どう変わる医療と介護:2018年度 同時報酬改定 迫る多死社会 最善の「最期」目指す 国・自治体、事前意思表示を啓発

2017.11.17

    


どう変わる医療と介護:2018年度 同時報酬改定 迫る多死社会 最善の「最期」目指す 国・自治体、事前意思表示を啓発
2017.11.15 毎日新聞



 2025年には団塊の世代が全員75歳以上となり、地域で療養する患者は現在より約30万人増えるとされる。死亡者数が増加し、人口減少が加速する「多死社会」を迎える中、国や自治体は、人生の最終段階(終末期)に、本人の希望に応じた治療や療養ができるよう、環境整備のための啓発活動に着手している。【細川貴代、写真も】

 「病院だけが選択肢ではありません。在宅療養も選択肢の一つです」。10月上旬、神奈川県横須賀市の高齢者サロンで、市職員が市民約30人に語りかけた。町内会への出前講座で、テーマは「最期の医療」。自宅で受けられる医療・介護サービスや、最期まで自宅での暮らしを望む場合は、普段から家族や主治医に伝えておくよう呼び掛けた。

 参加者からは「1人暮らしだと実際は最期まで自宅は難しいのでは」との率直な意見も。小林健晋自治会長(80)は「地域に1人暮らし高齢者も増え、終末期への関心も高い。真剣に考えざるを得ない話題だ」と話した。

 同市は11年度から、在宅医療や在宅みとりに関わる地域の人材育成や多職種連携に力を注ぐ。市民啓発にも力を入れ、在宅療養を紹介する啓発冊子の発行、相談窓口の周知などを行ってきた。全死亡者のうち自宅や高齢者住宅で亡くなる「在宅死」の割合は14年の場合、22・9%と、人口20万人以上の自治体でトップ。川名理恵子・市地域医療推進課長は「1人暮らしでも最期まで自宅で暮らすことは可能だが、制度があっても市民の理解がないと進まない」と話す。

 宮崎市は13年度にエンディングノートを作った。回復の見込みがなく死期が迫った場合の治療の希望の有無や、治療方針を任せる代理人を書く欄も設けた。手引を作り、内容を熟知した市職員らが使い方を説明して手渡す。担当者は「書いた内容が法的効力を持つことはない。何が自分に最善の医療か、家族と話し合う道具の一つにしてほしい」。

 現状では7割以上の人が病院で最期を迎える。一方で自宅死を希望する人は約6割に上るが、家族間で終末期の話題を避ける傾向は強く、13年の国の調査で、自分の死が近い場合の医療について「家族と全く話し合ったことがない」人が約56%。書面作成までした人は少なかった。

 厚生労働省も今年度、終末期医療について、話し合ったり意思表示したりする機会を持ってもらうため、事前に医師や家族らとの話し合いを促す内容を盛り込んだ、市民向け啓発冊子のひな型を初めて作る。

 ただ同省としては08年に医師が75歳以上の患者や家族と終末期について話し合って文書にまとめた場合、診療報酬で評価する「終末期相談支援料」を打ち出したところ、「意思決定を無理強いする」と批判を受けて廃止した経緯もあり、慎重に進める考え。担当者は「まずは患者自身が終末期について選択し、意思表示できる仕組みを考えたい」としている。

 ◇患者の思い、共有する 医療現場でも取り組み

 医療現場では、高齢化の進展に伴い、人生の最終段階で、治療に対する患者本人の意思がわからず、家族や医療者が決定を迫られ苦悩する現状がある。

 そうした中、医療現場で広がりつつあるのが、患者本人と家族やかかりつけ医ら医療・介護の関係者が、何度も話し合いを重ねて患者の思いを共有する「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の取り組みだ。

 ACPは、高齢者や余命の限られた患者らを対象に、医療者側が治療の選択肢を説明し、人生観や受けたい治療・療養場所などを話し合う「過程」に力点を置く。

 厚労省も、体制を構築すべく、昨年度からは、死期が迫った患者と家族の相談に対応できる医師や看護師など多職種の育成研修を全国で展開しており、研修ではACPも学ぶ。

 研修担当の木沢義之・神戸大医学部付属病院特命教授は、「ACPによって、患者の意向が尊重されたケアが実践され、家族の満足度も上がる。特定の医療機関でなく、地域の医療・介護関係者全体が理解して実践していく体制を作る必要がある」と指摘。「最期を決めるのは患者本人だということを医療関係者も国民も理解していく必要がある」と話す。