◎地域医療へ原点回帰を 急速に進む高齢化→2025年問題 京で日本内科学会シンポ 受診の考え方や死生観 市民も問い深める必要

2018.05.07

◎地域医療へ原点回帰を 急速に進む高齢化→2025年問題 京で日本内科学会シンポ 受診の考え方や死生観 市民も問い深める必要
2018.05.01 京都新聞


 団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となり、医療と介護の需要が大きくなる「2025年問題」に向け、在宅医療の普及や介護・福祉との連携に比重を置く「地域医療」への転換が進んでいる。受診に対する考え方や死生観を含め、市民も新たな考え方が求められそうだ。地域医療の主な担い手となる内科医でつくる日本内科学会が、4月15日に京都市内で開催したシンポジウムを詳報する。(鈴木雅人)


 自宅で穏やかな笑みを浮かべる男性の写真が、会場の大型スクリーンに映し出された。写真撮影から2週間後、男性は亡くなった。

 入院中は看護師に当たり散らし、悪態をついてばかりいたという。医師の高林克日己・千葉大名誉教授は「平均寿命を延ばすことも大事だが、患者がどうすれば安らかに幸せな最期を迎えられるか、(医学界は)あまりにも考えてこなかったのではないか」と自戒を込めて語った。

 厚生労働省は4月、医療と介護サービスの値段となる診療報酬、介護報酬を同時改定した。「入院から在宅へ」の流れを加速させる内容で、日常的な診察や健康相談に応じる開業医らの「かかりつけ医」の報酬や、医療と介護の連携につながる分野を手厚くした。これを受け、今回のシンポジウムで日本内科学会は初めて全会員向けに地域医療を取り上げた。

 改定の背景には、急速に進む高齢化への危機感がある。団塊世代が全員75歳以上の後期高齢者となる25年以降、85歳以上が年間総死者の半数を占めるとする試算も紹介された。国は膨らみ続ける医療費を抑制するため、効率化を図る。25年に必要となる病床を1割減の119万床と設定。治療用の「急性期」と長期療養の「慢性期」の病床を減らし、入院から外来や訪問看護による在宅医療への転換を促す。

 病床削減には市民の不安も根強い。これに対し、高林氏は「25年は超高齢化社会の終わりではなく、始まり。根本的に発想を変えないと医療が持ちこたえられない」と国の方針に理解を示した上で、「多くの人は高度医療の病院で最期を迎えたいわけではなく、自宅や特別養護施設を希望するはず。在宅医療は単なる病院のベッドの代替手段ではない」として、高齢患者のメリットにもなるとした。

 高齢患者にとって医療と介護は切り離せないという側面もある。日本医師会の鈴木邦彦常任理事は、かかりつけ医が医療と介護を一体的に提供することになるため、医師は介護保険の知識のほか、訪問看護師やケアマネジャーとの密接な連携が必要と助言した。

 25年に向けた新しい医療は、平均寿命を延ばすことを目指して高度医療を重視してきた医師と、それを求め続けてきた市民の双方に発想の転換を求める。

 医学の発展とともに治療は細分化し、内科も「循環器内科」などといった臓器別医療が主流だった。しかし、最初に患者と接することの多い内科医は今後、かかりつけ医としての役割が増す。日本内科学会の門脇孝理事長は「人は単なる臓器の集合体ではない。全身を診て、患者の生活の質にも配慮する内科医の原点に立ち返るべきだ」と呼び掛けた。

 全国在宅療養支援診療所連絡会の新田國夫会長は、「死に向かう患者の満足を得るには、治療が必要か不必要かを含めた判断が求められる」と問題提起した。裏返せば、市民がそれぞれどのような最期を迎えたいかとの問いでもある。

 94歳女性の事例が報告された。発熱を繰り返し、医師は肝膿瘍(のうよう)を疑った。入院させ、チューブを差して膿(うみ)を体外に排出させる施術が必要と考えた。女性は認知症があり意思決定できないが、過去に入院を嫌がっていた。家族は「治るなら入院も視野に入れるが、本人が痛い思いをすることは望んでいない」という。医師は家族が介護に積極的なことも考慮し、在宅で抗生剤を点滴することを決めた。

 認知症などで患者本人が意思決定をできるかどうかに加え、家族の揺れ動く気持ちをどう受け止めるかも終末期医療の難しさだ。新田氏は「患者の信頼するかかりつけ医が身近にいて、家族と繰り返し話し合って進めることが、人生の最終段階における最善の方法ではないか」と訴えた。