2018知事選:課題の現場から/上 地域医療 「奥能登は将来の日本」 高齢者増、医師は不足 

2018.03.09

2018知事選:課題の現場から/上 地域医療 「奥能登は将来の日本」 高齢者増、医師は不足 /石川
2018.03.07 毎日新聞


 ◇人員確保へ県、講座や修学費貸与

 「この前、一緒に福井の温泉に行ったんです。3年ぶりかな。朝風呂も入って体が軟らかくなった」。今月1日、穴水町平野の民家。診療で訪れた公立穴水総合病院副院長の中橋毅医師(59)と看護師に、蔵野春美さん(65)が写真を見せてほほ笑んだ。夫の静夫さん(67)は3年前に山林作業中の事故で脊髄(せきずい)を損傷。雪が積もり外出が困難になる12~3月は同病院の訪問診療を利用する。

 和やかな雰囲気の中、静夫さんが「富山で新しい治療を受けてみたい」と相談すると、中橋医師は「まず電話で問い合わせてみたら。必要なら紹介状も書くよ」。蔵野さん夫婦は「無理に通院しなくて済み、診察室では尋ねにくいことも話せる。訪問に助けられている」と話す。

 公立穴水総合病院の訪問診療患者は現在、60~80代を中心に十数人。心臓病やがん、認知症などを患い、寝たきりや独居の人もいる。同病院の常勤医14人のうち、訪問診療を担当するのは主に中橋医師1人。得るものは大きい。患者がリラックスした状態で会話や表情、動作から体調を見極め、ベッド位置やトイレ設備などの生活環境を把握し、希望を探る。

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 「奥能登の現状は、将来の日本社会の姿を映し出している」。人口の4割が65歳以上になった能登半島北部では、こんな声が聞かれる。国立社会保障・人口問題研究所が2013年に公表した地域別将来推計人口によると、40年には全国の自治体の半数近くで、65歳以上が4割を占めることになる。医療や福祉の担い手が限られる中、「能登の暮らしを守る取り組みは、日本の将来を考える手がかりになる」と、病院や大学、行政は模索を続ける。

 地域での高齢者の生活を支える方策の一つが訪問診療だ。実施には人材の確保が不可欠だが、16年度の人口10万人当たりの医師数は能登北部医療圏(輪島、珠洲、穴水、能登)で144・1人。都市部の石川中央医療圏(金沢など6市町)の341・3人と隔たりは大きい。

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 地方の医師不足が深刻になったのは、複数診療科での臨床研修を義務づける新制度が始まった04年度以降とされる。都市部との格差を解消しようと、県は10年度から4年間、地域診療支援と研究を兼ねた寄付講座を金沢大と金沢医科大に設置。公立穴水総合病院内の「能登北部地域医療研究所」は、金沢医大が講座と同時に開設した拠点の一つだ。訪問診療支援と研究のほか、教育のため若い医師や学生の受け入れを続けている。

 09年度には、県が金沢大医学類入学者に修学資金を貸与し、卒業後一定期間、指定の公立病院などに勤務すれば返還を免除する制度も始まった。17年度に初の適用者4人が能登北部で勤務を始め、18年度以降は年間約10人が加わる見込みという。

 医師教育や、看護師と介護職員の増員、大規模病院と地域の「かかりつけ医」の連携強化など、地域医療を巡る課題は多い。中橋医師は「療養やみとりなど、地域で暮らす人たちのさまざまな希望がかなう体制を」と望む。【久木田照子】

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 11日の知事選投開票を前に、県政の課題の現場をリポートする。