人口の通説を疑え 医療 必要とされる医療の中身が変わる

2018.04.27


〔特集〕人口の通説を疑え 医療 必要とされる医療の中身が変わる=高橋泰
2018.05.08 エコノミスト 

 ◇通説 高齢化で患者が激増?

 日本社会がこれから直面する高齢化問題の主眼は、急速に進む「高齢者の高齢化」への対応である。人口推計を基に将来需要をはじき出し、現在のサービス供給量との乖離(かいり)を「見える化」することに、医療界は先駆けて取り組んでいる。
 団塊の世代と呼ばれる1947年から49年生まれの人たちは、2022年から24年にかけて毎年200万人を超えるスケールで75歳を超え、その後も150万人を超える規模で75歳を超えていく(図1)。
 65歳、75歳、85歳の高齢者の姿をそれぞれ想像してもらえばわかるように、高齢者がより高齢になれば、医療も介護も必要とする人の比率が急速に高まる。団塊の世代は、25年になると76歳から78歳になり、医療や介護を頻繁に使うようになる。その結果、日本の医療介護の需要は、25年から35年にかけてピークを迎えることになる。
 人口構成が大きく変化すれば、医療需要の中身は大きく変化する。0~74歳の世代と75歳以上の後期高齢者が、今後どの程度の医療費を使うかを予測し、2010年を100としてグラフに示したものが図2だ。

 ◇「とことん」医療が過剰に

 75歳以上の総医療費(グレーの線)は25年に向けて急増し、30年のピーク値は2010年に比べて59・3%増となった。一方、0~74歳の総医療費(黒線)は、15年から20年まで微減した後、急激に減少する。10年から35年にかけては16・8%減少する。0~74歳と75歳以上を合わせた総医療費(破線)は、2025年の11・1%増がピークであり、その後減少に転じる。
 0~74歳と、75歳以上とでは、必要とする医療が異なる。
 0~74歳が必要とする医療とは、従来型の急性期医療、言い方を変えれば、治癒を目的とする医療である。0~74歳の患者の多くは、治療さえ終われば退院し、自宅で普段の生活に戻っていくので、退院後の患者の生活のことをあまり考えず、診療に専念する医療ともいえよう。このような医療のことを筆者らは、「とことん型」急性期医療と呼んでいる。
 医療の目的は病気を治すことであり、医療の中心はこの「とことん型」急性期医療であることは、今後も変わらないだろう。しかし、今後「0~74歳」の医療需要は減り続け、2040年ごろには「とことん型」急性期医療を提供する高度急性期・一般急性期に対応する必要病床数は、少なくとも現在より2割程度減少するであろう。
 では、75歳以上の高齢者が必要とする医療とは、どのような医療であろうか。主に必要とするのは、徹底的に病気を治すというより、体調が悪くなった時に、地域で生活を続けられるような治療とリハビリを提供してくれ、生活環境の整備まで相談に乗ってくれるような「生活支援型医療」である。年齢が進めば進むほど、この傾向は強まる。患者の多くは、退院後の支援がなければ家で生活することはできない。筆者らはこのような医療のことを「まあまあ型」医療と呼ぶ。
 このような生活支援型医療は、現在「地域包括ケア病棟」と呼ばれる病棟で提供されるようになってきている。患者(主に75歳以上)が家や施設で調子が悪くなった時に、地域での生活復帰を意識したリハビリを行いながら、病気と年齢や体力などを考慮した治療が行われている。さらに、高度医療機関から在宅復帰を目指す患者を受け入れ、リハビリや継続的治療を行うことや、地域でのみとり医療も重要な役割である。
 例えば、石川県の芳珠記念病院の地域包括ケア病棟では、作業療法士と医療ソーシャルワーカーが、入院患者全員に対して入院当初に患者の家への訪問を行っている。地域包括ケア病棟の目的が自宅復帰であり、自宅復帰の鍵は、自分でトイレに行けることであるが、自宅のトイレの構造により、回復すべき機能やレベルが異なってくる。そこで、自宅のトイレの構造や家の造りを確認するため家への訪問を行い、退院時の機能回復の目標レベル設定やリハビリの内容を決めている。

