活用広がる製薬企業のAI(上)  MR活動、経験尊重しデジタルでサポート

2018.07.26


 
活用広がる製薬企業のAI(上)  MR活動、経験尊重しデジタルでサポート
2018.07.25 日刊薬業 


 製薬企業への人工知能(AI)導入が進んでいる。研究開発面では多くの情報を学習・解析した創薬に注目が集まっているが、営業活動のサポートやコールセンター機能の充実にも活用の幅は広がっている。多くはまだシステム構築のさなかにあるが、業務改善による効率的な活動や顧客満足度向上につなげるのが狙いだ。各社の取り組みを探った。

●独自のスマートスピーカー構築  武田薬品

武田薬品工業は営業戦略部が主導するMR業務のサポートシステムを開発中だ。現在、医薬品納入状況や市場シェアなどの膨大なデータを、体系的に活用するビジネスインテリジェンス(BI)の構築が進む。そのうちの一つに、MRがスピーカーに向かって訪問予定の確認や売り上げ推移などを聞くと、AIがデータベースにある情報から探し出し提供するシステムがある。

 MRは必要な社内情報を取り出す場合、パソコンを開いて電源を入れネットにつなぎ、何度かパスワードを打ち込むなど一定の手間がかかる。このBIシステムでは、音声認識によりそれが数秒で可能だ。例えば朝、「今日の予定は」と話し掛けると、AIスピーカーが「がんセンター○○先生への訪問があります。午後7時に営業会議があります」などと返答。前回訪問の日付や紹介した製品名なども提示される。

 同社にはさまざまなデータの蓄積があり、日々更新しグラフ化するなどしてMRに提供している。しかし、有効活用しているMRは期待ほど多くない。作業の簡略化によってストレスが軽減されれば、情報への頻繁なアクセスでより科学的に業務が進められると予想している。

●営業戦略部が主導

 このプロジェクトで特徴的なのは、営業戦略部が主導していること。「ビジネスに直接携わる人間が、営業上の課題や問題点をより理解している」(横田稔・営業戦略部デジタルグループマネジャー)と考えたからだ。IT部門と十分な調整をしても、出来上がったソリューションがイメージと異なるケースが現実にはある。そのため、IT部門と同等に近い知識を習得して対等かつ健全な議論ができる状況を確保した。例えば、通常ならIT部門の社員が受験するCRM(Customer Relationship Management)の管理者試験は、同社ではビジネス部門だけで5人が資格を取得した。

 BIシステムの構築に伴い、AIにMRの入社年度や担当属性(病院、開業医)など約20種類のデータを読み込ませる。それを基にMRをセグメントし、個別のロールモデルを提供する考えだ。

●国内初の音声アシスタント開発へ

 開発はBIのプロバイダーであるマイクロストラテジー社などと3社で共同で実施している。こうしたシステムはこれまで英語版しかなかった。専門用語や医学用語などを特別に理解させ、3社で独自の音声アシスタントを開発していく。完成すると製薬業界はもちろん、日本でも初めてになるという。

 今後、MRは地域医療の中で関係者をつなぐなど、AIでは不可能な役割に仕事のリソースを投下しやすくなる。eプロモーションやオンラインで医師と話すリモートMRなどの展開も、現状ではMRを代替することはできない。役割の変化はあってもあくまでMR活動がベースで、それをデジタルがサポートする方式が数年は続くと見ている。

 このほかにも「チャットボット」は横浜支店でパイロットを実施中だ。顧客からの問い合わせをテストケースに、3分間の検索による正解率を調査。従来方式では60%だったが、チャットボットを利用すると95%まで上昇したという。本社で機密事項を話し合う会議の際、幹部社員がまとめる議事録を機械に任せる「議事録ボット(ミニッツボット)」も年度内リリースを目指している。

 2020年度にはこうしたシステムを統合し、各MRが日常の営業活動に利用できる形を作り上げるのが狙いだ。

●訪問先「いつ、誰に」、AIが提示  バイエル薬品

 バイエル薬品はMRの働き方に変革を加える「コールガイダンス」を導入した。営業戦略や各種データに基づいた医師・医療機関への「訪問推奨」を、顧客管理システムであるCRM上で表示。MRが最適なタイミングでターゲット医師を訪問できるようサポートする。

 パイロット・スタディーを経て今年1月から全国展開した。意識するのは地に足の着いた「真にMRに役立つIT/AIツールの開発」だ。コールガイダンスは効果の高いディテールを実現し、MR主導のマルチチャンネル活用を促すものとなる。

 訪問の推奨は、いつ、誰に、どの製品の情報提供をすべきかについて、最大3つの理由を沿えて提示される。ある医師に対して「昨日、自社のWeb講演会を聞いた」「製品説明会には3日前に参加した」「この1週間は情報提供していない」などが分かることで、MRは最適なタイミングでフォロー体制を整えることができる。さらに深く探りたければ「参考情報」を見ることもできる。MRは訪問推奨を受けてスケジュールに組み込むか、もしくは拒否しても構わない。営業所長の指示やMR自らの経験に基づいた行動も尊重されるため、必ずしも従う必要はない。

 各種のデータは日々変化していく市場状況や活動実績が当日朝までにインプットされ、ベストの推奨を提供する。日々更新されるデータの一部は、現場MRが直接入力する。日報レベルの打ち込みを確実かつタイムリーに実施するよう求めており、「負荷がかかる追加的業務は発生しない」(福田竜太・経営企画本部マネジャー)という。

●使用率・満足度とも高水準

 中長期的にはデジタルツールを積極的に活用し、誰もがコールガイダンスを日常的に使えるようにする。それが訪問計画を立てる時間の短縮につながり、質の高いディテールをもたらす。結果として医師の要望により合致した情報提供が実現する。MRに必要な情報の収集・整理や優先順位付けは、コールガイダンスによって強化されると考えている。

 導入後は3段階で価値を検証していく。1段階目は普及と満足度に関してで、今月に実施した調査から使用率は95%以上、満足度は8割以上に達したことが分かり、いずれもクリアした。2段階目は活動内容の改善。より重要な医師への訪問に時間を割けたか、タイムリーな面会ができたかを確認する。

 最終段階では売り上げとの関係を分析する。導入コストに見合った効果があったかを、データ分析によりはじき出す。具体的な増額目標などは設定していないが、1年後には何らかの結果が出ると見ている。(つづく)

株式会社じほう