医学部大激変!! もはや東大・慶應大の時代ではない! 医療界のキーマン、国際医療福祉大医学部の北島政樹名誉学長を直撃

2018.03.01

医学部大激変!! もはや東大・慶應大の時代ではない! 医療界のキーマン、国際医療福祉大医学部の北島政樹名誉学長を直撃
2018.03.11 サンデー毎日 
 ◇国際医療福祉大医学部「新設1年」

 国家戦略特区の国際医療拠点として新設された国際医療福祉大医学部。「私大医学部受験の流れが変わった」と言われるほどの衝撃を与えた同大医学部の“仕掛け人”北島政樹名誉学長(76)が、「大競争時代」に突入した私大医学部入試戦線の現状を語り尽くした。

▼ランキング付き「年間300万円で私大医学部に行けます」

 国際医療福祉大に医学部が新設(千葉県成田市)されてから1年が経(た)った。

 私大医学部受験の人気と質のバロメーターと言われる入学試験の倍率と偏差値を見ると、同大医学部の初年度の倍率は一般入試で27倍超、2年目の今年度は24倍超、偏差値も60超(昨年6月発表の駿台全国判定模試)と上々の滑り出し。背景には、6年間で1850万円という、他を圧倒する学費の安さもある。

 私大医学部戦線は今、順天堂大医学部が慶應大医学部、東京慈恵会医科大、日本医科大の、いわゆる「御三家」を追い上げるなど、生き残りを懸けた大競争時代に突入しつつある。

 その順天堂大では病院経営を含む大改革を断行した小川秀興(ひでおき)理事長が知られているが、国際医療福祉大で一連の医学部新設プロジェクトに関わってきたキーマンの一人が、前学長で現副理事長・名誉学長を務める北島政樹医師である。

「ディスラプティブ・イノベーション(破壊的変革)なきところに進歩なし」と言い切る北島医師に、医学部新設からのこの1年と私大医学部戦線の今後などについて話を聞いた。

      ※

――まずは今年の入試状況から教えてください。

北島 昨年同様、一般入試枠とセンター利用入試枠、留学生枠と帰国生枠(昨年のセンター利用入試枠から分離)を合わせて3452人の受験生に本学を志願していただきました。

――帰国生枠にも注目が集まっているようですね。

北島 海外にいる日本人保護者からの問い合わせも増えています。日本で行われた学会に参加した時も、海外で長く活躍している日本人医師から「娘が先生の医学部を受験したいと言っているので、今度、オープンキャンパスに参加させてみます」と言われました。ありがたいことです。

――昨年は御学医学部の偏差値が早くもベスト10入りを果たしていますね。

北島 予備校によって若干のバラツキはありますが、例えば昨年6月に発表された駿台全国模試の判定結果を見ると(別表)、偏差値は61で第9位にランキングされています。もちろん偏差値がすべてではありませんが、今後も本学医学部に優秀な学生が集まってくることを期待していますし、また必ずやそうなっていくものと確信しています。

――北島先生はかねてから「学費と偏差値は逆相関、反比例の関係にある」とおっしゃっていました。

北島 私大医学部の場合、「学費が安いほど優秀な学生が集まる」というのは真実です。その結果、学費の安い医学部の評価や地位も上昇していきます。私が医学部長を務めた慶應大でも、そのブランド力や伝統力もさることながら、当時としては格段に安い学費によって、全国から優秀な学生が集まってきたのです。

 ◇特待奨学生は学費6年300万円

――その意味でも「6年間で1850万円」という学費戦略は図に当たったのではないでしょうか。

北島 確かに私大医学部の中で6年間の学費が2000万円の大台を切っているのは本学だけです(別表)。そんな中、日本医科大、杏林大医学部、昭和大医学部なども学費の値下げに踏み切りましたが、医師を志す受験生やその保護者らにとって、学費の安い私大医学部の選択肢が増えることは、とてもいいことだと思っています。

