日本の医療は高齢社会向きでないという事実/「医療提供体制改革」

2018.04.24

日本の医療は高齢社会向きでないという事実/「医療提供体制改革」を知っていますか?
2018.04.21 東洋経済オンライン 

権丈 善一:慶應義塾大学商学部教授



今、医療と介護の大掛かりな改革が進められている。

2018年4月は、大きな改革の中でも特筆すべき日付として歴史に残ることになるはずだ。

というのも、2018年4月1日には、「惑星直列」にも例えられていた画期的、いやびっくりするような出来事の重なりがあったからである。

4月に重なった怒濤の改革スタート

具体的には、医療や介護のサービスのあり方および個々のサービスの公定価格を決める診療報酬と介護報酬の同時改定(前者は2年周期、後者は3年周期)、地域医療構想を含む医療計画・介護保険事業(支援)計画(前者は6年周期、後者は3年周期)の同時スタートがあり、

そして1961年の国民皆保険制度の成立以来57年間、市区町村が財政運営していた国民健康保険は、今年の3月に、その財政運営の責任が都道府県に移ったのである。

この国民健康保険の財政運営主体の都道府県化について、今から5年前の2013年に今の社会保障制度の改革の方向性を示した社会保障制度改革国民会議(以下、国民会議)は、「国民健康保険の保険者の都道府県への移行は、(中略)国民皆保険制度発足以来の大事業」と評していた。

それだけではない。3月29日には、「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」の報告書がまとめられている。この検討会が開かれた目的の1つは、2007年に作成された「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(旧「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を2014年に「人生の最終段階に……」へ改称)の改訂であった。改訂の理由は、次のようなものだ。

(1)病院における延命治療への対応を想定した内容ではなく、在宅医療・介護の現場で活用できるよう、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に名称を変更。さらに、医療・ケアチームの対象に介護従事者が含まれることを明確化

(2)心身の状態の変化などに応じて、本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むかなどを、本人が家族や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うこと(ACP=Advance Care Planning〈アドバンス・ケア・プランニング〉)の重要性を強調

(3)本人が自らの意思を伝えられない状態になる前に、本人の意思を推定する者について、家族などの信頼できる者を前もって定めておくことの重要性を記載

(4)今後、単身者が増えることを踏まえ、(3)の信頼できる者の対象を、家族から家族など(親しい友人など)に拡大

(5)繰り返し話し合った内容をその都度文書にまとめておき、本人、家族などと医療・ケアチームで共有することの重要性について記載

さらには、先月の3月13日に「医療法及び医師法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、いま国会で議論されている。この法案の趣旨は、地域間の医師偏在を解消するため、医師の確保や臨床研修病院の指定、研修医定員の決定について、都道府県へ権限を移譲させることだ。
そして冒頭に述べた診療報酬の改定では、次の図が用いられながら、今回の改定による改革の方向性が示されている。すなわち、現在のように病院と診療所などの間で、入院・外来の機能が未分化である状況から、診療所などでの「かかりつけ医機能」の強化を図り、病院における外来は、専門外来に特化していこうというのである。


 


これらの一見、てんでばらばらに映る政策群には、1つの共通した背景がある。それを理解すれば、医療と介護が今、なぜ目まぐるしく動いているのかがわかるだろう。
超高齢化で求められる医療の質は変わる
繰り返しになるが、今の医療・介護改革の青写真を描いたのは、2013年の社会保障制度改革国民会議の報告書である。次に示すのは、改革のスケジュールで、医療と介護で一体的に進められる改革は、国民会議を起点としている。


 

では、医療と介護にどのような改革が求められているのか。その問いについては、この国民会議の報告書の文面を借りるのが最もわかりやすいかと思う。報告書は、20世紀に構築された、これまでの医療とその課題を次のように表している。
平均寿命60歳代の社会で、主に青壮年期の患者を対象とした医療は、救命・延命、治癒、社会復帰を前提とした「病院完結型」の医療であった。

しかしながら、平均寿命が男性でも80歳近くとなり、女性では86歳を超えている社会では、慢性疾患による受療が多い、複数の疾病を抱えるなどの特徴を持つ老齢期の患者が中心となる。
このあたりはわかりやすい話だと思う。かつての医療は、病気になった人を治し社会復帰させることを目的に掲げて進歩し、実に大きな成果を上げてきた。たとえば、1860年に書かれたナイチンゲールの『看護覚え書』では、病気とは回復の過程であると書かれている。そうした、回復するのが病気であるという定義の下に、医学と、それを社会システム化した医療制度は大幅に進歩し、その成果あって、いずれの先進国でも寿命の伸長を実現することができた。


