北海道(けんこう処方箋)「へき地義務化」は互いに不幸 草場鉄周 

2016.10.27

北海道(けんこう処方箋)「へき地義務化」は互いに不幸 草場鉄周 /北海道
2016.10.26 朝日新聞



 来年度の予算編成に関する国の議論が進んでいる。

 それに関連して、非常に重要なテーマが審議されている会議がある。厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」である。

 日本の医師数は、先進国と比べてやや少ない傾向にあるが、問題は絶対数でなく、診療科や地域の偏在にあると言われる。今まで「医学部の定員数の増減」という絶対数に関する方策しかなかったが、この検討会ではいよいよ「診療科」と「地域」に切り込もうとしている。具体的には「専門医の資格取得を目指す専攻医の定員数の管理」、そして「保険医資格の管理」がテーマだ。

 今回は特に「保険医資格の管理」を考えてみたい。社会保険制度を基盤とする日本の医療の仕組みの中で、保険医資格がなくては診療できないといっても過言ではない。現在は大きな過失がない限り自動的に取得できる資格だが、今回の議論では、この資格を取得するために「へき地での一定の経験を必要とするべきだ」という意見が強く打ち出されている。

 これは事実上、全ての医師に対する「へき地勤務の義務化」に他ならない。医師の養成には相当の国費が投入されているし、医師の持つ社会的責務を考えれば、長い医師人生の中で社会貢献を一定の間は果たすべきだという考え方も間違いではないだろう。ただ、私は次の理由で反対だ。

 まず、診療科や診療能力と無関係に、へき地にやって来る医師を迎え入れる地方は不幸である。義務的に配置される医師のモチベーションには期待できず、住民は毎年のように変わる医師のありように一喜一憂せざるを得ない。どんな医師でもいれば良いという時代は過ぎ去った。住民の医師に対する期待値は高いのである。

 そして、義務の色彩を帯びれば、へき地での勤務を自ら望む医師はますます減るだろう。現在は、へき地での勤務に誇りを持つ医師、あるいは地域貢献を目指す医師が、少ないながらも存在する。しかし、義務化はそうした動きにブレーキとなりかねない。

 つまり、住民にとっても医師にとっても、義務化は確実に不幸な結果をもたらす。今へき地で活躍する医師への敬意、そしてへき地で活動することにやりがいを感じられる総合診療専門医のような医師の養成に対する強力な後押し。地味でやや遠回りだが、こうしたことが、地域医療を守る最善の方法であろう。

 (北海道家庭医療学センター理事長 草場鉄周



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