」(死亡者数のうち自宅で最期を迎える在宅死者数の割合)だ。2016年に発表されたこの指標で、横須賀市は人口20万人以上の市区で全国トップになり、一躍注目を集めた。最新の統計では2位になったが(左ページ表)、横須賀市の取り組みは先進的だ。

横須賀は市で独自に「看取り率」を算出

 在宅死には孤独死や不審死、自殺なども多く含まれ、地域によっては在宅死のうち、孤独死を含む警察検案書事案が3分の2を占めるという調査さえある。そのため在宅死亡率だけでは自治体ごとの在宅看取り度を判断できない。

 そこで横須賀市は、自宅と老人ホームなど介護施設での死亡者数のうち、孤独死など警察事案の死亡者数を引いたものを自宅や施設での「看取り」として数え、その数を市内死亡者全数で割った独自指標も算出している。この指標によれば、同市の在宅・介護施設での看取り率は、15年は22.6%、16年は22.9%と徐々に上昇している。

 また、かかりつけ医がいる在宅療養支援診療所(在支診)の自宅看取り報告数が、在宅死全体の数に占める割合は、10年の30.6%から15年の62.5%、16年の65.2%へと、横須賀市では11年以降上昇を続けている。同市では、在宅医療に支えられて住み慣れた地域で最期を過ごすケースが確実に増えているわけだ。

 これは、11年から横須賀市役所の健康部地域医療推進課が中心となって、医療・介護の関係者が地域で連携し、看取りを実現する体制作りに注力してきたからだ。

 看取りのためには、かかりつけ医や訪問看護師などの医療関係者、ケアマネジャー(ケアマネ)やヘルパーといった介護関係者など、多職種の連携が不可欠だ。だが市が取り組みを始めた当初は、医療関係者と介護関係者の間には大きな溝があった。

 たとえば、市が多職種連携のために関係者へのヒアリングを行ったところ、介護を支援するヘルパーは「医師や訪問看護師は私たちを下に見ている」と言い、医療関係者は「介護スタッフには医療の知識がまったくない」といった具合で、相互不信が深刻だった。

 そこで市は医師会などに協力を仰ぎ在宅療養連携会議を立ち上げ、多職種が合同で課題を抽出・整理する場を設けた。

 12年からは市民に対する啓発活動も開始。町内会や老人会などに職員が出向く「まちづくり出前トーク」や在宅医療の専門家によるシンポジウムを開き、さらには在宅療養ガイドブックや在宅医療に対応している医療機関を冊子やウェブサイトを通じて発信した。

 並行して医療・介護関係者に対して多職種合同研修会を開催。少人数のグループワークを組み入れ、顔がわかる関係作りを進め、溝を埋める取り組みを加速していった。市の取り組みに消極的な病院があれば、地域医療推進課の川名理恵子課長らが「こちらから行きますよ」と出向く「病院出前セミナー」を開催し、病院に在宅医療への協力を仰ぎ、市の取り組みに巻き込んでいった。

 もう一つ、多職種連携において重要なのが、同市が独自に作成した「退院前カンファレンスシート」だ。退院前に病院で主治医・看護師と在宅医や訪問看護師、ケアマネやヘルパーなどが患者の希望、今後のケアなども含めた情報共有事項を書き込めるシートで、多職種連携を円滑にするツールとして活用されている。

在宅医療、在宅介護に救急隊も連携する松戸

 在宅医療と介護の連携のため、文部科学省のプロジェクトに自治体や医師会、ケアマネ団体など、民間が協力して取り組んでいるのが千葉県松戸市の「ふくろうプロジェクト」だ。最大の特徴は、高齢者の緊急時や容体急変時のための情報を網羅した「ふくろうシート」の作成・運用だ。

 プロジェクト開始は15年度。準備に2年を要した後、昨年度から本格的にシート作成などプロジェクトが動きだした。

 ふくろうシートには、家族や担当の医師、介護スタッフらの連絡先や本人の病気、人生の最終段階の本人の意向(救命救急医療や緩和医療、在宅医療・介護のうちどれを希望するか)などを記載する枠が設けられている。日本人や日本社会の特質も考慮し、本人が治療や療養の意向を「決められない」という選択肢もあえて設定した。

 このシート作成で重要な役割を果たすのがケアマネだ。ケアマネがふくろうシート作成のきっかけを提案したり、本人や家族との話し合いをリードしたりする役割を担う。市のケアマネは任意でこのプロジェクトに参画する。

 松戸市の取り組みの背景の一つには、75歳以上の高齢人口増加に伴って救急車の出動回数が増えているという問題がある。

 さらには、救急車の患者宅到着から搬送先医療機関への発進までの滞在時間も長くなっている。これは、救急搬送する患者に占める高齢者の割合が高まり、持病や本人の救命措置の意向などを把握するのに手間取って、適切な搬送先を決めるのに時間を食うからだ。こうした点も救命医療の現場で大きな問題となっている。

 これらの課題を踏まえて作成されたふくろうシートは、その内容がQRコードでデータ化される仕組みで、QRコードをステッカーにして高齢者宅の冷蔵庫に張り付ける。いざというときは救急隊が専用iPadでこのステッカーから情報を読み取り、救命措置の是非や搬送先の病院の判断に活用する。これによって、消防隊員が到着後に情報収集に手間取ることを改善したり、本人の意向に反した延命措置を防いだり、といった効果が期待されている。

 松戸市も横須賀市と同様に、取り組みの当初は医療と介護などの多職種連携に問題を抱えていた。

 介護スタッフから聞かれた不満としては、高齢者が急性期病院に救急車で運ばれるとき、担当のケアマネが呼びつけられ、場合によっては丸一日、家族が来るまで病院で待機させられたり、あるいは介護施設での深夜の救急搬送の場合、一人夜勤のヘルパーが救急車への同乗を要求されたりといったことがあった。

 こうした問題への対応として、ふくろうシートを利用できる高齢者の場合は、ケアマネやヘルパーなどへの電話連絡ができるのであれば、病院での待機や救急車への同乗を求めなくてよいという、ルールの改善がなされた。

 プロジェクトを推し進めてきた、山岸暁美・慶応義塾大学医学部講師は「地域によい変化が出てきており、医療と介護の関係がよくなっている」との自信を深めつつある。(本誌:大西富士男)