長女殺害 「産後うつ」責任能力焦点 千葉地裁3日判決

2017.11.06

長女殺害 「産後うつ」責任能力焦点 千葉地裁3日判決
2017年3月
 
 
生後5カ月の長女を殺害したとして、殺人罪に問われた小川紀子被告(39)=東京都板橋区=の裁判員裁判の判決が3日、千葉地裁(金子武志裁判長)で言い渡される。小川被告は産後に心身に変調をきたし、保健師や児童相談所(児相)に相談。精神科で「産後うつ病」と診断されていた。【斎藤文太郎】
起訴状によると、昨年3月4日、千葉県山武市の夫の実家で長女凜乃(りの)ちゃんの首を手で絞め、窒息死させたとされる。これまでの公判での証言などによると、被告は一度流産し、不妊治療を続けて2015年9月に凜乃ちゃんを出産。当時の心境を被告人質問で「やっと会えた。おなかでよく頑張ってくれた」と振り返った。 産後間もなく心に変化が現れた。凜乃ちゃんの頭の形がいびつに見えたり、母乳をうまく飲まないと思い込んだりして、1カ月健診で「順調」と言われても不安が拭えなかった。理由もなく涙がこぼれ、自殺を図ったこともあったという。 16年1月に保健師と面談し「産後うつの傾向がある」とされ、翌2月、児相に電話。生活実態や育児の状況などの確認に自宅を訪れた児相職員から、凜乃ちゃんを乳児院に預けて育児から離れることを勧められたが「会えなくなる」との不安感から断った。精神科で産後うつ病と診断され、内服薬を処方されたが、母乳への影響を心配し服用を避けた。そして3月、療養先の夫の実家で長女に手をかけた。事件当日、小川被告はLINEで夫に「死にたい」とメッセージを送っており、検察側は小川被告が心中を図ろうとしたとみている。 公判で小川被告は「夫に心配をかけたくない」とつらさを打ち明けなかったことを明かした。夫は公判で「病気をもっと理解していれば別の結果になったと思う」と述べた。 児相を所管する東京都は対応に問題がなかったか検証を進めている。児相関係者は取材に「虐待の疑いもないのに両親の了解を得ず無理やり子どもを引き離すことはできない」と現場対応の難しさを明かした。都家庭支援課は「重く受け止めている」としている。 検察側は事件当時、被告が心神耗弱状態だったとして懲役5年を求刑。弁護側は、心神喪失状態だったとして無罪を主張している。被告は最終意見陳述で「凜乃に申し訳ない。会いたくてたまらないです」と述べた。
抱え込み重症多発
 事件には、産後うつへの対応の難しさが浮かび上がる。 本人が病気だと自覚できずに追い込まれるケースは少なくないといい、早期診断と治療のため、厚生労働省は2017年度から産後の母親の健診を実施している自治体に費用を助成する。 同省によると、産後うつの患者数に関する統計はないものの、出産した女性の10人に1人にその疑いがあるとの研究結果がある。虐待、ネグレクト(育児放棄)につながりやすいとも指摘され、自身も産後うつを体験して自助グループをつくった福島市の臨床心理士、宮崎弘美さん(48)は「苦しさを打ち明けられずに重症化するケースが多い」と話す。 宮崎さんによると、不眠や育児への不安感を周囲に訴えても「産後は誰でもそうなる」などと言われ、治療に至らないばかりか、再び相談しづらくなる傾向がある。小川被告同様、処方薬を飲みたがらない患者も多いという。「育児に自信を失っている中、薬の影響で授乳できなくなれば、母親失格だという考えを強めてしまう」現在は服薬以外にも、カウンセリングによる心理療法など多様な治療法が研究されているという。「医療・福祉関係者が早めに病気の兆候を見つけ、『恥ずかしい病気ではない』と本人や家族を説得し、治療に専念させることが大切だ」と話した。【斎藤文太郎】