――御学医学部の場合、特待奨学生制度も大きなセールスポイントですね。

北島 一般入試の成績上位者を対象とした同制度については、今年から対象となる人数と奨学金の金額を大幅に拡充しています。具体的には、特待奨学生の対象者数を25人から30人に増やし、奨学金の金額も最大1140万円から同1400万円に増額しました。その結果、特待奨学生が納付することになる6年間の最少学費は450万円になりましたが、入学金の150万円を差し引いた、6年間で300万円というこの学費は、国立大医学部の同321万円(昨年度標準額)をも下回っています。

――特待奨学生でなくても1年間の学費は約300万円ですから、これなら親が医師ではない一般家庭の子弟でも手が届きますね。

北島 これくらいの学費なら何とかなりそうだということで、本学医学部に入学した一般家庭の学生はかなりいます。本学を含め各私大医学部ともその割合を公表していませんが、本学の1期生の場合、一般家庭の学生が医師家庭の学生よりも多くなっています。

――また、御学の場合、新設医学部の第1期生ということで、学生の志も高いのではないでしょうか。

北島 初年度の面接試験の状況報告でも、フロンティア精神に溢(あふ)れた受験生が多かったと聞いています。中には、東大の工学系の大学院を卒業して社会人になった後、本学医学部を受験することを決めたという学生もいました。その方は今、1期生として勉学に励んでいますが、私がかつて留学したハーバード大のメディカルスクールでも、社会人になってから医師を志す人がたくさんいました。

――御学医学部は安倍晋三政権が進める国家戦略特区構想の一環として、「次元の異なる医学部」を目指して新設が認められました。その際のキーワードの一つは御学の名称にもある「国際化」だったと思いますが、1年次2学期から2年次までの医学の専門教育を基本的に英語で行う、という独特のカリキュラムの評判や実績はいかがですか。

北島 本学医学部の入試では、面接試験も一部英語で実施しています。しかし、受験時に英語が堪能である必要はありません。USMLE(米国医師免許試験)の受験を目指すプログラムも含め、入学後の英語教育については本学が責任を持って実施していきます。実際、語学力の国際的な指標となっているCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を見ると、本学医学部1期生の入学から4カ月後の英語力は、Aレベル(初級)の学生が28%から17%へと減る一方で、B2レベル(中級)の学生が25%から36%へと増えています。

 ◇3月には医学部2期棟が完成

――「案ずるより産むが易(やす)し」ということですね。

北島 このような独特のカリキュラムの指導にあたっているのが医学教育統括センター長の赤津晴子教授です。赤津教授はスタンフォード大などで医学教育に携わってきた方で、センターの専任教員は外国人も含めて総勢25人。私が慶應で同様のセンターを新設した時の教員は2人でしたから隔世の感があります。

――外国人留学生のレベルについてはどうでしょう。

北島 20人の在籍留学生の多くは各国のトップクラスの大学医学部で優秀な成績を収めていた学生です。また、留学生に対しては別科として日本語教育を実施していますが、来日時にJ―CAT(日本語能力試験)でレベル4(初級)だった日本語能力も、1学期終了時点ではレベル2(中級)まで上昇しています。

――国際標準を満たす医学教育を目指すという点で、語学以外の注目すべきトピックスはありますか。

北島 申し上げたいことはいろいろありますが、例えば6年次に4週間以上の海外臨床実習を必修化しています。東南アジアを中心に海外の約40の医療系の大学や施設と交流協定を結んでいますが、ハンガリーのセンメルワイス大やフィンランドのヘルシンキ大とも提携したほか、現在、ノーベル賞受賞者を11人も輩出したポーランドのブロツワフ大とも交渉中です。

 あるいは、器官別統合講義とアクティブラーニングも有力なトピックスです。器官別統合の講義を導入することで、分野別に重複して行われていた講義を整理するとともに、その時間を有効活用してアクティブラーニングに回すことができます。本学のグループ学習では1学年140人の学生を留学生1人が必ず入る7グループに分けることが多く、そこでのディスカッションを通じて主体的に課題や解決策を発見していく能動型の学習方式を積極的に取り入れています。

――「反転授業」も能動学習の一形態になりますか。

北島 その通りです。反転学習ではまず、教科書や事前ビデオ課題などを予習させておいて、それに対する小テストを課します。その後、講義形式のミニレクチャーを実施した上で、学生たちを前述の7グループに分け、そこでディスカッションを行わせます。

