<高橋動静の15年 150年目の北海道>「縮む時代」針路示せず

2018.04.25


<高橋動静の15年 150年目の北海道>「縮む時代」針路示せず
2018.04.21 北海道新聞


 現在4期目の高橋はるみ知事(64)が4月23日で就任から丸15年を迎える。この間、道内の人口は右肩下がりで減少し、地方航空路線の廃止や鉄路の廃線などが相次いだ。破綻寸前の道財政の足かせもあり、「縮む北海道」に効果的な対策を打ち出せたとは言い難い。今年は北海道命名150年の節目でもある。開拓使長官時代を含め、道政トップとして在任期間が最長となった高橋道政の下で、北海道はどう変化したのか。(報道センター 中村征太郎)

*人口減15年で「函館分」

 「知事の在任中に、函館と同程度の都市が丸ごとなくなったくらい減っているのに危機感がない」。2月下旬の定例道議会代表質問で、北海道結志会の赤根広介氏が知事の人口減対策にかみついた。北海道の人口は知事が就任した2003年には約566万人だったが、昨年1月時点で約537万人にまで約29万人減少。減少数は都道府県別で5年連続、最大となった。

 総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、北海道は22年連続で、住民の転出が転入を上回る「転出超過」。17年の転出超過数は6569人と全国で3番目に多かった。

 「人口減少・危機突破」を4期目の最重要課題に掲げる知事は、2月上旬の記者会見で「道外への転出超過数は3年連続で改善し、転入超過の市町村数は28に増加した」と胸を張った。

 確かに転出超過数は14年の8942人から3年連続で減少したが、転入超過とした28市町村の中には、転入超過ゼロの2町が含まれており、実際には前年の25から一つ増えただけだ。

 さらに、転入超過数が多いのは、札幌市8779人、恵庭市422人などの札幌圏で、札幌圏以外の超過数は百数十人から数人程度。道内各地で減り続ける人口を札幌圏が吸収しているだけとも言える。道幹部は「都合の良いデータを並べているだけ」と認めた。

 道は13年度から深川市など3カ所で集落対策のモデル事業を行い、移住者呼び込みなどに取り組んだ。だが庁内では「人口減は大きな流れ。止められない」(幹部)との声も漏れる。

 道央圏のある市長は「人口減対策を唱える一方で、地域の人口減少につながる公立高の統廃合を進めている。政策がちぐはぐで、本気度を疑う」と批判する。

*財政硬直 政策の足かせ

 「知事を責めるのはかわいそうだ」。道北のある首長は、知事が硬直化した道財政に手足を縛られ、思うような独自施策を打てなかったと分析する。バブル経済の崩壊による度重なる財政出動で、知事が就任した03年度末にはすでに道債残高(借金)が5兆3500億円あった。知事は「聖域なき歳出削減」を掲げ、新規採用の抑制や職員の給与削減を断行。03年度に約2万人いた知事部局の職員数は18年度、3割減の1万2千人になった。

 道債残高は18年度末で5兆7800億円となる見込みで、知事の就任時に比べ増加したものの、歳出削減の効果で財政指標は一定程度改善した。借金返済に充てる額の割合を示す実質公債費比率は11年度の24・1%から、18年度見込みでは21・1%に改善。25%以上になれば、財政破綻が懸念される「早期健全化団体」に指定されるところだったが、回避した。

 ただ歳出削減がもたらした負の遺産も大きい。最近の道の政策予算は1千万円程度の継続事業が並び、「予算規模が市町村並み」と揶揄(やゆ)される。全道179市町村を支えるはずが、ある首長は「道は、市町村から負担を求められることを恐れている。頼りにならない」と話し、札幌に行っても道庁に顔を出さないという。

 新規採用を抑えた結果、約1千人の土木職のうち30代はわずか1割。採用試験の応募者も減少し、人手不足の結果、全道54カ所の出張所のうち6割の係が職員が2人以下だ。

 庁内では「20代だけの係もある。技術の伝承がうまくいかず、保線職員が不足して事故が多発するJR北海道と同じ状況だ」(幹部)と嘆く声も出ている。

*交通再編 くすぶる不満

 「これだけ交通政策の組織体制が整っている都道府県庁はないのでは」。東北や関東で複数の路線バス会社を運営する、みちのりホールディングス(東京)の松本順社長は3月、札幌市内で行われた交通政策会合でこう指摘した。

 道総合政策部の交通部門の職員は計約90人。北海道は九州よりも広大な面積を抱え広域的なネットワークへの目配りが行政の重要な役割の一つだからだ。

 知事の就任以来、交通分野で、北海道エアシステム(HAC)の経営再建や北海道新幹線の開業、国や沿線自治体と協議が続くJR北海道の路線見直しなど大きな課題が相次いだ。

 知事は道が筆頭株主だったHACの経営危機で自ら経営再建策をまとめた。一方、JRの路線見直し問題では北海道交通政策総合指針で、JRが「単独では維持困難」とした13区間のうち7路線8区間の維持を訴える内容にとどめた。

