ニュース最前線ながさき/診療看護師(JNP)/報道部・山口恭祐/高度な医療補助 可能に

2018.03.06

ニュース最前線ながさき/診療看護師(JNP)/報道部・山口恭祐/高度な医療補助 可能に
2018.03.04 


 通常の看護師が単独で担えない診療の一部を行うことができる、日本版「診療看護師(JNP)」の普及を目指す動きが県内で進んでいる。長時間労働が課題となっている医師の負担軽減や、医療人材の確保が狙い。医師の仕事の一部を肩代わりするだけでなく、高度、複雑化した大病院の現場で医師と看護師らとの連携を支え、人手不足の離島の病院では多様な役割を受け持ち、患者対応の向上に役立っている。県内の現場で働く2人のJNPの姿を追った。

◎長崎医療センター(大村市) 本田和也さん(32)/連携支えるキーパーソン

 「具合はどうですか?」

 2月上旬、国立病院機構長崎医療センター(大村市、江〓[※注1]宏典院長)3階の脳神経外科病棟。諫早市出身のJNP、本田和也さん(32)が、コンビを組む日宇健医師(42)と朝の回診に当たりながら、入院患者に声を掛ける。入院中の約40人を見て回り、移動の合間には、うち15人ほどの日宇医師の担当患者について、2人で細かく情報を交換した。

 「患者の状態を医師と一緒に把握、共有して、何かあればすぐ対処できるようにしています」と本田さん。日宇医師は「緊急性の判断もできる。私が不在の時も心強い」と信頼する。

■知識、技能を認定

 看護師は本来、医師の指示なしで難しい医療行為を行えないが、緊急時の処置を中心に38の「特定行為」が定められている。国の制度では各行為ごとに研修があり、看護師は修了した行為に限り現場で指示を待たずに処置などができる。一方、一般社団法人日本NP教育大学院協議会が大学院で専門教育を受けた人を試験を経て認定するJNPは原則、全38行為をすることができる。一定の知識と技能を認められた、より医師に近い看護師だ。

 脳神経外科は、脳卒中など重篤で緊急性の高い患者に対処している。本田さんは基本的に平日の日中、病棟中心に勤務。日宇医師は外来や手術の執刀などに追われ、病棟を空けることが多いため、この間に患者が急変すると本田さんが状態を確認し必要な検査を指示する。結果を基に、日宇医師の判断を仰ぐ。

 検査依頼は本来、医師しか行えず、JNP導入前は日宇医師の執刀中などの場合に対応が後手に回ることもあったという。この日も、前日に頭を打って入院した患者の朝の頭部コンピューター断層撮影(CT)画像を確認した本田さんが、頭蓋内出血の増加にいち早く気づき、緊急手術につなげる一幕があった。

■治療との橋渡し

 このほか、手術後の抜糸や入退院時の他部署との折衝などを担当。看護師との情報交換や医師不在時の指示も大きな役割だ。杉原三千代看護部長は「主治医に近い情報を持ち、看護師の教育も受けている。治療と看護の橋渡し役」とする。

 同センターは2012年からJNP育成に着手。現在5人を擁している。本田さんは就職した08年から手術室の看護師を務めた。転機は11年の東日本大震災だった。被災間もない現地の病院へ派遣を打診されたが、「手術室しか経験しておらず、多様な業務をこなせる自信がなかった」と明かす。結局、派遣はなかったが、「幅広い知識や技術を身に付けたい」とJNPを志した。12年に大学院に進学。14年に同センター初のJNPの一人となった。

 「脳神経外科は院内で最も忙しい部署の一つ。JNPは看護師と医師の両方がよく分かり、チーム医療のキーパーソンとしても役立つことができる」と手応えを語る。

◎県壱岐病院 庄山由美さん(43)/処置、診察、指導 役割幅広く

 県病院企業団(米倉正大企業長)は2016年4月から、離島の2病院で診療看護師(JNP)を導入。壱岐市の県壱岐病院(向原茂明院長)では、長崎医療センター(大村市)から派遣された庄山由美さん(43)が勤務している。JNPの特長を生かして幅広い役割をこなし、看護部門全体の質向上にも寄与している。