 ◇大都市で不足、過疎地で過剰

 2025年に向けて75歳以上の後期高齢者が急増するので、今後、生活支援型の「まあまあ型」医療を提供する病棟の需要も急増し、不足することが予測される。
 幸いなことに国レベルでみれば、「とことん型」病床の過剰病床数の予測と、「まあまあ型」病床の不足の予測数がほぼ一致する。よって今後必要なことは、「まあまあ型」病床の増床ではなく、「とことん型」病床から「まあまあ型」病床への転換である。病床転換とは、そのベッドの上で提供する医療を変更することであり、通常は、病棟単位で変更されることが多い。
 日本全体ではこのような方向性が描けるが、実際に人々が医療を利用するのは地域単位だ。人口動態も、現状の医療体制も、地域によって異なる。図3は、今後も現在と同じ医療が提供される(価格も内容も変化しない)と仮定し、人口構成のみが変化した場合、日本の医療需要ピークがいつどの時期にくるのかを示したものである。地域により大きく異なることが分かる。
 今後大都市では、75歳以上の後期高齢者が激増し、住民が必要とする医療や介護の量的確保が難しくなってくる。一方、過疎地では、地域人口の減少により医療機関の維持が難しくなってくる。このような時、最も重要なことは、地域の現状や将来予測を「見える化」することである。

 ◇需要を地域ごと「見える化」

 筆者は11年1月、地域ごとの医療や介護の提供に関するデータと地域ごとの人口推計データを結び付けて、全国を344に分けた2次医療圏ごとの将来推計を容易に行える2次医療圏データベースを、ウェルネス社と共同で開発し、無料公開した。その後も毎年バージョンアップを行っている。また12年以降、このデータを基に2次医療圏ごとの詳細な評価や将来予測などを日本医師会総合政策研究機構と共同で取りまとめ、毎年発表している。
 2次医療圏とは、入院治療まで含めた一般的な医療を提供する区域で、鳥取・徳島県は3、北海道は21というように都道府県を分けたものだ。
 このような活動が契機となり、人口の将来推計に応じたサービス提供量の調整計画を地域ごとに作成し、その計画の実現に向けて進めるという国策が動き始めた。厚生労働省は、14年に成立した医療介護総合確保推進法に基づき、2次医療圏ごと将来予測を行うための基礎データを14年度より整備している。
 このデータを基に、各都道府県は15年度から、たとえば「神奈川県相模原医療圏の2025年の必要数は高機能病床は808床、急性期病床は2305床……」というように推計している。
 また、地域単位で(ほとんどの地域は2次医療圏単位で)医師会・病院会・有識者など医療関係者等が話し合う地域医療構想調整会議を設置し、各地域の人口構成に見合った提供体制を実現するため、地域医療構想を策定している。「相模原医療圏の17年の高機能病床数は1025床、急性期病床数は2289床……であるので、高度急性期病床は217床の減床、急性期病床は16床の増床……を行っていく」というようなものだ。
 さらに、国の消費増税分の財源と都道府県の負担とで地域医療介護総合確保基金という予算が用意され、大阪府のように構想に沿って過剰の急性期病床を地域包括ケア病床に転換する場合、1床につき50万円を補助する都道府県もある。
 例に挙げた相模原のように現状と25年の必要病床数に大きな乖離がない医療圏は少数派で、現状の病床数が25年の必要数の3倍というようなケースも、決して珍しくない。しかし地域医療構想調整会議には、病院を名指しし、病床の転換を強制するような枠組みはなく、転換はあくまでも病院の自発的な決定によるものである。目覚ましい病床削減や転換は、あまり期待できないだろう。
 それでも、地域医療構想には二つの大きな意味があると筆者は考える。
 第一は、地域で過剰と判定された機能の病床は、実質的に作れなくなった。また日本中のほとんどの病院経営者が、自院の属する2次医療圏の人口予測や、今後の患者需要予測に強い興味を抱くようになり、病床や診療科を転換する時に、地域ニーズに沿う形の変更を行おうとする機運も高まった。

 ◇病院同士が話し合う場

 第二の効果は、過疎地域の病院間の統合や役割分担の促進が図られることである。
 多くの過疎地域の病院は、少ない医師と患者数減少の厳しい現状に直面し、病院間で「うちの〇〇科の患者を先生のところでお願いします。その代わり、××科の患者は、私のところで引き受けます」というような連携も行われ、病院同士で話し合いながら地域の医療をなんとか成り立たせているようなケースもある。地域医療構想で病院長同士が顔を合わせ、地域医療の在り方を話し合う機会が増えることで、以前より医療機関の連携が活発に行われるようになるだろう。
 縮小する需要に対応するために必要なのは、競争ではなく、計画と連携である。
(高橋泰、国際医療福祉大学赤坂心理・医療福祉マネジメント学部長)


毎日新聞社