 沿線自治体からは「JRの見直し方針に基づいてつくっただけ。国の責任を問い、JRの方針を検証するのが道の役割だ」(道北の町長)と不満が尽きない。

 道と市町村は1990年代後半からの分権改革により「対等・協力」の関係が強まった。道幹部は「上下関係ではなく助言や調整する立場になり、財政難も加わって、できることが少なくなった。道の存在感を失った15年だ」と振り返る。

                  ◇

 高橋はるみ道政の15年間をどう評価するか。北大名誉教授の神原勝さん(75)=自治体学=と、北海道市長会会長で伊達市長の菊谷秀吉さん(67)に聞いた。

*北大名誉教授 神原勝さん*必要な政策決定回避

 高橋はるみ知事の支持率が高いのはいくつか理由があります。まず、道は市町村と違って直接住民と関わる業務は少なく、そもそも評価の対象になりづらい。道政の権限が及ばない政令指定都市の札幌市に、北海道の人口の3分の1が集中しており、評価は甘くなりがちです。

 一番大きな問題は、なすべきことをやらなかったことへの評価は大変難しいということです。知事は、主体的に行うべき政策決定を回避しています。北海道電力泊原発の再稼働、JR北海道の路線見直し問題がそうでしょう。手をつけていないことへの責任を問われるべきです。

 広域自治体である道の仕事は大きく二つあります。市町村では対応できない大型施設などの建設と、市町村の補完です。大型施設の建設は財政難でほとんどできていません。財政難は高橋さんだけの責任ではなく、これは仕方がない。

 市町村の補完もほとんどできていない。支庁制度改革で、政策を立案し執行できるよう切り替えるはずでしたが、看板の架け替えで終わった。市町村を補完しないことで、高橋道政の15年間で道庁は存在意義を失ったと言えるでしょう。

*北海道市長会会長 菊谷秀吉さん*「官依存」から脱却を

 高橋はるみ知事は、ある意味では気の毒です。私も1999年から伊達市長を務めて5期目ですが、やはり北海道は民間の力が弱く、官依存体質だと感じています。民間業者は規制の撤廃や新しいことへの挑戦に及び腰になりがち。ただでさえ道財政が厳しく、できる仕事は少ないのに、こうした多くの人たちからの圧力が強すぎて、知事の手足を縛っている状況です。

 就任直後、知事は胆振管内の首長と意見交換会を開きました。観光産業の活性化を狙い、「ホテルの格付けをしてはどうか」と話したところ、知事が別の会合で提案してくれたんです。ただ、周辺から「集客に影響が出る」と猛反対されて実現しませんでした。

 知事の功績は、道財政の立て直しに取り組んだことでしょう。残念だったのは支庁制度改革です。人員を削減しつつ限りある人材を生かす狙いでしたが、道町村会から激しく反対されました。

 知事は財政難や周囲の反対で、思うように政策を進められなかった。すべて知事のせいにするのはフェアではありません。北海道が変わるには、道民が自立心を養い、官依存体質から脱却する必要があるのです。

                  ◇

*開拓長官、県令、道長官、知事*官選から民選へ

 明治政府が1869年(明治2年)に開拓使を設置し、蝦夷地(えぞち)を「北海道」と名付けてからの150年を振り返ると、道のトップは、開拓長官時代、3県県令時代、北海道長官時代、北海道知事時代に分かれる。

 明治政府は北方警備と開拓のため、中央官庁の一つとして開拓使を設置し、佐賀藩主だった鍋島直正が初代長官に就いた。薩摩藩出身の第3代長官黒田清隆は屯田兵制を創設し、開拓の礎を築いた。

 82年(明治15年)の開拓使廃止に伴い、函館、札幌、根室の3県が置かれ、各県に県令が配置された。ただ、3県分治の非効率性などが指摘され、86年(明治19年)には新たな統一的機構として、北海道庁が設置された。初代長官には高知藩出身の岩村通俊が就いた。

 終戦後の1947年4月、北海道長官選挙が行われ、社会党の当時35歳の田中敏文氏が当選。初の民選トップが誕生した。田中氏はそのまま初代の道知事となり、3期12年を務めて戦後の混乱期を支えた。田中氏が退いた後、自民党と社会党の対立時代が続き、59年には自民党の町村金五氏、71年には自民党の堂垣内尚弘が当選し、それぞれ3期12年務めた。

 83年には市民運動の「勝手連」の支持も受け社会党の衆院議員だった横路孝弘氏が当選し、一村一品運動などを展開。後継で副知事だった堀達也氏は道庁裏金問題などを抱えた一方、公共事業の再評価制度「時のアセス」の導入など道政改革も行った。2003年に誕生した自民党系の高橋はるみ氏は初の女性知事となった。(報道センター 高橋澄恵)