 「痛いね。ごめんね」

 2月下旬、同病院で庄山さんは、高齢で寝たきりの入院患者に声を掛けながら褥瘡(じょくそう)(床ずれ)の処置に当たっていた。処置は傷の治りを早くする「陰圧閉鎖療法」の一環で、「特定行為」の一つ。看護師らと一緒にてきぱきと必要な作業をこなしていく。

 福岡県出身。同県の病院に16年間勤務したが、医師の多忙さから患者を待たせることがあり「看護師が代わりにやれれば、どれだけ患者さんのためになるだろう」とジレンマがあった。そんな時にJNPを知り、退職して大分県立看護科学大大学院に進学。修了後の14年4月、長崎医療センターに就職。2年間の勤務を経て県壱岐病院に移った。

 普段は、医師に代わって実施可能な患者への処置や検査、診察などを行う。糖尿病患者が治療と日常生活の指導を兼ねて入院する「教育入院」や、患者への退院後訪問指導も担当。訪問指導では、心不全の発作で入退院を繰り返していた男性の自宅を訪れ、訪問看護師やケアマネジャーと連携して発作ができるだけ起きないよう管理、指導を行うなどしている。

 看護師の枠を超え活動する様子は、他の看護師にも刺激になっているという。向原院長は「JNPの導入が看護師全体の質の向上につながっている。医師も助かっている」と評価する。

 4月には長崎医療センターに戻る予定。壱岐の現場を経験し「今後も離島や地域に関わっていく医療を実践したい」。現在も勤務の傍ら、学会などに参加して活動を報告するなどしており「JNPの普及にも役立つことができれば」と話す。

◎周知不足、普及に課題/県、新年度から養成支援

 診療看護師(JNP)を含む特定行為研修の修了者について、国は団塊世代が75歳以上になる2025年までに10万人の養成を目指しているが、周知や普及が進んでいるとはいえない。県は新年度からJNPの離島病院への導入支援や、特定行為研修の修了者を県内で拡大する施策に乗り出す。

 厚生労働省のまとめでは17年12月現在、38の特定行為のうち一部の研修を受けた人を含む修了者は全国で738人。各都道府県に最低1カ所の設置を目指す指定研修機関は、34都道府県(69機関)にとどまっている。県医療人材対策室によると県内の修了者は11人、研修機関は未開設だ。

 一方、日本NP教育大学院協議会によると原則、38の特定行為の全てに対応できるJNPは現在全国で292人。県内では、長崎医療センターと県病院企業団で計7人が働いている。

 同企業団は今後、離島4病院に各2人のJNPの配置を計画。県は支援のため新年度「特定行為研修(38行為)修了者育成事業」を創設。JNPを目指す人に修学資金を貸与し、離島の病院に一定期間勤めれば返還が免除される仕組み。県は新年度当初予算案に国負担分を含めた535万円を計上、同企業団も同額を拠出して費用に充てる。

 併せて県は新年度、医療機関が看護師を研修に派遣する際の費用を一部助成している既存制度で、特定行為研修を対象に加える予定。同室は「将来、今の医師数では地域医療を支えきれない恐れがある。周知や研修機関の開設にも取り組みたい」としている。

 JNPは大学院での専門教育も受け、特定行為の実施だけにとどまらない知識や技能を持つ民間資格だが、国は資格として認めていない。同企業団の米倉正大企業長は「JNPは患者を総合的に診ることができ、高度医療の現場だけでなく離島の病院、介護施設でも役割を果たせる」と強調。国がJNPを特定行為研修とは別枠で資格として認め、普及を図るよう求めている。

◎ズーム/診療看護師(JNP)

 日本NP教育大学院協議会が認定する資格。5年以上の実務経験後、大学院の専門課程を修了し試験に合格すると認定される。米国などで普及している診療看護師を参考に、国内の教育機関が認定制度を構築。厚生労働省が2010年度に国の制度化を検討し、当時は導入が見送られたが、教育機関側が独自に認定を始め、国立病院機構などが現場での活用を進めてきた。厚労省は15年度、特定行為研修制度を導入。JNPも同制度で特定行為の実施を正式に認められる形になった。


長崎新聞社