老人天国か地獄か 親が住む町、査定します

2017.08.19


老人天国か地獄か 親が住む町、査定します
2017.09.04 プレジデント  


高度成長期に栄えた町は危ない

 人間が年を取ってから長患いをするかどうか、介護が必要になるかどうかは、もちろん「運・不運」によるところが大きいでしょう。しかし、あまり病気にならない傾向と暮らし方、あるいは逆に、病気になりやすい傾向と暮らし方はあります。

 ポイントは3つです。1つめは、友達が近くにいるかどうか、2つめは、医療・介護サービスの面で安心できるかどうか、3つめは、そもそも医療・介護サービスをできるだけ受けずにすむ暮らし方をしているかどうか。

 まず、1つめの友達について考えてみます。親と離れて住んでいる場合、親の高齢化に伴い心配事が増えるのはやむをえません。

 そこでまず頭に浮かぶのが、親を呼び寄せて、一緒に暮らすという選択肢。頻繁に親のもとへ通って様子を窺うより、そのほうが楽になるだろうと期待するわけですが、親の健康を害するリスクが高まる可能性があります。友達もいないところでは、親がふさぎ込みがちになったり、引きこもったりするなど、孤立する可能性があるからです。

 性格上、いつでも友達をつくれる人なら問題はありません。しかし実際には、70歳、80歳と年を取れば取るほど新しい友達をつくるのは難しくなります。むやみに、友達のいないところへ親を動かしてはいけないのです。

 2つめの医療・介護サービスにおける安心については、地域格差が大きいのが実情です。まず重要になるのが、病院や介護施設が足りているかどうか、端的にいえば、高齢者が増えているかどうかという視点です。当然、高齢者が増えている地域では病院や介護施設が不足します。

 では、高齢者が増えているのは、どんな地域でしょうか。若者が離れ、高齢化率が高い地方では、一般の思い込みとは逆に、もう高齢者の増加は止まり始めています。都会ほど、高齢者の増加は急速です。47都道府県の中で今、一番高齢者の絶対数が増えているのは東京都。次いで首都圏各県や愛知県、大阪府周辺です。札幌市、福岡市、仙台市、広島市周辺も深刻ですね。

 高齢者数が増えるということは、その成り手である50代、60代の高齢者予備軍が多くいるということ。過疎の地域より都市部のほうが予備軍は多いのです。東京だけでなく、高度経済成長期に若者を集め栄えた都市ほど、これからどんどん高齢者が増えていきます。もし、そんな町へ老親を呼び寄せたらどうなるか。ますます医療・介護などの高齢者向けサービスが受けにくくなってしまいます。

 逆に、過疎が進む地域では高齢者数が減り始めるところも出てきています。年を取る人より、亡くなる人のほうが多くなり始めているのです。

 たとえば長野県は、国内有数の高齢化県といわれています。確かに平均寿命は男女とも日本一ですが、高齢者1人あたりの医療費は47都道府県で最低レベルです。これは、地域医療に熱心な病院が多いことによる成果です。町医者と連携して予防医療を進めているので、病気が悪化する前に早めに治せて、お金もかかりません。たとえ入院しても、そのまま出られなくならないよう、入退院をこまめに行いながら自宅に戻します。東京など大都市では、全部の病院がそこまで細かなケアをやれているわけではありません。

 また、単に高齢者医療という面だけでなく、救急医療を適切に受けられるかどうかも考えなければなりません。喫緊の命の問題はもちろん、その後の回復具合も大きく左右されるからです。じつは救急車で搬送される人に占める高齢者の割合は、1995年には31・6%だったものが、2015年には56・7%にのぼるなど、年々増え続けています(総務省消防庁「平成28年版 救急・救助の現況」)。

 ところが東京では、救急車を呼んでもなかなか来てくれません。救急車に乗れたとしても病院に入れてもらえない現実があります。私の知り合いの若い人の例ですが、脳卒中の持病があったため、福島県南相馬市と東京で救急車のお世話になったそうです。南相馬市は東日本大震災の影響で医師不足が顕著な地域です。ところが救急車はすぐに来てくれて、1時間ほど離れた救急病院まで運ばれ、すぐに病院に入れたそうです。