*高橋知事 初当選からの歩み

<1期目>

2003年4月 9氏による乱戦を制し、道知事に初当選。道政史上初の女性知事誕生

    11月 道警の裏金問題が発覚

  04年1月 知事が胃がん摘出手術で入院

     4月 「道州制プログラム」を策定

     7月 道の財政立て直しプラン(05~07年度)を決定

    10月 全国初の子育て支援条例が施行

    11月 収賄容疑で前石狩支庁長が逮捕される

    12月 「平成の大合併」道内第1号の新・函館市が誕生

  05年4月 ドクターヘリが道内本格運航開始

        食の安全・安心条例が施行

     5月 北海道新幹線着工

     7月 知床が世界自然遺産に登録

  06年2月 トヨタ系の自動車部品製造大手アイシン精機(愛知県)が苫東進出を正式表明

        新たな行財政改革の取り組みを決定、4月から道職員の給与10%削減を実施

     4月 第三セクター鉄道のふるさと銀河線(北見-池田間)廃止

     6月 夕張市の巨額負債が発覚、財政再建団体指定の申請を正式表明

    12月 道州制特区推進法が成立

<2期目>

  07年4月 道知事に再選

        自動車部品最大手のデンソー(愛知県)が千歳市に部品工場建設表明

     9月 旭川競馬場撤退などを柱とした競馬改革ビジョン素案を発表

    11月 収賄容疑で道立函館水試場長が逮捕される

        22の道立試験研究機関を10年度に統合し独立行政法人化する方針を提示

        国産牛の牛海綿状脳症(BSE)対策で全頭検査継続を表明

  08年2月 コンサドーレ札幌の運営会社支援で一部貸付金の返還猶予などを表明

     4月 地域医療を担う医師養成のための「地域枠」を札医大に導入

     6月 14支庁を9総合振興局と5振興局に変える支庁再編条例が成立

     7月 福田康夫首相(当時)が開発局の廃止に言及

        北海道洞爺湖サミット開催

     8月 政府のアイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会が初会合。知事も出席

     9月 リーマン・ショックで世界的金融危機に

    12月 政府・与党が北海道新幹線の長万部-札幌間の着工で合意。札幌延伸が事実上確定

  09年1月 丸井今井が民事再生法の適用申請

     3月 北電泊原発のプルサーマル計画受け入れを知事が表明

        14支庁体制を事実上維持する改正支庁再編条例が成立

     8月 衆院選で民主党が圧勝、政権交代へ

  10年4月 支庁再編で「振興局」体制スタート

        障がい者条例施行

     6月 札幌でアジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易担当相会合

     8月 大雨で上川管内の道道が陥没・決壊し、4人死傷

     9月 道営競馬存続を知事が表明

    10月 HAC新経営体制について、札幌市と大筋合意

  11年3月 東日本大震災

<3期目>

  11年4月 道知事に3選

     6月 奥尻空港でHAC機が地上30メートルまで異常降下

     8月 震災前に定期検査入りし、調整運転中だった泊原発3号機が営業運転再開

        泊原発3号機のプルサーマル計画の意見募集を巡る「やらせ」が発覚

    12月 北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区が政府の総合特区に指定

  12年4月 水資源保全条例が施行

     5月 泊原発3号機が定期検査入りし、国内全原発が停止

     6月 HAC経営難で一部路線休止などの経営改革案策定

        政府が北海道新幹線の札幌延伸の着工認可

    12月 衆院選で自民党が圧勝、政権交代

  13年3月 安倍晋三首相がTPP交渉参加を正式表明

     4月 道知事在任10年

     7月 参院選で自民党圧勝

    10月 JR北海道の不祥事が相次ぎ、道庁内に対策会議設置

  14年4月 消費税8%に増税

        エゾシカ対策条例が施行

     5月 JR江差線(木古内-江差間)廃止

        JR北海道の社外取締役に神姿子観光振興監の派遣を決定

     6月 北海道新幹線で北斗市内に設置される新駅の駅名が「新函館北斗駅」に決定

    10月 日航がHACを再子会社化

    12月 衆院選で自民党圧勝

        札幌市の2026年冬季五輪・パラリンピック招致に知事が協力表明

  15年1月 高波による被害でJR日高線が不通に

<4期目>

  15年4月 道政史上初の4選

    10月 新千歳空港の深夜・早朝発着枠が6便から30便に拡大

  16年2月 知事が道議会庁舎の建て替えを正式表明。事業費は120億円規模

     3月 北海道新幹線の新青森-新函館北斗間が開業

     7月 知事が道管理の女満別空港を含む道内7空港の一括民営化方針を関係自治体に伝達

    12月 JR留萌線(留萌-増毛間)廃止

        十勝管内清水町の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザウイルス検出

        道知事として初めて日ロ首脳会談に同席

  17年8月 16年度に道内を訪れた外国人観光客が230万1200人となったと発表。過去最多に

    11月 米国を除くTPP参加11カ国が新協定に大筋合意

    12月 知事がJR北海道の鉄路維持に向け、財政支援する考えを初めて表明

  18年3月 北海道日本ハムが新球場を核とするボールパークの建設候補地を北広島市に決定

        北海道新幹線札幌駅のホーム位置が「大東案」で決着

     4月 手話を言語として位置づけ普及する条例と障害者の意思疎通を支援する条例が施行

        胆振管内白老町に開設するアイヌ文化復興拠点の中核となる国立アイヌ民族博物館着工

北海道新聞社