特別対談 最先端医療を展望する 期待高まる、重粒子線治療

2017.04.19

特別対談 最先端医療を展望する 期待高まる、重粒子線治療
2017.04.18 朝刊


 「最先端医療を展望する」をテーマとした特別対談が8日、山形市の山形グランドホテルで開かれた。嘉山孝正山形大医学部参与、二川一男厚生労働事務次官が意見を交わし、山形大医学部に導入される重粒子線がん治療の特性など、先進医療の現状や医療人材の育成策を語り合い、医療の充実がまちづくりを促し、地方創生を加速させるとの認識を共有した。司会は寒河江浩二山形新聞社長・主筆。

 ―医療技術は日進月歩。最先端技術で多くの尊い命が救われている。先端医療の現状を紹介していただきたい。

 嘉山 21世紀の医療は各分野が大変な進歩を遂げたが、それらをいかに融合し、応用するかが病院としての役割。医師の経験による治療から、遺伝子というファクト(事実)に基づく治療に変わってきた。その他の先進医療としては、手術中に患者さんと話をしながら脳の腫瘍を摘出する覚醒下手術や、耳鼻科の内視鏡手術を行っている。認知症分野では、治療可能な原因疾患「特発性正常圧水頭症」のリスク遺伝子を発見するなど最も先に取り組み、将来的に創薬に結び付ける。がん患者の治療方針を院内のチームで検討する「キャンサートリートメントボード」は患者にとってベストな治療。21世紀の医療は、医師の原点に返り、患者の痛みを取るということではないか。

 二川 国全体で力を入れているのはゲノム医療。遺伝子を解析し、この薬が効くのか効かないのか、副作用が出ないかなど、近い将来に実現できるものをターゲットに力を入れている。そしてAI(人工知能)。それぞれの医師が読める論文の数は限られていることから、AIを活用できれば診断技術は進歩を遂げるだろう。また日本には再生医療に関する特別な法律がある。再生医療の技術を使った製品は安全性の確保は絶対に必要としつつ、効果については、推定でも使用できる仕組みがある。外資メーカーも日本の規制の下であれば開発しやすい。外資だからと拒否するものではないので、日本の研究開発の総力を挙げて新しいものを生み出していただきたい。

 ―最先端医療で期待と注目を集める重粒子線がん治療。東北・北海道で初の治療が2019年度から、山形大医学部で始まる。

 嘉山 重粒子線治療は国外の状況を見ても、日本の技術が最高だ。国内での導入は、山形大が6例目となる。普通の放射線照射では幹細胞に効かない。がんができた部分は、栄養が足りず壊死(えし)する。つまり、低酸素状態になっている。陽子線治療は低酸素状態を乗り越えることができず、重粒子線はこうしたがん細胞に効くため、この治療法を選んだ。これまでに重粒子線がん治療を導入した(国内)施設は、放射線科しか対応できていない。山形大が付属病院との接続型を進める理由は、肺炎や糖尿病、透析などがん以外の病気を持つ患者にも対応できるようにするため。こうした「総合型」にするため、施設のコンパクト化を図った。

 二川 日本には重粒子線と陽子線が計15施設ある。重粒子線の装置が東北、北海道で初めてだが、保険適用ではエビデンス(科学的根拠)と費用対効果が大事。現状では、効果があって費用がそれほどではないものから、公的保険の対象としている。公的保険に入っていない先進医療は、治療前の検査、術後管理に保険が利くが、治療行為そのものは自費という形。前後の検査やその他に関して公的保険が使えるので、患者にとっても一定の使いやすさは確保されていると思う。重粒子、陽子線に対し、行政は中立的な立場。いずれにしても、誰かが先進医療にチャレンジし、ルールに従って成果を挙げてほしい。