 東京では、救急車を呼んでもなかなか来てくれなかったうえ、5時間以上たらい回しにされ、病院に入れたのはなんと27件目だったとか。その間、ずっと救急車の中で過ごすなんて怖い話です。それに、1人の急患を病院まで運ぶのに5時間以上かけていては、救急車の手配が追いつかなくなるのも当然。負のスパイラルがそこにあります。


「ピンピンコロリ」を実現する人とは

 さて、3つめの「そもそも医者にかからない暮らし方」とはどんなものでしょうか。

 まず、病気にならない人はよく歩いている人が多いといわれています。この点では、東京の人のほうが地方の人よりよく歩いています。田舎で暮らしていると車で移動することが多かったり、あるいは行動範囲が狭くずっと家の中にいたりして、肥満になるケースがあります。最悪は、そのまま歩けなくなり、病気がどんどん悪化します。

 だからといって、それまで田舎に住んでいた70代、80代の老親を東京に呼び寄せたら歩くようになるかといえば、そんなことはありません。いきなり東京の段差だらけのところを歩けと言っても無理。家の中に引きこもるようになるだけですので、やめたほうがいいでしょう。田舎で暮らしながら歩く習慣をつけることこそ最善の策です。

 家庭菜園をしている人も元気な人が多い傾向にあります。よく農業者は、病気にかかりにくいうえ、他界するときはコロリと逝ける、「ピンピンコロリ」を実現している人が多いともいわれています。

 家庭菜園は東京でもできないことはありませんが、都心になるほど不利になることは間違いありません。それに市民農園で区画を借りても、自宅から遠くにあると通うのが面倒になってやめてしまいがちです。家のすぐ横にある畑を耕して、実った野菜を時季ごとに食べるというスタイルが健康に直結します。

 こうして見てきますと、老親が暮らすうえで、理想的な場所がありそうです。

 まず、過疎が進む地域では高齢者があまり増えていないとはいえ、ある程度の近距離のところに、一定以上の設備のある病院がないと、離れて暮らす子供としては不安かもしれません。ですから、県庁所在地より少し小さい中都市で、手ごろな病院がある地域かどうかをチェックします。

 次に、そのような中都市の中心部では、家庭菜園をできる環境に恵まれないケースもあるでしょう。車で20分ほど離れたエリアにまで目を向けます。そうすれば、街が身近にありながら、家のすぐそばで野菜を育てることもできます。日常の買い物をする店や仲のいい友人の家が適度に離れていれば好都合。歩いて出かける習慣をつけます。

 もっとも、すでに老親がこうした土地に住んでいるのであればいいのですが、そうでない場合、理想的な場所を見つけられたとしても、一般には70歳を超える老親に移住を勧めるわけにはいきません。負担が大きすぎますし、友達問題があるからです。

 そのような地域への移住を検討するなら、むしろ老親よりその子供である読者世代が老後に備えて親の元に帰る、という形でしょう。40代、50代から移住の準備を進めれば友達問題は解決できます。田舎で友達関係をつくることができれば、定年を迎えるとリセットされてしまう会社の人間関係とは違い、生涯を通して縁が続きます。読者世代には、もっと広く日本を使うという考え方を持ってほしいですね。日本中に空き家があり、日本中に福祉・医療・介護が整っています。私は、老後の田舎暮らしをお勧めします。


病院編●頼りになるのは治療の実績と、先進医療などの高い技術があるかどうか

症例数が多い病院は医師からも信頼されている

 医療技術の進歩により、病院によって治療方法も大きく異なっている。親が暮らす町の病院はどうだろうか。

 新聞や雑誌などで患者数や手術件数などを基にした病院ランキングが発表されることがあるが、医学ジャーナリストの松井宏夫氏は、「病院選びの指標になる」と話す。症例数が多ければノウハウが蓄積されるのはもちろんだし、「ほかの病院から患者が送り込まれているからであり、地域の医師たちから信頼されている証左といえる」(松井氏)からだ。

