(どうなる・どうする 医療)脱「地域勤務」、リストで対抗 厚労省、研修医受け入れ病院に/埼玉県

2017.12.20

https://www.asahi.com/articles/CMTW1712161100001.html

 病院関係者が「ブラックリスト」と呼ぶ一覧表がある。9月、初めて厚生労働省の各地方厚生局から、初期研修医を受け入れる病院に電子メールで送られた。

 表計算ソフトのエクセルで作られた「地域医療への従事要件等が課されている研修希望者一覧」で、都道府県からの奨学金を受けるなどして、多くは卒業後9年程度、指定された医師不足とされる地域で働くことを約束した人のリストだ。医学部を来春卒業予定の学生800人の氏名、大学名、研修地域、研修予定の医療機関名などが記載されている。


 ■補助金減額も

 厚労省によると、リストは、医道審議会の部会で、約束を守らず指定地域以外で働く研修医が問題になったため、実態把握のため病院に配ったという。同部会は、約束を破った研修医を採用した病院に対し、研修のための補助金を減らすことも認める。

 ここまでするのは、医師の仕事を知るうちに医師不足の地域で働くことに疑問を持つ学生がいるためだ。

 東日本の医学部5年生は地元の県からの奨学金を、途中である病院に肩代わり返済してもらった。「父が公務員で県内を転々とすることに疑問を持たなかったが、病院見学するうちに専門領域を深める大切さを痛感した」と話す。

 この県の場合、奨学金は9年働けば返済が免除されるが、9年働かない代わりに奨学金を返済しようとすると年10%の金利が付く。そして返済したとしても、厚労省は「奨学金を返した学生を雇った病院も補助金削減の対象」(医師臨床研修推進室)と話す。

 東日本のある病院の医師は、リストに「個人情報の漏洩だ。病院にペナルティーを課し、事実上、職業選択や居住移転の自由を奪う憲法違反だ」と反発する。

 厚労省は「研修希望者の確認のためなので漏洩ではない」などと説明する。

 こうした奨学金は、自治医大の仕組みがモデルだ。同大は、都道府県が拠出する資金を学生に貸し付ける。学生は卒業後、地元都道府県の職員として9年働けば返済免除だが、返済する場合は、金利10%だ。

 東日本の病院で働く医師(37)は、自治医大を卒業して大きな病院で4年働き、次は地域医療に就くタイミングで約3千万円を返済した。「5年目あたりは技術を磨きたい時期。地域医療では専門の勉強ができない。ほとんど休めない生活で貯金が2千万円あり、親から1千万円の借金をした」と話す。

 埼玉県の場合、9年働かない代わりに奨学金の返済を選ぶ人に金利は原則つけていない。専門技術を指定地域以外で学びたければ義務年限の一時的な離脱も認める。拘束は比較的緩い。奨学金制度を始めた歴史が浅いため、冒頭のリストに載る奨学生はまだいない。北風か太陽か、医師確保の試行錯誤は続く。(松浦新)