ニュース最前線ながさき/伊万里松浦病院 松浦移転へ/松浦・江迎支局 前田敏宏/既存病床減らし 新たに87床

2017.08.15

ニュース最前線ながさき/伊万里松浦病院 松浦移転へ/松浦・江迎支局 前田敏宏/既存病床減らし 新たに87床/24時間救急受け入れ期待/福島、鷹島は病床ゼロに 地域格差広がる懸念

2017.08.13 長崎新聞

 

 伊万里松浦病院(佐賀県伊万里市山代町)の移転問題は、県境沿いに隣接する同市と松浦市が候補地として競合。手詰まり状態だったが、運営する独立行政法人地域医療機能推進機構(本部・東京)が今春、松浦市への移転方針を固めたことで、2020年4月開設を目指し、大きく動きだした。松浦市地域自治会連合会(市内144自治会で組織)が、市内11の医療機関でつくる「松医会」に対し、公的病院の開設実現へ理解を求める要望書を6月に提出するなど、医療サービス向上への期待感も高まっている。開設が実現すると、市内の地域医療はどう変わるのか。再編の青写真を探った。

 

■特例措置が必要

 

 発端は伊万里松浦病院の老朽化だった。築50年以上が経過し、建て替えは急務。同機構は、伊万里市内での移転を考えたが、同市と佐賀県有田町が共同設置した病院が既にあることなどから、伊万里有田地区の医師会が反対。同機構は一転して、隣接する松浦市内で建て替えができないか協議を進めてきた。

 

 松浦市への移転のハードルとなっているのが、同市を含む二次医療圏「佐世保県北医療圏」の病床の過剰状態だ。同圏内は基準より900床以上多く、新病院の開設は原則認められない。開設するには国、県による特例措置の適用が必要。そのためには、新病院ができても現状の市内372床(16年10月時点)を超えないように既存の診療所などの病床数を減らす努力が求められる。

 

 そこで同市は、開設までにどれだけの病床を減らせるか民間医療機関へのアンケートを実施。20年3月末の市内の削減目標を市立、民間合わせて88床とする「市医療再編実施計画」を今年3月に策定した。これを基に、市は正式な誘致交渉を推進し、同機構が候補地を同市内に固めたとされる。27年3月末の、16年10月からの削減目標は107床。

 

■診療科は12科目

 

 同市内の現在の医療サービスの課題は▽知事が認定し救急患者を24時間受け入れる救急告示病院がない▽医師の高齢化、後継者不足-など。この課題を解決するには、同市は機構の新病院開設が不可欠としている。

 

 では、いったいどんな病院ができるのか。同機構が4月に示した新病院の基本構想によると、病床数は87床を予定。市内の民間医療機関の病床数の変化に応じ、随時100床まで増やす計画だ。診療科は12科目を予定。肛門外科は、市内唯一の診療科として設ける。これまで市立中央診療所だけが担ってきた人工透析内科も引き継ぐ。

 

■市外搬送減るか

 

 新病院開設で大きく変わるのが救急医療。市内では14年から救急告示病院がない。軽症患者の救急は輪番制などで対応しているが、医師の高齢化で今後、輪番ができる医療機関は減る可能性があると市はみる。入院や手術を要する救急患者の約7割(15年度)は市外に搬送している。

 

 新病院について、市は「原則、極めて重度な症状以外の患者は受け入れる」と説明する一方、「ケース・バイ・ケース」とも。重篤でなくても近隣の高度な医療機関へ搬送されるケースもありそうだ。同市志佐町のパート従業員、吉井ネリ子さん(69)は「新病院が救急を受け入れてくれるのは心強いが、どれほどの症状まで対応してくれるのだろう」と話す。

 

■「介護型」の療養

 

 市が20年3月末に削減可能としている既存病床は88床。内訳は、国が社会保障費抑制のため削減などの方針を示す「介護型」の療養病床を中心に二つの市立診療所で38床、三つの民間医療機関で50床が対象となる。

 

 大きく影響を受けるのが離島の福島、鷹島両町。両町内の2診療所には現在、療養病床31床、24時間対応の医師がいないため使われていない一般病床7床、計38床があるが、計画により病床ゼロになる。

 

 市は、療養病床で受けられる介護サービスは、福島町の高齢者福祉施設などで代替対応が可能。同施設がない鷹島町については、島内で介護サービスを受け続けられる対応を考えると説明する。

 

 町民からは不満の声が聞かれる。福島町の自営業、松尾逸子さん(68)は「病床がなくなるのは島民の不安に直結する。市中心部には病院ができて、島内ではベッドがなくなることで、地域間で差が出てくる」と指摘する。

 

■賛否は五分五分

 

 医師の確保も課題だ。計画では伊万里松浦病院に在籍する職員が引き続き勤務する予定。加えて長崎大などにも協力を要請するという。厚生労働省の内部資料によると、大学側からは「多くの医師がいるので協力したい」との発言を得ているとされる。だが市内のある開業医は「医師の確保は簡単ではない。看護師を含めたスタッフの体制を確保できるか疑問が残る」と首をひねる。

 

 安定した運営には患者数も鍵を握る。15年度の伊万里松浦病院の入院患者は1日平均54人。患者の減少で厳しい運営が続いており、同年度の経常収支は約1億4400万円の赤字だった。新病院は入院患者の1日平均目標79人。1日25人も多く設定しており、地域で患者の奪い合いが生まれて既存の民間医療機関の経営に影響を与えるという指摘もある。「松医会」の新病院開設への賛否は、ほぼ五分五分。

 

■市民説明はまだ

 

 「この移転話を逃せば、地域医療の中核となる公的病院の開設が今後実現することはない」-。医師の高齢化などによる医療サービスの低下が懸念されるだけに、市幹部の言葉には誘致への熱意がにじむ。

 

 新病院の20年4月開院予定から逆算すると、開設申請は今秋の県医療審議会に諮らなければならないという。同審議会で特例措置適用の可否も検討する。同市は、審議会で重要となる地元医師会の理解を得るため、説明を重ねている。一方、医療再編の影響を受ける市民向けには説明会を開いていない。

 

 同市は「まだ開設も認められていない状況で具体的な説明はできない」と弁明。ある市議はこう指摘する。「市民の期待感だけが独り歩きしている。開設できるとしても、今の地域医療に弊害がない形で期待通りの病院ができるのかどうか、まだ見えない」