「100歳リスク」に備える 年金・医療・介護は7年後に崩壊する!

2018.01.11

「100歳リスク」に備える 年金・医療・介護は7年後に崩壊する!
2018.01.12 週刊朝日


 医療では、病院の経営危機が問題になりそうだ。

 日本の医療は、公的な医療保険を使う限り、費用の「診療報酬」はすべて国が価格を決めている。来年度は改定の年で、今回の折衝で全体は前年度比1・19%下がるが、診察料や入院料などの「本体」部分は0・55%上がることとなった。

 日本医師会の影響力が大きいとされるが、医療ガバナンス研究所の上昌広理事長によると、「本体」全体よりも、春までに決まる個々の医療行為への点数(価格)付けを注目しているという。

 「小泉政権以来、社会保障費の自然増抑制、つまりは医療費カットが始まりましたが、点数付けを見ていると、病院で行う医療行為のカットが目立ちます。点数が減ると、病院にとっては収入減になります」

 一方でコストは上昇する一方だ。経費の6~7割は人件費が占めるが、例えば看護師の平均年収は473万円と高い。人手不足が顕著な都内では、夜勤手当があると1年目から500万円を超えるという。

 「これではソロバンが合いません。今後はコストの高いところ、つまり東京の病院から破綻するところが出てくるでしょう。そして、それは全国の都市部へ広がっていく」

 地方の過疎地では、本物の「医療崩壊」が始まる。上理事長によると、70~80歳の医師が一人で地域医療を支えているケースがいっぱいあるという。

 「仮にその医師が亡くなったら、その地域は即、アウトです」

 年金は一見、落ち着いているように見えるが、遅々として進んでいないことがある。現在の受給者に対する給付抑制、つまりは年金額の切り下げだ。

 保険料の14年連続の値上げは17年度で終了し、「65歳」への支給開始年齢の引き上げもスケジュールどおりに進んでいる。高齢化対策の三本柱のうち、給付抑制だけが進んでいないのだ。

 「マクロ経済スライド」という「道具」はできている。物価が上昇したら連動して年金も上がるルールを一時凍結、物価が上昇するほどには年金額を上げないことで実質価値を下げていく制度だ。

 ところが、デフレで肝心の物価が上がらず、制度は04年にできたのに、15年度に1回、発動されただけだ。

 名目の年金額は、できるだけ減らないような仕組みになっていて、昨年度に制度が一部改正されたが、その仕組みはしっかり残った。専門家の間ではマイナス改定を容認し、物価がどう動いても制度を完全発動するように求める声が強い。


 ■負担を増やさず給付充実のつけ

 どの制度も前途多難だが、財政危機に話を戻すと、巨額の財政赤字の積み上がりは、いったい何を意味しているのだろうか。

 慶応大学の権丈善一教授によると、日本は国民の負担を増やさないまま、赤字国債を発行することで社会保障給付を拡大し続けてきたという。

 「いわば、どの国もマネできない『給付先行型』の福祉国家をつくり上げてしまったのです。
ものすごく議論を簡略化して言いますが、給付を先行させるとどんどん国債が積み上がっていきます。
積み上がった国債には国債費(利払い費と償還費)を支払う必要があるため、負担が同じままだと福祉の給付に使える部分が少なくなっていきます。

つまり、時間がたてばたつほど、高負担なら高福祉、中負担なら中福祉とはならず、高負担だったら中福祉、中負担だったら低福祉になるわけです。
それに、金利が上がれば国債費が増えますから、高負担でも低福祉になりかねません」

 その関係を表したのが上の図だ。負担増を先送りするほどに、「実行可能領域」は右下方向にシフトしていく。

 「増税できたとしても、今度は困ったことになります。増税の相当部分は財政再建に回さなければならないため、増税分すべてを社会保障給付に使うことはできません。普通の人は財政事情のことなどわかりませんから、すぐ『増税するのに、なぜ社会保障が増えないんだ』と怒り始めます」

 下の図を見てほしい。今度は時間がたてばたつほど、社会保障の取り分が少なくなり、国民の不満が出やすくなる。まさに、今も起こっていることだし、これからの日本では深刻さが増しそうなことだ。権丈教授は、

 「いったん給付先行型になったものを、はたしてこの国で元に戻せるのか、皆さんには、そこのところをよく考えてほしい」

 と警告するが、とはいえ、財政危機を抑えるためには増税は避けて通れまい。先の小黒教授が強調する。

 「何もしないままだと、消費税率30%の世界になります。だからこそ社会保障の改革を急がなければならないのです」

 増税とセットになる費用削減についての提案はさまざまだ。

 「入院外の医療費を見ると、5千円未満のものが件数では約4割を占めています。風邪など軽いものは公的保険から外していく手があります」(小黒教授)