 最近は病院のホームページでも手術数などが掲載されている例が多いので、親が暮らす地域の病院について調べておきたい。その際、いつの時点の情報かを知るほか、実際に受診の必要が生じた際には、経験を多く積んだ医師が引き続き在籍しているかも確認したい。

 病気によっても、強い病院とそうでない病院がある。

 がんについては、専門的ながん医療の提供が可能として厚生労働大臣が指定した「がん診療連携拠点病院」が近くにあるかを把握しておこう。拠点病院や大学病院では緩和ケアもできる。

 体への負担が少ない放射線治療として注目を集めているのが、先進医療の重粒子線治療と陽子線治療だ。重粒子線治療は千葉、兵庫、群馬、佐賀、神奈川の各県(計5施設)、陽子線治療は千葉、兵庫、静岡、茨城、福島、鹿児島、福井、愛知、北海道(2カ所)、長野、岡山の各道県(計12施設)に限られる。先進医療を実施している医療機関については厚生労働省のホームページにリストが掲載されている。

 がん拠点病院として先進医療に全診療科で前向きに取り組んでいるのは、都道府県内で総合的にトップレベルにある大学病院である。各都道府県に1~2施設あるので、近くの大学病院については情報を知っておきたい。

 もう一つ、チェックしておきたいのは、親が住む町だけではなく、隣接する町、沿線の町に手術の実績が高い病院があるかどうかだ。

「地元の町に病院がなかったり、あっても交通の便がよくない場合は、アクセスのよい沿線の町なども含めて探してみては。根本的な治療が終われば、定期的な通院は地元の病院で診てもらうなど使い分けをするとよい」(同)

 県境や町境の近くに親が住んでいるなら、病院探しの対象エリアを広げてみるのもよいだろう。


介護編●安くて安心の特別養護老人ホームに入れるかどうか

郊外や地方ほど施設の充足度は高い

 高齢になれば健康に支障をきたすのは自然なこと。立ち上がりや歩行、排せつ・入浴、着替えなどを一人で行うのが困難になると介護保険では要介護3に認定され、介護サービスなど、プロの力を借りる必要性が高くなる。

 高齢者向けの施設はさまざまだが、タムラプランニングアンドオペレーティング代表取締役の田村明孝氏は、「要介護になった親の高齢者施設・住宅として選択肢になるのは、必要に応じて一定の介護サービスが受けられる5種類」と話す。「特別養護老人ホーム(特養)」「介護老人保健施設(老健)」「介護療養型医療施設」「認知症高齢者グループホーム」「介護付き有料老人ホーム」の5種類である。

 2016年10月時点で整備されている5種類が全国で146万戸なのに対し、要介護3以上の人は219万人。単純計算で73万人分が不足している。

 施設の充足度には地域差も大きく、東京、大阪の都市部で不足しているのに対し、23区の受け皿としてかつて大量に整備された多摩地域など、郊外や地方では充足する傾向にある。その他、温泉地であることを活かして民間による整備が進んだ地域や、過疎対策として産業・雇用確保の観点で整備された地域も散見される。充足度が高ければ、行き場所がないという事態は避けやすく、安心感はある。介護施設の整備戸数における65歳以上の人口の割合が6・2%に近いレベルなら安心といえる。

 費用負担が軽い特養に入所できるのは原則的に要介護3以上の人で、都市部では空き待ちの施設が見られる。心身の状態や同居家族の状態など、切迫度によって順番が決まることもあり、待機期間は必要が生じた時点で問い合わせないとわからない。ちなみに特養は居住地以外の自治体の施設でも入所可能(住民が優先)だが、「環境の大きな変化は認知症の悪化や発症に繋がりやすく、今いる町に住み続けることが重要」(田村氏)。

 また「入所できることと質がいいかは別問題」。特養の大半は多床室で、1人あたりの居室最低基準は11平方メートル弱。平均滞在期間である約4年間、その環境で生活できるかどうかも検討したい。

 施設の充足度が低い地域では、自宅で介護サービスを受けたり、施設に通って利用したりする「居宅系サービス」が充実しているというパターンが多い。事業者数やサービスの内容も知っておくといいだろう。