産める街へ、地方奮闘 機器貸し開院支援 【西部】

2016.11.09

産める街へ、地方奮闘 機器貸し開院支援 【西部】
2016.11.07 朝日新聞


 産婦人科医が足りない状況を解消する取り組みが各地で広がる。公費で医院を「誘致」したり、都市部への通院費を負担したり……。産婦人科医の数が7年ぶりに減少に転じたとする調査結果が発表される中、「安心して産める環境を整えたい」との思いがある。


 「どこで産んだらいいのか悩んでいました。ありがたい」。南アルプスを背に、田畑が広がる山梨県甲斐市。10月の開院初日、「このはな産婦人科」に来た女性(34)は語った。妊娠2カ月で初産だという。

 人口約7万5千人の甲斐市には、妊婦を健診する医師はいるものの、出産できる施設はない。このはな産婦人科も出産はできないが、この女性ら妊婦のカルテは5キロほど離れた山梨大病院(同県中央市)との間で全て共有されている。

 出産が間近になったり夜間・休日に急変したりすると、山梨大病院がスムーズに受け入れてくれる。「おなかが大きくなってから車を運転して別の病院に通い出すのも大変。産める場所が決まっているのは安心です」。女性は話す。

 このはな産婦人科を切り盛りするのは中村朋子院長(48)。9月末まで山梨大病院に勤めていた。少子化と都市部の大病院に医師が集中した影響で地域に出産施設が少なくなり、数年前は年間400台だった出産数が昨年は571に増加。山梨大病院は順番待ちの妊婦であふれ、婦人科系の病気の女性に手術を待ってもらうこともあったという。

 「なんとかしないと」。中村さんは、地域の医師が出産直前まで妊婦と向き合えば妊婦の負担が減り、大学病院も本来の役割を果たせるのではと考えた。

 そんなとき、山梨大病院を通じて中村さんの意向を知った甲斐市が市内での開院を提案。市が超音波診断装置や検診台などを5千万円で買い入れ、中村さんの医院に無償で貸すことになった。市秘書政策課の丸山英資(ひでもと)さん(49)は「将来的な『人口減』を食い止めたいと考えました。市民サービス向上の視点もあります」と語る。一方、このはな産婦人科がある土地は中村さんが自ら借り、建物も自費で建てた。初の医院経営は厳しいものになると思っているが、「地域の女性たちにとって身近な場所にしたいですね」と目を輝かせる。


 ■妊婦の通院を補助

 甲斐市のような動きは他にもある。市内に出産できる施設がない富山県南砺市は4月、不動産の取得や機器・備品購入にかかる費用を対象に「上限1億円」の補助制度を始めた。

 宮崎県日向市は昨年度から産科の新規開業に対する上限5千万円の補助制度を開始。出産できる施設は市内に2カ所。若者の定住には安心して産める環境が必要と考えた。まだ問い合わせはなく、市地域医療対策室の担当者は「広報にも力を入れたい」と語る。

 宮崎県延岡市も昨年度から産科医を新たに雇った市内の医院に1人あたり500万円を補助する制度を始めた。実績はゼロだが、担当者は「10年後を見据えて対策を講じている」。

 通院する妊婦を支援する自治体も少なくない。厚生労働省によると、交通費や宿泊費などを補助しているのは36都道府県の181市町村(昨年春時点)。これまでは市町村独自に取り組むケースが中心だったが、4月には北海道が始めた。昨年10月時点で道内の8割を超える149市町村に出産できる施設がないという。


 ■産婦人科医数、増加は頭打ち

 こうした取り組みが広がる背景には、慢性的な産婦人科医の不足がある。国は2009年、訴訟リスクの多さが産婦人科から医師を遠ざけているとして、家族らを対象に産科医療補償制度を創設。女性の産婦人科医が育児しながら働き続けられる対策を講じた結果、09年前後から医師の数は緩やかに増えた。

 だが、その数は再び減る傾向がうかがえる。日本産婦人科医会が10月に発表した調査結果によると、今年1月時点の産婦人科医は前年同期を22人下回る1万1461人、このうち出産にたずさわる医師は20人減って8244人だった。日本医科大産婦人科の中井章人教授が手がけた調査で、減少はいずれも7年ぶりだ。

 (神元敦司、岡村夏樹)