緊縮の現場から 2018年度県当初予算案 (中) 一志病院の地域包括ケア 広がれ 顔見える関係

2018.02.19

緊縮の現場から 2018年度県当初予算案 (中) 一志病院の地域包括ケア 広がれ 顔見える関係
2018.02.16 中日新聞 


 【三重県】「顔の見える会」という集まりが、津市の山里にある。集うのは医師や看護師、ケアマネジャー、高齢者福祉施設職員など医療福祉現場の専門家、民生委員や自治会長もいる。

 ある日の会合-。

 ケアマネジャー「認知症で生活が困窮しているお年寄りが老人ホームに入ってくれない。家はごみ屋敷」

 医師「私が訪問診療して、必要なら精神科医につなごう」

 自治体職員「市民福祉課に相談してほしい。精神疾患と認められれば市の保健師が定期的に訪問できる」

 会は津市の美杉、白山、一志地区の高齢者を地域全体で支えることを目指す。病院だけの医療でない「地域包括ケア」先進地として注目を集める。

 限界集落が並ぶこの地域で唯一の総合病院「県立一志病院」の四方哲(しかたさとる)院長(48)が、会の中心。「医師は治療だけではいけない。退院しても買い物もできず、食事の世話もない状況なら、地域で解決する」。だからケアマネジャーらと一緒に退院後のことも考える。

 自治医大卒業後、地域で患者に接し幅広い病気をみる総合診療医として出身地の京都府の山間地で医療に携わり、「医師は地域ネットワークの一員でなければ」が信念になった。二〇一二年に一志病院に着任、会を立ち上げた。

 大切にするのはその名の通り「顔の見える」関係。多職種の会員が定期的に直接会うため、担当する高齢者のことで困ったとき、「あの人に相談しよう」と頼みやすい。

 一志病院には全国から視察が相次ぎ、地域医療を志す若い研修医も集まる。それは、国も「病院から在宅へ」と、高齢者が住み慣れた地域で最後まで暮らせる「地域包括ケアシステム」実現を目指すからだ。

 高齢化が進み、今後は緊急の手術を要する患者より慢性的な病気のお年寄りが増える。健康的に生活できる期間「健康寿命」を延ばし、できるだけ家庭や高齢者施設で過ごしてもらうことは、医療費削減にもなる。だが、内閣府調査で高齢者の六割が「病院より家で最後を迎えたい」と考えるが、実際は八割が病院で亡くなる。

 県でも医療・社会保障関連予算は十五年で倍近く増え、財政が苦しい要因だ。高齢者は四〇年ごろまで増え続け、認知症患者も二五年には十万人を超えると予測され医療費増加は確実だ。

 県は「県内に全国屈指のモデルがあるのだから、生かさないといけない」と、一志病院の地域包括ケアを全県に広げたい考え。新年度、医療を担う医療対策局と介護を所管する健康福祉部を「医療保健部」に統合し、医療と介護を結んで高齢者が地域で暮らせる社会を目指す。予算案に百五十万円を計上し、顔の見える会メンバーに県内の過疎地で研修を開いてもらう。

 だが、「全国で地域包括ケアはあまり実現していない」と四方院長。医師の多くが他職種との連携に消極的なことなどが背景にあるという。「私たちの会はみんなボランティア。行政頼みでなく地域課題を自分たちで解決する思いが必要だ」と強調する。

 県担当者も「医師や地域の人の心に火が付かないと難しい。そこまでできるか分からない」と本音を漏らす。組織刷新で臨む看板政策で成果が上がるか真価が問われている。(森耕一)

中日新聞社