「国の看板」で製品の「活用を狙う」

2017.02.13

「国の看板」で製品の「活用を狙う」

2017年1月20日午前10時すぎ、事務局に電話した。

電話番号はホームページ[注18]に記載されていた。フォーラムの住所は「東京都中央区銀座7丁目」のビルの7階にある。場所は共同通信や電通の近くだ。

白砂善之・事務局長に「フォーラムの資料の件でお話を伺いたい」と面会を申し入れ、午前11時に会う約束をした。

指定された場所はフォーラムの事務局ではなく、電通PRが入っている浜離宮三井ビルディングの1階だった。

そもそも「健康日本21推進フォーラム」とはどういう組織なのかーー。

共同通信の編集委員が記事執筆の下敷きにした報道用資料では次のように説明している。

「健康日本21推進フォーラムは、厚生労働省の策定した第3次国民健康づくり運動『健康日本21』(21世紀における国民健康づくり運動)を産業界から支援する目的で1999年に設立され、健康日本21推進全国連絡協議会の一員として活動する任意団体です」

要は、国の施策の「応援団」ということだ。

理事長は高久史麿・東京大学名誉教授[注19]。2004年から日本医学会の会長を務めている重鎮だ。理事には聖路加国際大学の学長だった井部俊子氏や、バレーボール元日本代表の三屋裕子氏といった著名人が並ぶ。

会員は「国民の健康問題に大きな関心を寄せ、本活動に賛同する企業」で、食品会社や製薬会社の名前がある。

白砂事務局長は、女性事務局員と2人で現れた。2人は電通PRで調査部に所属している[注20]。フォーラムの事務局と兼任だ[注21]が、フォーラムの事務局には常駐しているわけではないという[注22]。ふだんは電通PRの自席で仕事をしており、給料も電通PRからしかもらっていない[注23]。

電通PRの社内リポートを2人に示し、尋ねた。

――社内リポートには、「調査の中で製品を紹介することはできませんが、調査結果を見て、自社(顧客企業)製品が活用されることを狙います」と書かれていますね。

「はい、はい、はい、はい」

――電通PRが事務局をしていますが、国の施策を支援しているんですよという形をとって、その製品が活用されていくことを狙おうということですか?

「ギリギリの線という意味でいうと、商品名を直接いわないけども、その企業の社会貢献というかCSR[注24]活動の一環として、この(国の施策である)『健康日本21』の活動目標を支援しているよというのが狙いなんですよ」[注25]

――商品名を出さないんだけど、顧客企業の自社製品が活用されるようなことを狙います、そういうことですね。

「はい」

――なぜ電通PRが、フォーラムの事務局をしているのですか。

「フォーラムは元々、うち(電通PR)がつくったみたいなものですから。調査をしたりセミナーを開いたりといった作業は全部電通PRに頼むということになっています。(電通PRと)フォーラムとの間で契約書みたいなものがあるんですよ」[注26]

――抗凝固薬についてのフォーラムの報道用資料は誰が書いたのですか。

「電通PRの担当者です」

「だまされたな」

報道用資料に「所感」を寄せ、共同通信が配信した記事で「1日1回の服用で済む薬剤が登場し選択肢が増えている」というコメントを使われたのは、日本脳卒中協会理事長(当時)の山口武典医師だった。山口医師は事情を知っていたのだろうか。

2017年1月27日に、大阪府吹田市の国立循環器病研究センターの名誉総長室で山口医師に会い、疑問をぶつけた。

「所感」を寄せた抗凝固薬に関する調査の報道用資料は、電通PRがバイエル薬品の新薬の宣伝に活用するためのものだった[注27]ことを知っているのか。そもそも電通グループが顧客企業の製品を宣伝するために、「国の看板」を掲げるフォーラムを使っていること[注28]を知っているのかーー。

山口医師の答えは「知らなかった」。私たちの取材に驚いたようだった。

山口医師がもっとも驚いたのが、電通PRの社内リポートにあった「一企業の取り組みが、国が推進する健康運動を支援・準拠した、より意識の高い取り組みとしてアピールすることができる」「自社(顧客企業)製品が活用されるようになることを狙います」[注29]という記述だった。つまり、「国の看板」を利用して特定の企業の製品を宣伝する、という仕組みに驚いた。

「『健康日本21推進フォーラム』は、日本医学会の会長を務める高久先生という偉い人が理事長なので、信用していいんだろうなと思った。だまされたな」

バイエルホールディング広報本部医療用医薬品部門広報の三好那豊子部長は「バイエル薬品は電通関西支社に対して、心房細動患者さんが脳梗塞予防のために適切な医療を受けていただくための疾患啓発活動を依頼しましたが、当該取引内容の詳細については企業秘密のため、回答は控えさせていただきます」と回答した[注30]。

いったいどうなっているのだろうか。

「理事長をやめたい」

では「健康日本21推進フォーラム」のトップ、理事長の高久史麿氏は実態を把握していたのか。高久氏は日本医学会会長を務める 医学界の重鎮だ。

2017年1月30日、東京都文京区にある日本医学会の会長室を訪れた。


【動画】日本医学会会長へのインタビュー

私たちが「フォーラムのことをお聞きしたい」と切り出すと、高久会長から意外な答えが返ってきた。

「理事長はもうやってないです。推進フォーラムは潰れたって話はまだ聞かないけども、会合が全然なくなっちゃったですね。自然消滅したんじゃないかな」

え、やってない? フォーラムのホームページには高久会長の名前が理事長としてはっきり載っていますよ[注31]。

フォーラムが作成した[注32]抗凝固薬の報道用資料を高久会長に見せた。

資料を一読した高久会長はいった。

「確かにこれは(製薬会社の)バイエルの宣伝になりますね、明らかにね」[注33]

「(報道用資料に)勝手に僕の名前を使って。迷惑な話だ」

「(理事長を引き受けた時は)電通がね、半分ボランティア的にフォーラムの事務局をやるんだと思って、そんなに商売に利用するとは思わなかったですよ」

高久会長はそういって左胸から携帯電話を取り出し、私たちの目の前でフォーラム事務局に電話をかけた。電話は留守電になった。

ーー医療をテーマにした記事でカネが動き、記事として読者に届くことを、医学会長としてどう思いますか

「そういうことは、非常に問題だということ、声明出すことはできますよ。ただ、それをやってるのが僕が理事長のところ。そうすると、自分がやってることにけしからんということになっちゃう」

高久会長は、理事長職をやめる、と語った。そのための内容証明郵便の出し方を私たちに尋ね、「翌日にも発送する」といった。

「フォーラムが特定の薬品を推薦している。理事長の私も知らないことで責任とれないから、理事長をやめさせてくれっていう」

会長室を引き上げる際、高久会長はもらした。

「電通も、ひどいねえ……」

翌日、高久会長からワセダクロニクル編集長にメールがきた。

ほかの理事からもう少し様子をみるようにいわれ、今すぐの辞表提出は思いとどまったという。