<各自核論>金子勝*慶応大教授*政府の医療・介護費削減策*入院短縮は矛盾はらむ

2017.12.04



   


<各自核論>金子勝*慶応大教授*政府の医療・介護費削減策*入院短縮は矛盾はらむ
2017.12.02 北海道新聞



 自公政権は、総選挙中に公約として「全世代型社会保障」を掲げた。ところが、総選挙が終わったとたん、医療・介護費の削減である。まず、財政制度等審議会は、2018年度の予算編成で焦点となる診療報酬改定は2%台半ば以上の減額、介護報酬もマイナス改定を打ち出した。そして、政府は「急性期病床の3割削減」を図るとする。

 急性期病床とは、症状が重い患者に手術や治療を集中的に施す病床を指す。そのため、病院は病床あたりの看護師がやや多く、1人あたりの病室面積がやや大きいかわりに、早く退院して在宅治療へ戻れるようにしている。今回は新たに看護体制を見直した「地域包括ケア病床」を設けて急性期病床の患者を移し、そこからさらに在宅医療や在宅介護に移行することで医療費削減を図ろうというのである。

 これまで政府は、入院期間を短縮し、病床利用率をあげることで病院の効率化を図ろうとしてきた。入院期間が長くなると、病院の受け取る診療報酬が下がっていくように設定して、患者の入院期間の短縮を促すことで医療費を削減するという考え方だ。

 現在、35万床ある「急性期病床」の3割、つまり10万5千床を「地域包括ケア病床」といった回復期の病床にすれば、今の基準では患者に対する看護師の比率が「7対1」から「13~15対1」に減らせるので、看護師は1万5千人から、7千人以上が削減される。大都市や地方中核都市では、病院は治りやすい患者を選び、看護体制の人件費を減らし、病床の回転率を上げようとして、がん難民、救急患者のたらい回しが出る可能性が増す。

 さらに問題なのは、こうした急性期病床を削減する政策で、地方の公立病院が存立できるかどうかである。とくに救急医療、がん病棟、小児科、産科が危ない。急変したら地域の中核になる病院がすぐに受け入れてくれるという前提があって、初めて在宅医療や在宅介護が成り立つ。そして少子高齢化が進む農山村地域ほど、公立病院が地域医療の中核になっている。

 厚労省の16年度医療機関調査では、病院経営は4・2%の赤字となったが、民間病院は黒字で、地域の救急医療などを担う公立病院は大幅赤字だ。公立病院の中でも、とくに市町村立で300床未満の中小病院が赤字で苦しい。

 そもそも入院短縮政策は矛盾を抱えている。入院期間を短縮すれば、病床利用率は低下するからだ。少子高齢化が進む農山村地域ほど患者数も少なく、病床利用率を高めようとすれば、入院期間を延ばさないといけない。在宅医療がなければ、なおさらだ。

 また、介護事業者は介護報酬のマイナス改定で、介護従事者の給与を上げよという無理難題が課される。

 しかも、15年の改正介護保険法の下で、要介護2以下は施設に入れなくなった。要介護2以下である程度動ける認知症の高齢者などが家族負担とされ、グループホームなどの在宅介護の充実がなければ、介護離職ゼロどころか、働く現役世代の介護離職を増やしかねない。

 このように「全世代型社会保障」と言いながら、医療や介護の削減を打ち出す。しかも若い世代向けには、待機児童が解消されないまま保育を無償化したり、給付型奨学金も卒業後の返還が検討されたりと、チグハグなものになっている。これでは福祉財源をめぐる世代間対立を煽(あお)るだけだ。

 たしかに、財政赤字(国の借金)は16年度末で1071兆円にも及ぶ。12年度から4年間で約80兆円も増えた。同じ4年間で、消費税増税の多くを法人税減税に費やしたが、国内設備投資も賃金もあまり増えておらず、企業の内部留保が財政赤字の増加分とほぼ同額の82兆円増えただけだ。それでも政府は法人税減税を続けるという。社会保障財源の確保を優先すべきではないだろうか。

 かねこ・まさる 1952年東京都生まれ。東大大学院修了。法政大教授を経て現職。「資本主義の克服」「『脱原発』成長論」「日本病」をはじめ、「ポスト『アベノミクス』の経済学」(共著)など著書多数。