 「現在は認められていない、自由診療と保険診療を組み合わせた混合診療を解禁すればいい。すると価格破壊を狙って診療費を値下げする医者が出てきて、健保も患者をそちらに誘導しますから、医療費が減ります」(上理事長)

 「年金も考え方を変えるべきです。『支給開始年齢の引き上げ』と言うから、抵抗が強くなる。デンマークやオランダ、イタリアなどでは、平均余命の伸長に応じて支給開始年齢を自動的に引き上げる措置がすでに決められています。これに似たもので、年金額の調整はあるものの、一定年齢の幅でいつからもらってもいいようにして、負担と給付の関係で保険数理上、損得がない年齢を『フル年金支給開始年齢』と呼ぶようにしてはどうでしょうか」(小黒教授)

 お金の話ではないが、国際医療福祉大の高橋教授は、「今後は介護そのものが必要なくなっていく」と、驚くべき予想を口にする。

 「今の日本の介護は『オムツ交換』や『食事介助』が中心ですが、欧米では無理やり行う食事介助は虐待と考える人が多く、自分で食べられなくなったら寿命と考え、あきらめるというスタイルが一般的です。日本でも80歳より下の人に、『オムツや食事介助をされても、生き続けたいですか』と聞くと、7~8割の人が『まっぴらごめんだ』と答えます。こういう高齢者が急増して、介護のありようが大きく変わると見ています」


 ■最後の解決手段はハイパーインフレ

 ところで、冒頭の財政危機シナリオでは急激な物価上昇を想定したが、15年9月の財政制度等審議会に、財務省が興味深い資料を提出している。「我が国財政の変遷」をたどる中で、先にも触れた、現在と同じGDP比約200%あった終戦直前の債務残高が、主にハイパーインフレーションによって「克服」されたと分析しているのだ。

 それによると、卸売物価上昇率が1946年度432・9%、47年度195・9%、48年度165・6%と暴騰し続けると、債務残高対GDP比は46年度56%、47年度28%、48年度20%と急減した。預金封鎖などもあったため、国民の窮状は大変なものだったが、国家財政の観点ではわずか3年で問題がないレベルに下がったのである。

 ハイパーインフレーションが起きると財政危機が一気に解決することを資料は教えてくれるが、問題は資料を出した財務省の意図である。単なる分析なのか、「こうなっては、いけない」とする警告なのか、それとも……。

 (本誌・首藤由之)


 ■東京大変! 街に徘徊老人、「介護難民」が大量発生!? 増田寛也・野村総研顧問(元日本創成会議座長)

 東京都を中心とした東京圏には、財政問題とは違った「2025年問題」があります。私が座長を務めた「日本創成会議」が2015年に問題提起した「介護・医療危機」です。

 東京圏は高齢化のスピードがこれから桁違いに速くなります。しかも、75歳以上の後期高齢者が激増、25年までに1都3県で175万人も増加します。全国の増加数の実に3分の1です。ところが、それに見合った十分な介護・医療施設があるかというと、圧倒的に足りなくなる可能性が高い。土地が少ないうえ、昨今の深刻な人手不足を考えると、なおさらです。

 問題提起から時間がたちましたが、状況はあまり変わっていません。このままでは、介護施設に入れない「介護難民」が自宅で暮らすことを余儀なくされるため、街に徘徊老人がさまよったり、一人暮らしのお年寄りの孤独死が急増したりすることが予想されます。病院には、診察待ちの大行列ができるでしょう。都内の火葬場は今でも混雑していますから、これ以上死亡者が増えていくと、ちゃんとした葬儀ができるのかさえ心配になってきます。

 家族から悲鳴が上がるようになってからでは、手遅れです。個別自治体だけで対応するのは難しいでしょうから、早急に東京が音頭を取って1都3県が協力して対策をはじめるべきです。東京の杉並区が18年3月、全国で初めて静岡県の伊豆に区域外特別養護老人ホームを開設しますが、このように静岡・山梨あたりまでを視野に入れて施設を考えればいい。介護人材は、根気強く地方に働きかけて来てもらうしかないでしょう。

 それと東京圏は企業も多いので、企業の中枢で働く40~50代のサラリーパーソンが介護離職することがないような体制づくりをお願いしたい。大企業の人事関係者に聞くと、「なぜ、あの人が……」というような優秀な人が介護が原因で辞めていく例が目立つといいます。経済的なロスを防ぐ意味からも、早急に対策を考えるべきです。