若手医師、研修で流出 今春導入「新専門医制度」が拍車 都市部選ぶ傾向/東北・共通

2018.08.01


若手医師、研修で流出 今春導入「新専門医制度」が拍車 都市部選ぶ傾向/東北・共通
2018.07.28朝日新聞



 ◆みちのくワイド


 宮城県登米市の市立診療所が8月、医師不足で休診する。その背景とされるのが、今春導入された「新専門医制度」だ。若手医師が専門医の研修先として、大都市部の医療機関を選ぶ傾向が強まったという。東北地方の医療関係者は、医師不足に拍車がかかると危機感を募らせている。


 ■確保できず休診

 5月に登米市立登米診療所が8月から休診することが公表されると、診療継続を求める約3300人分の住民署名が提出され、6月市議会では議員から市側の対応を批判する意見が相次いだ。

 市が、医師を確保できなかった理由の一つとして挙げたのが、新専門医制度。2年間の臨床研修を終えた若手医師が、専門医研修を受ける医療機関を選ぶ仕組みだ。

 「多くの症例数や経験豊かな指導医を求めて、東京など大都市にある大学病院や著名な民間病院に流れる」と、地方の医療関係者は指摘してきたが、その恐れが現実のものとなった形だ。

 制度を運用する日本専門医機構によると、東北6県で臨床研修を終えた医師37人が東京都内の研修施設に登録した。研修医のうち地元に残る割合を示す「定着率」も宮城を除く東北5県は70%台から90%台の見通しだ=表(1)。

 青森県では、県内勤務を条件とする「地域枠」で弘前大医学部に入学した若手医師十数人が、県外の研修先を選んだ。県は「地域枠で入学した医師は地域勤務を義務づけられている。研修施設に地域枠卒医師であることを周知するべきだ」と、制度の見直しを主張。東北6県も6月、地域枠卒の医師が県外の研修施設に登録できない仕組みを政府に要望した。


 ■「国の対策必要」

 「新制度は地域医療の衰退につながる」と導入に反対してきた「専門医制度の『質』を守る会」メンバーで、仙台厚生病院医学教育支援室長の遠藤希之(まれゆき)医師は「年齢が近い若い先輩がいる病院を研修先に選ぶ傾向が強い。地方での医師の高齢化が一層進む可能性がある」と指摘する。

 小児科医や産婦人科医は安心して出産・子育てをする環境に欠かせない存在だ。しかし、専門医の研修先は大都市に集中し、東北の産婦人科の研修登録者は宮城8人、山形4人、青森、秋田、福島各3人、岩手1人。人口減に悩む地方での医療環境にも影響しかねない。

 産科医不足に悩む岩手県では今春、県南部の民間病院が分娩(ぶんべん)をやめるなど分娩施設が減りつつある。県産婦人科医会顧問の小林高(たかし)医師は若手医師の呼び込み策として「専門志向が強い若い医師向けに、年に何日間か海外も含めて学会に参加できる制度を設ける。必要な予算は、国が過疎化対策として考えてもいいのでは」と提言する。

 東北は面積が広く、医療機関へのアクセスに時間がかかる地域が多い。可住地面積当たりの医師の人数は全国平均の243人を大きく下回り、岩手66人、秋田70人などとなっている=表(2)。

 地域医療を支える公立病院でつくる全国自治体病院協議会の副会長で、前岩手県立中央病院長の望月泉氏は言う。「医師の偏在は都道府県の努力だけでは限界があり、国の政策関与が必要だ。欧米では専門医の数が地域ごとに決められ、質の担保と偏在を調整する制度もあり、検討の余地はある」

 (角津栄一)


 (1)臨床研修医(2016年度採用)の定着率

    臨床研修医採用人数 専門医研修登録者 定着率

 青森県     83       61   73%

 岩手県     67       62   93%

 宮城県    132      158  120%

 秋田県     84       61   73%

 山形県     78       55   71%

 福島県     99       85   86%

 ※臨床研修医採用実績は厚生労働省発表。専門医研修登録者数は今年3月15日時点


 (2)可住地面積100平方キロ当たり医療施設従事医師数

       医師数

 全国平均  243

 青森県    79

 岩手県    66

 宮城県   163

 秋田県    70

 山形県    85

 福島県    86

     …

 東京都 2,928

 大阪府 1,752

 ※厚労省「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」資料より抜粋。可住地面積は総面積から林野面積と主要湖沼面積を差し引いた面積