しかしながら、そうなれば必然的に、患者の多くは高齢者になり、医療の中心は治す医療から、「治し」、そして患者の生活を「支える」医療に変わらざるをえなくなっていく。こうした状況の下で、1970~1980年代に欧州諸国をはじめ先進各国が(その中には日本も当然含まれる)、「何かが違うぞ」「患者のニーズと提供体制のミスマッチが起こっているぞ」と悩むことになったのである。では、そうした時代になれば、どのような医療が求められるのか。国民会議の報告書では、次のように表現されている。

医療は病院完結型から治し支える地域完結型へ
そうした時代の医療は、病気と共存しながらQOL(Quality of Life)の維持・向上を目指す医療となる。

すなわち、医療はかつての「病院完結型」から、患者の住み慣れた地域や自宅での生活のための医療、地域全体で治し、支える「地域完結型」の医療、実のところ医療と介護、さらには住まいや自立した生活の支援までもが切れ目なくつながる医療に変わらざるを得ない。ところが、日本は、今や世界一の高齢国家であるにもかかわらず、医療システムはそうした姿に変わっていない。
なるほど、という感じだろうか。続けて、
1970 年代、1980 年代を迎えた欧州のいくつかの国では、主たる患者が高齢者になってもなお医療が「病院完結型」であったことから、医療ニーズと提供体制の間に大きなミスマッチのあることが認識されていた。そしてその後、病院病床数を削減する方向に向かい、医療と介護がQOL の維持改善という同じ目標を掲げた医療福祉システムの構築に進んでいった。

急性期の患者のために整備されていった「病院完結型」の病院に、複数の病気を患い、完治するのが難しい慢性疾患も抱えた高齢者が大勢入院するようになっていった。

そうした患者にとって、急性期の患者に適した医療提供体制であった「病院完結型医療」が、はたして本当にフィットしているのかという疑問が出てきたわけである。

慢性疾患の患者には、「病院完結型医療」よりもふさわしい提供体制があるのではないだろうかと。そしてほかの先進国はそうした方向に進んでいったのだが、日本はなかなかうまくいかない。国民会議報告書の中の「医療問題の日本的特徴」というところに次の指摘がある。


日本の医療政策の難しさは、これが西欧や北欧のように国立や自治体立の病院等(公的所有)が中心であるのとは異なり、医師が医療法人を設立し、病院等を民間資本で経営するという形(私的所有)で整備されてきた歴史的経緯から生まれている。公的セクターが相手であれば、政府が強制力をもって改革ができ、現に欧州のいくつかの国では医療ニーズの変化に伴う改革をそうして実現してきた。


医療提供体制について、実のところ日本ほど規制緩和された市場依存型の先進国はなく、日本の場合、国や自治体などの公立の医療施設は全体のわずか14%、病床で22% しかない。ゆえに他国のように病院などが公的所有であれば体系的にできることが、日本ではなかなかできなかったのである。


日本の病院の多くは、他国の公的所有とは異なり私的所有である。この日本的特徴の下で、今、「高齢化の進展により更に変化する医療ニーズと医療提供体制のミスマッチを解消する」ために医療提供体制の改革が進められているのである。

そうした改革が進められるのと同時進行で、「医療」という言葉そのものの意味も、かつてのような救命・延命、治癒、社会復帰を前提としたものから、病気と共存しながらQOL(Quality of Life)の維持・向上を目指すものへと変えざるをえない状況になっていった。

そして、医療をQOL の維持・向上と見なせば、医療と介護の境目はなくなり、医療と介護がQOL の維持改善という同じ目標を掲げた医療福祉システムの構築が、今の時代に要請されることになっていく。これが目下この国で進められている、医療と介護の一体改革である。

医療と介護が同じ目標を掲げた医療福祉システムとして構築される中、そのキーワードとなるのが「地域包括ケア」である。

国民会議報告書では、地域包括ケアは「地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワーク」のことである。
提供体制改革は2025年までに間に合わせたい
医療・介護の一体改革は、かなり急ピッチで進められている。

その理由は、第1 次ベビーブーム世代、いわゆる団塊の世代が75歳という後期高齢期に達し終えるのが2025年だからである。後期高齢期、すなわち75歳以上になると医療・介護のニーズが急増し、しかも、第1 次ベビーブーム世代が後期高齢者になるあたり以降は、この国の医療・介護ニーズの絶対量は安定的に推移するため、まずは2025年をメドとして、医療・介護の提供体制の整備が図られているのである。


 


こうした目標年2025年を前にして、冒頭に書いたように、医療・介護の提供体制、医療保険制度、医師の養成など、さまざまな改革が重なってきたわけである。

今進められている医療と介護の改革を理解するための基礎中の基礎の知識は、日本は今、「治す医療」から「治し支える医療」に変わらざるをえず、治し、支える地域完結型の医療には、介護との境はなく、医療・介護の一体改革が必然となっているということである。この一体改革は、地域医療構想と地域包括ケアという両輪で進められているのであるが--このあたりは、いずれ折に触れて論じることにしよう。


東洋経済新報社