救命救急の診療体制や患者の受け入れ実績

2018.05.02

<編集委員インタビュー>神戸市立医療センター中央市民病院救命救急センター長 有吉孝一さん(52)に聞く なぜ、厚労省の評価4年連続日本一に? 「断らない救急」理念掲げ 安全網拡充へ人材育成
2018.04.29 



 救命救急の診療体制や患者の受け入れ実績について、厚生労働省が毎年、全国の医療機関を評価している。4年連続で日本一なのが、神戸市立医療センター中央市民病院(神戸市中央区港島南町2)だ。「断らない救急医療」を理念に掲げ、タクシーなどでの直接受診を含め、あらゆる患者を受け入れている。司令塔を務めるのは、救命救急センター長の有吉孝一医師。これからどんな施設を目指すのだろう。(網 麻子)


 -受け入れ患者数は全国トップレベルです。重症患者数の多さも注目されています。

 「軽症の1次、入院が必要な2次、緊急手術や集中治療が必要な3次。救急患者は選別せず、365日、24時間、いつでも受け入れている。2017年度の救急患者数をみると、全体は3万5244人で、うち救急車による搬送が1万534人。入院患者は8130人だった」

 -どんな診療体制なのですか。

 「救命救急センターの専従医師数は23人で、救急医や救急科専攻医らがいる。さらに各診療科の専門医も24時間、常駐している。救急患者はセンターの救急医や研修医らが診療し、必要があれば各専門医に相談したり、診てもらったりする。病院の当直の医師は全員、救急にも対応する。ほかに、薬剤師や診療放射線技師ら10人以上が当直している」

 -厚労省評価が4年連続日本一です。どこに理由があると考えますか。

 「患者さんを断るか、断らないかではなく、どうすれば受け入れられるかを考えて、救急医療体制のマイナーチェンジを繰り返してきた。常に修正して整える。気付いたら2年連続で1位。3年目からは満点になった」

 -例えば、どんな修正を?

 「16年には精神科身体合併症病棟(8床)を設け、専従の精神科医も配置した。精神疾患があり、自殺を図るなどした患者さんを、無理に早期退院させる必要がなくなった。もちろん、医師や看護師を徐々に増やし、ベッドの増床にも努めてきた」

 「また、地域医療推進課救急サテライトをつくり、患者さんの入院待機中から、転送・転院先を探す努力をしている。地元の開業医や中核病院へとつなぎ、本院だけでなく、地域全体で医療が完結するよう心掛けている」

 -救急車やドクターカー、ドクターヘリなどの搬送だけでなく、自家用車やタクシーで病院にやってきた直接受診の患者も受け入れています。

 「16年の救命救急センターの患者数をみると、心筋梗塞など重症の循環器疾患が808人。このうち208人が自力で病院を訪れた直接受診だ。脳梗塞など重症の神経疾患の患者数では、860人のうち197人が自力受診だった。心停止や重症の外傷のケースもある。先日もタクシーで受診した女性が心筋梗塞と診断された」

 「救急車やドクターヘリだけでは救うことができない重症の患者がいる。社会のセーフティーネットとなるためにも、すべての患者を受け入れないと」

 -救命救急センター長として今、目指すところは?

 「救急医、中でもER医を育てて地域や全国に送り出したい」

 -ER医、と言うと?

 「1次から3次まで、患者さんを選別せずに受け入れ、診療する救急外来を『ER型』と呼ぶ。ER医は全科の初期治療を担い、緊急度を判断して経過観察するか、入院させるかを決める。軽症者の中から重症者を見つけ出す。そうした能力を身に付けた救急総合医のことだ」

 -今の中央市民病院なら育てられますか。

 「もちろん。ER医は患者さんに育てられる。今も活躍しているし、いつでも誰でも受け入れる中で確実に育っている。救急に理解のある各科の専門医や看護師を含め、広く人材を育てていきたい」

 「『専門医がいない』という理由で、救急患者を断る病院がある。患者さんのためにも、救急医療ではER医の診療が当たり前になればいいと考えている」


▽ありよし・こういち 1966年、福岡県生まれ。福岡大医学部卒。神戸市立中央市民病院(当時)勤務などを経て、2013年春から、同市立医療センター中央市民病院救命救急センター長。


〈記者のひとこと〉


 周囲の評は「きさくで、温かい人」。取材で病院を訪れると、豆をひき、ペーパードリップで入れたアイスコーヒーをふるまってくれた。救急医療の将来を見すえ、やるべきことを進めていく姿勢が心に残る。