――医学教育シミュレーションセンターも完成間近とうかがっていますが。

北島 今年3月に医学部の2期棟が完成すれば、わが国では最大規模(約5300平方メートル)のセンターとなります。同センターには模擬の診察室をはじめとして、診察モニター室、救急救命室、手術室、集中治療室、病室などが整備されるほか、高度にコンピューター制御された最新鋭のシミュレーターを使って基礎的な医療手技などを習得することもできます。

 ◇「破格の学費」が実現した理由

――「次元の異なる医学部」の一端が垣間見えるお話ですが、医師会の一部などには「これ以上、医師の数を増やしてどうする」という批判の声もあります。

北島 そのような声があることは承知していますが、本学の今後の実績と時間が解決していく問題だと考えています。例えば、本学医学部を卒業して地域医療に携わった後、海外で活躍する者もいるでしょう。あるいは、卒業後に海外留学してさらに高度な医療の知識や技術を習得し、帰国してそれらを国内で生かしてくれる者もいるでしょう。いずれにせよ、国際標準を身に着けた優秀な医師が増えることは地域にとっても国にとっても望ましいことであり、この点については私自身も含めて、地元の医師会をはじめとする関係者の方々にご説明し、ご理解を得てきたところです。

――今年4月には東京赤坂キャンパスが完成するとともに、医学研究科(博士課程・修士課程)の大学院も開設予定と聞いています。また、2020年には642床の成田病院もオープン予定とのことですが、こうなると私大医学部戦線は生き残りを懸けた大競争時代に突入していくのでは?

北島 私が学生だった時代でさえ、例えば理工系の新設大学を卒業し、学会を先導していた人がおられました。競争の時代を迎えている大学医学部も同じで、もはや「東大だ」「慶應だ」という時代ではないと思います。新設医学部には伝統がないと言う人もいますが、私は1970年代に医学部が新設された杏林大に在籍していたこともあり、どうすれば負けないかについても、さまざまな経験と熟慮を重ねてきました。

――その端的な答えが、低額の学費で優秀な学生を集め、集めた学生にハイレベルで最先端の医学教育を施す、ということですか。

北島 その通りですが、入り口にあたる学費を下げるには、大学そのものの財務状況が健全でなければできません。医学部自体が財を生み出すわけではありませんから、とくに私立の医科大では病院経営で出した収支差額を教育や研究などに回していく、という仕組みの構築が必須なのです。

――御学にはその仕組みがあるということですか。

北島 本学の場合、五つの附属病院はいずれも黒字経営を続けており、純資産も700億円以上に達しています。この健全な財務状況が5キャンパス9学部22学科の大学本体などを支えるとともに、私大医学部としては破格とも言える学費を実現したのです。

――まさに北島先生の唱える破壊的変革ですね。

北島 小手先だけのサステイニング・イノベーション(継続的変革)ではなく、社会にパラダイムシフトをもたらすようなディスラプティブ・イノベーション(破壊的変革)こそ、真の変革である――。これは今も変わらぬ私の信念です。

(ジャーナリスト・森省歩)

………………………………………………………………………………………………………

 ◇もり・せいほ

 1961年生まれ。慶應義塾大を卒業後、出版社勤務を経て独立。政界ものに定評があり、『田中角栄に消えた闇ガネ』(講談社)などの著書を次々に発表。2012年に大腸がんの手術を受けて以降は医療ものも手がけている。近藤誠医師の著書『がん患者よ、近藤誠を疑え』(日本文芸社)、『僕はあなたを「がん治療」で死なせるわけにはいかない!』(文春ムック)では「がん患者代表」として聞き手などを務めた

 ◇きたじま・まさき

 1941年生まれ。慶應義塾大医学部を卒業後、ハーバード大メディカルスクール、マサチューセッツ総合病院に留学。慶應大病院長、慶應大医学部長などを経て、2009年に国際医療福祉大学長に就任。2016年から国際医療福祉大副理事長・名誉学長。日本癌治療学会理事長、日本外科学会会長、万国外科学会会長なども歴任した日本を代表する外科医