病床の再編については、今年3月末現在で合意したのは公立病院5%、公的病院8%のみ。

2018.05.25

病床の再編については、今年3月末現在で合意したのは公立病院5%、公的病院8%のみ。民間病院は、経営の問題が絡むために再編に消極的で、ほとんど計画は進んでいない
2018.05.22 読売新聞


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 2040年度の社会保障の費用推計が、政府の経済財政諮問会議で示された。高齢者人口がほぼピークに達し、介護や医療、年金を中心に、給付費は190兆円に膨らむ。保険料など国民の負担は重くなり、限界が近づく。社会保障の一層の改革が急がれる。(社会保障部 小沼聖実、大阪生活教育部 辻阪光平、本文記事1面)

 ■「食費削るしか…」

 「2040年は節目の年。(40年に向けて)社会保障はこれまで以上に改革が重要になる」。21日、政府の経済財政諮問会議終了後の記者会見で、茂木経済再生相は力を込めた。

 推計では、介護の費用の伸びが著しい。高齢者の急増だけでなく、国が、長期の入院医療を抑制し、自宅や施設で介護を受けられるよう改革を進めているからだ。

 65歳以上の介護保険料は、現在の月約5900円(全国平均)から、40年度には月9200円に跳ね上がる見込みだ。

 大阪市は4月から、保険料を月1169円引き上げ、月7927円にした。都道府県庁所在地や政令市の中で最も高い。25年度には、月1万200円程度に達する見通しという。市の担当者は「月1万円以上の負担を市民に求めるのは限界を超えている」と頭を抱える。同市阿倍野区で妻と年金暮らしをする男性(74)は、「今後も家計の負担増が続きそうで不安だ。食費を削っていくしかない」と漏らす。

 住民の介護予防に取り組んで、保険料上昇を抑える自治体もある。岡山市は、高齢者の心身状態の改善に積極的なデイサービス事業所に奨励金を出している。要介護や要支援と認定される高齢者の割合は17年度に20・9%。当初の見込みより下がった。市は「想定より認定率が低く抑えられた」として、今年度からの保険料を月6160円に据え置いた。国は今年度から、介護予防や自立支援に積極的な自治体に交付金を出す。

 ◆担い手は1.5倍必要

 ■ほぼ半数

 医療や介護、保育などの給付費の大半は、職員の人件費だ。政府の推計では、医療、介護、保育などに必要な担い手は、18年度の約823万人から、40年度に約1065万人に増える。このほぼ半数が介護人材で、現在の1・5倍必要だ。

 だが、少子化で働く世代が減っていく。18年度から40年度にかけて、働く人は全体で約900万人少なくなる見通しだ。

 こうした中、特に給与の割に仕事がきついとみられている介護職は敬遠され、人材不足も懸念される。介護分野に人材を集めるには給与を上げる必要があり、これも給付費を増やす要因になっている。

 「今でも職員が集まらない」。都内で特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人の男性理事長(61)は途方に暮れる。就職フェアへの出展やハローワークでの求人を行うが、採用に結びつくことは「ほぼない」。都市部では、人手不足でベッドを空けている特養ホームもある。

 担い手の裾野を広げる試みもある。三重県の介護施設では15年度から、地域の高齢者らに「介護助手」として働いてもらっている。シーツ交換や配膳などの簡単な仕事が中心で、時給は850~900円ほど。17年度は37施設で計約200人が働く。平均年齢は70歳、最高は78歳だ。

 外国人の活用も打開策の一つだ。昨年11月から、技能実習生が介護現場で働けるようになった。栃木県で特養などを運営する社会福祉法人幸知会では今年度、ミャンマー人女性5人を受け入れる予定だ。同法人は「10年先の人手不足を考え、今から備えるべきだ」とする。

 介護保険に詳しい東洋大の高野龍昭准教授は、「40年代は、団塊の世代が90歳代、団塊ジュニアが65歳以上になり、人口減も進む。軽度者向けサービスを介護保険から外したり、利用者負担割合(原則1割)を上げたりすることが避けられない」と話している。


 ◆医療給付費抑制 「特効薬」なし

 医療の給付費も大幅増が見込まれる。政府は、診療報酬の高い病床の削減や転換、後発医薬品の使用促進などで2040年度までに伸びを1・6兆円削減し、68・5兆円にするとしているが、先行きは不透明だ。

 病床の再編については、今年3月末現在で合意したのは公立病院5%、公的病院8%のみ。民間病院は、経営の問題が絡むために再編に消極的で、ほとんど計画は進んでいない。

 計画通りに進んだとしても、現在の政策だけでは不十分との指摘もある。

 日本総合研究所の西沢和彦・主席研究員(社会保障)が求めるのは診療所の改革だ。住民が地域のかかりつけ医を1人選んで登録し、かかりつけ医は登録された患者の人数に応じた支払いを保険組合などから受ける仕組みに改める。

 検査や投薬などの量に応じて医療機関に報酬が支払われる現行の制度に比べると、薬を必要以上に出しても収入増につながらないため、薬の出し過ぎの防止や病気予防の動機付けにつながるという。西沢研究員は「現行制度の延長線上の改革では社会保障は先行きが見えなくなる。抜本的な改革を、政治が打ち出すべきだ」と指摘している。(医療部 加納昭彦)