ICT世界の潮流PART6(2)フィンランドにおけるヘルスケア×AI(下)

2018.07.20

ICT世界の潮流PART6(2)フィンランドにおけるヘルスケア×AI(下)
2018.07.20 日刊工業新聞


■協働で革新的AI開発へ

フィンランドでは、ヘルスケア分野の人工知能(AI)活用を国家的に進めていくために、フィンランド国立技術研究センターVTTが戦略研究アジェンダ「AI for Good Life」を2017年に取りまとめ、ここで示されたヘルスケア分野のAI適用領域とその優先順位に従って、研究開発予算が振り分けられている。Business Finland(18年1月にフィンランド技術庁TEKESから改組)は、AI関連の研究開発に4年間で約1億ユーロの拠出を決定しており、ヘルスケア分野はその中でも大きな領域となっている。

【治療支援モデル】

フィンランドのヘルスケア分野のAI活用の特徴は、海外企業をも含めたオープンなエコシステム構築から新しいイノベーションを生み出すことにある。Business Finlandは、17年にIBMフィンランドと5年間の協働覚書を交わし、これにより、「ワトソン・ヘルスセンター」がヘルシンキに立ち上げられた。ヘルシンキ市・ウーシマー地域医療圏HUSと協働で、(1)画像分析による脳出血検出、(2)個別化されたがん治療、(3)早産児の重度細菌感染の早期発見-の三つのAIプロジェクトが開始されている。また、HUSに加えて12企業(IBM、GEヘルスケア、ノキアなど)が参加した「CleverHealth Network」でも、3月よりAIによる妊娠糖尿病の治療支援モデルが開発されている。

【中小の実力向上】

豊富なヘルスケアデータをオープンにすることで、戦略的に海外企業を誘致し、彼らとの協働の中で中小国内企業の実力向上も同時に目指す。フィンランドでは、ヘルスケア関連のベンチャーが次々と誕生しており、心筋梗塞症などの治療薬ワーファリンの投与量をコントロールするForsanteを開発するValuecode社もその一つである。ワーファリンは血液をさらさらにする効果があるが、個人差が大きく、1-2カ月の頻度で血液検査をし、きめ細かく投与量を調節する手間がかかる薬剤でもある。Forsanteは、蓄積された患者データや検査結果データなどをAI分析することで、状態が安定している約85%はルーティン判断により自動で投与量を決定することができ、残りの15%は医師による承認で最終決定を行う。EUの医療機器認証であるCEマーク取得済みで、国内において既に複数の病院で採用されており、活躍が期待される企業である。

【データを利活用】

ヘルスケア分野のAI活用を積極的に進めるには、質の高い大量のデータを利活用できる基盤が必須である。フィンランドでは、5月施行のEUの「一般データ保護規則(GDPR)」により個人データ保護が強化されることを受け、ヘルスケアデータの二次利用を円滑化する国内法を整備中であり、自国がヘルスケアデータを活用したビジネスを行う場として最適であることを示そうとしている。日本でも、医療データ二次利用のため次世代医療基盤法が成立したが、医療等IDや国レベルの医療情報交換基盤の構築など早急に進めるべき事案も多い。プライバシーなどへの配慮は前提であるが、本当の意味で利用しやすいものとしていくことが、この分野での日本の国際競争力強化につながっていくと思われる。(金曜日に掲載)

◇国際社会経済研究所(NECグループ)主幹研究員 遊間和子