「男の介護教室」で教えられる超実践的スキル

2018.05.01


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    「男の介護教室」で教えられる超実践的スキル/追い詰められる前に知っておきたい
2018.04.28 東洋経済オンライン ライフ 

近い将来、私たちの誰もが介護したり、してもらったりする時代が来る。

今から7年後の2025年には、65歳以上に占める認知症患者は約700万人、およそ5人にひとりになる(「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」九州大学・二宮利治教授らの2014年度の調査、行政効果報告を参照)。


介護は「お嫁さんの仕事」というのは一世代前の話だ。介護者全体に占める「子の配偶者(いわゆる婿や嫁)」は9.7%まで低下した。

一方、同居の介護者に占める男性割合は増え続け、直近で34%になっている。

男女ともに介護者は60代以上が7割となっており、自身の健康が気になる世代による介護が当たり前だ(平成28年、厚生労働省・国民生活基礎調査)。



今回は、宮城県石巻市における男性介護者支援の取り組みを見る。
石巻市の高齢化率は31.09%で日本全国平均の27.3%(2017年3月時点)を上回る。

7年前の東日本大震災で津波被害の大きかった半島地域は、高齢化率がさらに高く、牡鹿では46.49%と人口の半分近くが高齢者だ。
こうした地域は、日本全体が近い将来、直面する課題を先取りして経験している。

震災後、長野県から宮城県に移り住み、地域医療を支える歯科医として働く河瀬聡一朗医師は、仕事の傍ら、男性介護者の支援に取り組む。河瀬医師が見てきた、男性たちの家事や介護の実態とは?

なぜ「男の介護教室」を開いたか
--河瀬先生は、石巻市を中心に「男の介護教室」を開いています。宮城県出身の知人が、驚いていました。男女の役割分担が固定化していることが多い地域で、男性が介護や料理をするようになったのは、すごいことだ、と。


男性介護者にも、さまざまな方がいます。確かに「介護をするようになるまで、台所に入ったことがない」という人もいます。たとえば農業をしていた方は「おコメを作ったことはあるけれど、おにぎりは作ったことがない」という具合に。

一方、石巻は漁業も盛んです。遠洋漁業をしていた人は、若いときは同じ船の先輩たちの食事を全部作るんです。だから、魚もさばけるし料理は得意です。得意分野が異なる男性同士がお互いに教えあう光景も見られます。
--介護は肉体的にも精神的にも重労働です。男性の場合、一般的に言って家事経験が少ないことに由来する困難もある、と聞きますが、本当に人それぞれですね。

そうですね。妻や親の介護が必要になって初めて料理をしたとか、要介護となった母親の洋服をどこで買ったらいいかわからず困った、という声も確かにあります。
また、介護者同士の情報交換の機会が、女性に比べて少ない、という課題もあります。

介護者向けには、自治体が「カフェ」のように、お茶を飲んでおしゃべりしながら情報交換できる場を作ることがあります。ただ、そういう場に男性が参加する例は非常に少ないと思います。「おしゃべり」が得意ではないのかもしれません。

電気ポットとビニール袋で作れる料理も
--以前、ひとり親支援の取材をしたときも似た話を聞きました。シングルマザーは「一緒にお茶を飲みながら話しましょう」と誘うと来てくれるけれど、シングルファザーは来ない、と。

あるシングルファザーは「参加してもらうためには、子どもと一緒に何かを作るとか、遊ぶといった企画を立てる」と言っていました。明確な目的があると集まりやすいのですね。「男の介護教室」は、どんなことをしていますか。


 

介護者と要介護者にとって必要な介護知識や技術を提供していますが、中でも要望の多い食については、ケアマネジャーや管理栄養士の方々と一緒に考えてお伝えしています。
たとえば、料理なら電気ポットひとつとビニール袋があれば作れる、おかずを紹介したりします。
鍋を使わなくても、袋の中に材料を入れてポットの湯で暖めれば調理ができる。簡単で、洗い物が少ないから、やってみようという気になります。
あと「カロリーを“上げる”工夫」をお伝えすることもあります。健康な人向けの料理を作るときは、食べすぎないように、カロリーが多すぎないようにと考えてメニューを決めることもあるでしょう。

一方で、ほとんど寝たきりだったり、ずっと家の中で過ごしている要介護の高齢者は、食欲がわきにくいのです。ご本人が食べたい量を食べていただくと、カロリー不足になりがちです。そういった場合、たとえば「マヨネーズをちょっと加えて」カロリーを上げれば、食べる量をさほど増やさなくても大丈夫です。
加工食品や冷凍食品を上手く使ったメニューを紹介するなど、とにかく「毎日続けられそう」なことを重視しています。こうしたメニューは、教室を一緒に企画運営している管理栄養士さんが考えてくれています。

