考える 問う 論じる/ニュース深掘り/始まる医療再編 酒田支局 亀山貴裕

2016.11.22

考える 問う 論じる/ニュース深掘り/始まる医療再編 酒田支局 亀山貴裕/住民交え「痛み」議論を/人口減少と高齢化が急速に進む社会で地域医療をいかに守るか。山形県庄内北部で始まった医療再編の動きを取材
2016.11.21 河北新報



始まる医療再編 酒田支局 亀山貴裕/住民交え「痛み」議論を

 人口減少と高齢化が急速に進む社会で地域医療をいかに守るか。山形県庄内北部で始まった医療再編の動きを取材し、切迫感を抱いた。働き手不足や国民医療費の膨張を背景に全国でも医療提供体制の見直し議論が進む。山積する課題は病院や行政だけでは解決できない。住民一人一人が医療を次世代につなぐために何ができるか、主体的に考える機会と捉えてほしい。

 「今後15~20年で日本は経験のない高齢社会を迎える。病院単体ではなく地域全体で今より格段に『燃費の良い』医療提供体制を構築しなければ、地域に医療を残せない」

 酒田市の基幹病院を運営する地方独立行政法人「山形県・酒田市病院機構」の栗谷義樹理事長は語る。

 機構は9月中旬、市内の複数の医療・社会福祉法人と職員の相互派遣や医薬品の共同購入ができるグループづくりに着手した。重複する機能の解消を視野に入れ、できるだけ無駄のない地域完結型の医療と介護体制を目指す。

 酒田市も市立八幡病院の入院ベッド(病床)を無くし、機構に移管・統合する方針を示した。地域住民に不満の声はあるが、医師や看護師が不足し、市から年間2億5000万円もの繰入金が出ていることを考えれば、やむを得ないのかもしれない。

 そもそも医療制度自体が行き詰まりつつあるからだ。

 国民医療費は昨年度、概算で41兆5000億円に達した。厚労省推計によると、高齢化と医療技術の進歩で25年度には61兆円に及ぶ。現役世代2.3人で高齢者1人を支える人口構成は60年に1.3人で1人になる。労働力人口は全体で減るが、医療・福祉分野は30年までに新たに200万人前後が必要とされる。

 国の医療政策に詳しい政策研究大大学院の島崎謙治教授(社会保障政策)は「問題を先送りにすれば財政・人的制約は厳しくなり、政策的な選択肢が狭まる。残された時間はほとんどない」と話す。

 国は、都道府県ごとに策定する地域医療構想をベースに、病床の再編と在宅医療の拡充に乗り出した。医療人材の効果的な配置と公費支出の抑制を狙う。

 9月に策定した山形県は全県で1万余りの病床について、既に過剰とされる急性期を中心に10年間で2割減らす目標を盛り込んだ。青森県は弘前市内二つの総合病院の統合など津軽地域の公的病院の再編を提案した。

 医師不足と過疎化が進む地方で医療を守るのは容易でない。「痛み」が避けられない状況になるかもしれない。だからこそ、行政や医療機関は余力のあるうちに住民を交え、地域医療の在り方や展望を共有する場を多く持つべきではないか。

 09~11年に岩手県が取り組んだ県立病院・地域診療センターの無床化を取材した。地域の将来を考えた住民有志が医療・介護の受け皿を残そうと動き、医療施設内に特別養護老人ホームを設けるケースがあった。

 病気や介護の予防など個人で取り組めることもある。「感情論」ではなく、本当に支援が要る人が医療と介護を受けられる社会に向け、行政、医療、介護関係者と住民にそれぞれ何ができるのか。同じテーブルで突き詰めていくことが必要だ。<地域医療構想>団塊世代が75歳を過ぎる2025年を見据え、都道府県が将来の医療需要や適正な病床数を推計し、目指す医療提供体制などを定めるビジョン。病床を緊急性の高い順に高度急性期、急性期、回復期、慢性期に分類し、医療機関の自主的な減床や見直しを促す。国全体では1割超の削減が目標。実現のため2次医療圏ごとに医療・福祉団体や市町村でつくる調整会議を設ける。【グラフ】日本の人口と高齢化率の推移