東京一極集中を招いた新専門医制度の弊害 ~医師偏在対策は予想通り大失敗~

2018.01.09

東京一極集中を招いた新専門医制度の弊害 ~医師偏在対策は予想通り大失敗~
2018年1月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会

来年度から始められる新専門医制度が大変なことになっている。
専門医の質の担保より偏在対策を優先させ、医療現場から挙った多くの反対の声(1)を押し切って開始した新専門医制度の一次登録(専門医の卵:以下専攻医で統一)が締め切られ、大勢が判明した。

結果、全科で専攻医の地域偏在が拡大し、内科の激減、東京の一極集中が顕著となった。

2012年〜14年の全国専攻医(人口比)の平均地域最小最大格差が3.09倍だったのに対し、今回の地域格差は4.67倍(!)にもなっている。

特に東京の登録数は、過去に比べて50%増え、東京の一人勝ちとなった。(ただし正確には、都会の基幹病院から地方へ派遣される場合は、今回のデータでは都会でカウントされるのでその分は割り引く必要がある)
医学部の増員により、医師国家試験合格者数は前記の時期に対応する2010年−12年平均が7637人に対して、2016年は8630人、13.0%増えているが、今回、内科希望者は実数で123人減り、相対的には−15.2%と激減した。外科は実数ベースで767人と横ばいだが、相対的には−10.7%と大幅に希望者を減らした。

つまり、内科外科離れが著明なのである。反対に数を増やしたのは、眼科、耳鼻科、泌尿器科などのいわゆるマイナー科である。それぞれ、相対的に24.5%、16.5%、16.0%も増加している。

問題は、偏在の拡大により、専攻医数が極めて少なくなった県である。
内科は、希望者が集中した東京が520名に対して、高知県5人、宮崎県9人、福井県11人、島根県12人、この人数で一体どうやって医療システムを継続させていくのだろう。

外科を見てみよう。高知県・山梨県・群馬県は、外科の希望者全県でたった1人である。宮崎県・島根県・福井県・奈良県も各2人ずつしかいない。

小児科に至っては、希望者数0の件が2県(徳島県・佐賀県)、岩手県・山形県 富山県・山梨県も希望者が1人しかしない。

産婦人科もたった1人しか希望者がいない県が、7県もある(岩手県・福井県・鳥取県・徳島県・香川県・大分県・宮崎県)
これらの県では、社会的共通資本である医療体制がこのままの状態でいけば、若い人を呼び込んで子供を産み育てることがかなり厳しくなるだろう。

そもそも研修施設数に対して、専攻医数が絶対的に少ないのは、当初より医療現場からは指摘されており(2)、この事態は想定出来たのである。それでも日本専門医機構はごり押しした。一応特定の地域に集中しないようにキャップもかけていた、はずだった。

具体的にいうと、5都道府県は、専攻医数の制限がかかっていたはずである。それが何故これほどの集中と偏在をもたらしたのか。この結果から考えるに、機構は科別の過去5年間の平均専攻医数すら、きちんと把握していなかったのではないか。そうでなければ、なぜ機構はデータを一切公表しないのだろうか。

機構はガバナンスが欠如している。今機構を仕切っているのは、日本医師会と各学会の幹部であり、機構はこれらの団体から借金している身の上で、独立した第三者機関どころか、全依存状態である。

筆者は借金の形にこの制度を強行するにしても、これからの医療を担う若い医師達のためにせめて以下のことだけはやって頂きたいと主張してきた(3)。同様の意見は他の多くの現場の医師達からも出されていた。

・「質」を担保するための統一基準を公表し、「質」が担保されるのであれば、単独施設での研修も認めること

・基本領域の選定再議論も平行して進めること

・基幹施設となる大学病院の理不尽な仕打ちや不自然な循環型プログラムを拾い上げ具体的な改善策を示すこと

・専攻医の身分保障をすること

・機構の議事録をはじめとする情報を速やかに公開すること
・機構は、制度の検証—改善という仕事に特化すること

残念なことに、機構はどれひとつとして、手をつけていない。

今、専攻医の登録をしていない研修医に対して、機構からすぐ登録をして志望先を決めるように連絡が来ているそうだ。
誰もが専門医になる必要があるわけでもないのにそれ自体随分強引な話だ。
ところが、さらに驚くべき事に機構はどのプログラムが定員いっぱいでどこが空いているかを公表していないのだ。二次応募の研修医のことを全く考えていないのだろう。
他にも、基幹病院に希望者がたくさん集まり過ぎたところでは、1年待つように言われたり、民間病院に行くように言われたりといった、所謂キャリーオーバーが発生しているという。

これらについても、機構は一切公表していない。

あちこちで挙っている制度のほころびを拾い集め検証することをせず、小手先の帳尻合わせに躍起になっている、何とも情けない事態である。

そして医療の質の担保より、偏在対策を優先させたにもかかわらず、偏在はさらに悪化してしまった。
機構の詭弁に弄された全国知事会、市長会はこの結果をどうとらえるのだろうか。

何度も繰り返してきたが、本制度には現場の医師達、特に指導医、若手、女性医師の意見が反映されていない。

制度設計を高齢・男性医師で占められている機構のメンバーだけに任せてはいけない。
この制度が医療崩壊の最後の一手を打ったと言われないために、機構は現場の声を聞き、改善のために最大限の努力をすべきである。このままでは、医療の未来のみならず国民の未来も危うい。