--教室を見学させていただき、簡単に作れる料理の方法に驚きました。また、介護というと、大変そう、深刻そう、というイメージがあったのですが、参加者の男性たちが楽しそうで笑顔が多く見られたことも印象に残っています。
先ほどもお話ししたように、本当にいろいろな方がいます。最初は気難しそうだなと思う方も、何度か集まるうちに変わってきたように思います。同じ空間で同じテーマに取り組むうちに、仲間意識が生まれてきて、介護教室メンバーの飲み会を企画する人まで出てきました。
こうした人のつながりが生まれたのは、一緒に教室を企画運営している、副代表でケアマネジャーの高橋恵美さんの力、そしていつも一緒に活動をしてくれているケアマネや他のスタッフの力が大きいと思っています。ケアマネさんは自宅を訪問して、介護者の置かれた状況を、健康・経済・環境など多方面から見ます。この方が教室に来たらいいかな、とか、この方とこの方が知り合ったら、お互い楽しいのでは……と個々人のニーズを考えてお誘いしているそうです。

私は歯科医ですから、口から全身の健康を守るのが専門です。特に要介護状態の方では口の細菌が誤って肺に入り込んで炎症を起こす誤嚥性肺炎が問題となります。その予防には口のケアや、食べ物などを誤嚥しないようにすることが大切になります。そこで正しい口腔ケアの方法や、食事の際の適切な姿勢や、食事の形態、食事の介助方法について実習を交えながらお伝えします。
介護者が必要な知識とスキルをもって、上手に実践できるようになると、ストレスが減るのでは、と思っています。

世田谷の開業医の息子が、宮城に移住したワケ
--「男の介護教室」参加者は、現役の介護者向けですか?
確かに現役の介護者の方は多いです。ただ、それにとどまらない関心の高さを感じています。「介護はまだこれからだけれど、心構えや知識を求めている」という方もよくいらっしゃいます。そういう方たちは、私が新聞に寄稿した記事を読んで、自発的に来てくださいます。
また、要介護者が亡くなった後も、教室に来てくださる方がいます。ここが居場所になっているのです。またそのような方々には介護中の体験談等を話していただいたりしております。さらに今までお世話になった教室への恩返しということで、教室のサポーターとなり教室のお手伝いをしてくださる方もいます。介護の終わりがすべての終わりではなく、新たなスタートをしてくださる方も多くいます。


--ところで、河瀬先生は、震災後、宮城県に移住しています。どういった背景があったのでしょうか。
出身は神奈川県川崎市です。実家は東京都世田谷区で歯科医院を開業しています。本来ですと私は3代目になる跡取り息子です。
しかし、東日本大震災は私にとって大きなターニングポイントでした。メディアから伝わってくる光景に居ても立ってもいられませんでした。そこで当時勤務していた長野県の松本歯科大学から長期にわたり歯科医療派遣隊の隊長として被災地に入っていました。その派遣終了後は、個人的にボランティアで毎月被災地に入り、歯科支援活動をしていました。

--震災直後、ボランティアに行く人はたくさんいましたが、移住までする人は、多くありません。なぜ、そこまでしたのですか。
今私が勤務をしている宮城県石巻市雄勝町の医療機関はすべて津波で被災しました。4300人いた人口は激減し、2018年1月末日時点で1604人です。
1000年に1度の大災害といわれるこの災害が起きたときに生を受けていた者として、歯科医師として雄勝町の歯科医療の再生と町の復興のお手伝いがしたいと思ったからです。
しかし、移住したいと妻に告げた際には猛反対でした。長野にあった生活や仕事すべてを犠牲にし、被災地に移住することが理解できなかったからです。当然ですよね。でも、被災地の状況を見てもらいたいと思い、妻を被災地に連れてきました。そこで、妻から涙とともに「来るしかないね」という言葉が出ました。
2012年3月に松本歯科大学病院を退職し、4月より宮城県石巻市の行政歯科医師として赴任しました。現在は石巻市雄勝歯科診療所の所長をしています。
孤立しがちな「男の介護」にもっと支援を
--今後「男の介護教室」を、どんなふうにしていきたいですか。
私も含め一緒に教室をやっているスタッフは皆平日は本業があるので「男の介護教室」と両立をしている形です。
おかげさまで、男性介護者支援に関心を持っていただくことが増えました。宮城県内で5カ所、青森県弘前市や熊本県等でも「男の介護教室」を開いてきました。少し変わったところでは、森永乳業さんで社員向けに教室を実施させていただいたこともあります。
おおむね、1カ月に2~3回の割合で「教室」を開いており、2017年は石巻市内だけで累計215名の方に参加していただきました。
超高齢化社会を迎え、介護は大きな社会問題として関心を集めています。ただ、要介護者への支援はありますが、介護者への配慮は、まだ足りないと思います。介護保険制度はあっても、在宅介護がなければ立ち行かないですよね。その現状を踏まえると、介護者が倒れてしまったらおしまいです。孤立しがちな男性介護者への配慮や支援が、もっとあればいいと思います。
私共は石巻を拠点にしています。他の地域でも、医療・介護関係者が、地域に合った「男の介護教室」を企画していけたら嬉しいです。
その際はある程度の資金が必要になってくると思います。今は、東北被災3県(岩手・宮城・福島県)にJENさんというNPOが助成をしてくださり男の介護教室を開催していますが2018年12月で支援は終了となります。
今後、高齢化社会や介護者支援に理解のある政府機関や自治体、財団などから助成金や寄付をいただけるようになると、とても助かります。
■あなたが個人でできること

・身近な男性が介護をしている可能性を知る

■企業ができること

・男性向けの介護教室を開く


東洋経済新報社