 寒河江 山形大医学部の重粒子線がん治療では、県内企業の技術も導入されると聞く。東北、そして山形県の高いものづくり技術が最先端医療に組み込まれることは、地域にとって大きな励みであり、誇りにもなる。エビデンスという話もあったが、最先端医療の健康保険への適用範囲拡大を含め、多くの患者が治療を受けやすい環境づくりが今後、大切になるのではないだろうか。

 ―重粒子線がん治療が始まれば、東北をはじめ国内外から患者とその家族、研究者らが多く訪れる。地域活性化が期待される。

 嘉山 医療インバウンド(海外からの旅行)は、医療そのものだけでは利益は上がらない。医療を取り巻く周辺産業として、創薬や医療機器があり、重粒子治療を受けに来る人々の観光がある。山形県には温泉や自然がある。10~15年はかかると思うが、地元の人たちが古里を誇らなければ、インバウンドにはつながらないと思う。スイスでは街全体がそうした意識を持っている。リピーターを呼ぶためには継続性が大事だ。住民が自分たちの土地や食、外国人への態度を含めて、しっかりとした方向性やプライドを持ってやらない限り、長期的なインバウンドは無理だろう。非日常、異文化を経験したいと思ってもらわないと。かなりの戦略が必要だ。

 二川 素晴らしい日本の医療を受けたいと海外からお客さんが来るのだから、インバウンド体制づくりが重要。検診に対する日本への信頼度は高く、ある程度のインバウンドの規模を考えるのなら人間ドックがある。観光とセットになり、経済効果も大きくなる。ドックを経て治療が必要だという人が出てくるだろう。医療通訳は人に限らずAIも活用できる。地域によっては高齢者の絶対数が減り始めた所がある。患者が減っていることにもなり、そこが観光地であれば“余力”があることになる。国としてそういう地域と組んで努力していきたい。

 ―さまざまな先端医療の話をいただいた。こうした先端医療を推進するため、国を挙げた医療人材の育成が重要となる。

 嘉山 山形大では全国の大学に先駆け(臨床実習資格の合格者を認定し、医療現場での知識など総合的な能力を高める)スチューデントドクター制度を創設した。日本の医療教育は座学が多く、実習が少ない。山形大は座学はもちろん大事だが、現場中心の実習を重視している。実質的な医師不足があり、例えば、内科医だが、専門分野以外の内科の病気を診られないという医師が増えている。(救急医療の)当直時に、命に関する治療ができなければ医師とは言えない。最低限の知識を習得し、その上で専門性を持つことが大事だ。

 二川 医学部6年が終わって国家試験というハードルがあり、受かった人が医療行為をできる。その後に初期臨床研修があるが、これらの中でもう少し現場実習を重視してはどうかといった声がある。卒前教育、卒後研修の内容に関して議論する検討会を組織したところだ。地域医療で活躍する人材の視点も必要。嘉山先生が言われたように、広く全てが分かる総合診療というのが一つの分野になる。それこそが地域医療には重要かもしれない。地域の医療実態に合わせ、総合診療の人材を育てていきたい。

 寒河江 医療全体にわたる議論の中で、医療の原点のようなものを示してもらった。地域の高度医療の拠点となる大学病院が行政との連携を密にすることで、地域医療の充実は図られる。医療は住みよいまちづくりにつながり、人口減少に歯止めをかける。ひいては地方創生の観点でも重要だと考える。地域が元気になるため、先端医療をどのように組み入れていくのかが大きな課題となる。

【山形大医学部参与・嘉山孝正】かやま・たかまさ氏は神奈川県出身。東北大医学部卒。山形大教授、同大医学部長を歴任し、2010年に国立がん研究センター理事長に就任。現在、日本脳神経外科学会理事長、山形大次世代型重粒子線治療装置研究開発室長などを務める。

【厚生労働事務次官・二川一男】ふたがわ・かずお氏は富山県出身。東京大法学部卒。旧厚生省に入庁し、厚生労働省医政局の経済課長、総務課長などを歴任した。2012年9月に同省大臣官房長、14年7月に同省医政局長に就き、15年10月から現職。