ニュース最前線ながさき/伊万里松浦病院移転問題

2016.10.27

 
ニュース最前線ながさき/伊万里松浦病院移転問題/松浦・江迎支局 山里悠太朗/医療環境 改善なるか/医師不足、救急搬送… 課題は山積
2016.10.23 


 独立行政法人地域医療機能推進機構(本部・東京)が伊万里松浦病院(佐賀県伊万里市)の松浦市移転を検討している問題は、市への打診から1年以上が経過した今も実現の見通しは不透明なままだ。移転には二次医療圏の病床数の基準超過といった課題の解消が急がれるが、市民にとって重要なのは、公的な基幹病院がなくなり医師の高齢化が進むなど年々厳しさを増す医療環境が改善されるかどうかだ。市内の医療課題とともに新たな病院に求められる機能を探った。

■手薄さ

 「松浦の医療の実情と5年先、10年先の将来を見ると、打診については全力を挙げて実現に取り組まないといけない」-。友広郁洋市長は同病院の誘致に強い決意を何度も示してきた。

 志佐町にあった旧市民病院が医師不足と経営難で2009年4月に診療所化して以来、市内では基幹となる公的病院がない状態が続いている。現在、市内には三つの民間病院と市立を含めた12の診療所があり、病床数は372(一般病床86、療養病床286)。人口当たりの病床数は全国平均を上回るが近隣自治体よりは少なく、医師や看護師の数は全国平均を下回る。市内の医師でつくる医師会「松医(しょうい)会」の平均年齢は60歳を超え、将来的な医療サービスの低下が懸念される。

 市内の救急搬送の状況からは救急医療の手薄さが浮かび上がる。市内における救急搬送は、かかりつけ医と輪番制の担当医師が軽症患者を対象とする一次救急に対応し、重症の二次救急、三次救急は市外に搬送するケースが多い。市内では14年4月から救急告示病院がない状態も続き、15年の松浦市消防署本署の搬送状況は市内の医療機関が287件で4割弱。市外搬送は443件で、佐世保市内が300件以上、伊万里・有田地域が85件に上る。

 また、市内には民間診療所がお産を取りやめた産科や市内に1カ所しかない小児科など、高い地域住民のニーズに応えきれない診療科目もある。

■高齢化

 地域の医師たちは現状をどう感じているのか。松医会の木村幹史会長は医師の高齢化を課題に挙げる。その上で同病院には「在宅医療も増えていく中、地域医療の中核的な病院として市内の医療機関を後方支援するような役割は求められる」とし、「大事なのは移転してきた後に地元の開業医と連携を取っていけるのかどうかだ」と言及する。

 救急搬送の受け入れについては、現在の伊万里松浦病院には二次、三次救急を受け入れられる体制は整っていないことを指摘する意見があり、押渕医院(御厨町)の押渕英展理事長は「移転してきても訪問介護や検診が中心となって、救急搬送の状況は変わらないのではないか」と厳しい。

 菊地病院(志佐町)の犬養順子理事長は、二次救急や夜間の小児救急の受け入れを課題に挙げるが、「どの地域も人手不足の中、どのように医師や看護師を確保できるのか。医者がいなくて救急医療が積極的に担えない状況になれば意味がない」と疑問を投げかける。

 ただ、医師の高齢化が進めば現在の輪番制をいつまでも続けることは難しいことも事実。伊万里松浦病院の移転を医療の課題改善に結び付けるためには、二次救急以下を中心に、どの程度の受け入れを担うことができるのかが注目される。

◎病床過剰が最大のハードル/市は医療再編計画の策定目指す

 伊万里松浦病院の松浦市移転には地域医療機能推進機構が県に病院開設を申請し、年2回開かれる県医療審議会に諮る必要がある。しかし、次に審議に諮れるタイミングは早くて来年3月ごろ。来年秋まで延びる可能性もある。

 審議で最大のハードルとなるのが、松浦市が含まれる二次医療圏「佐世保県北医療圏」の病床数が基準の3858に対して4789床で、大きくオーバーしている点だ。病床過剰の地域での病院開設は原則的に認められず、県と国が協議した上で国が特例措置を認めることが必要になる。

 関係者によると、現在は機構と厚生労働省との間で慎重な協議が行われているもようだ。特例措置の承認には病院の必要性だけでなく、病床数を可能な限り減らしていく努力も必要とみられ、市は将来的な松浦市内の医療状況や病床数削減の見通しなどをまとめた医療再編計画を策定し、移転を後押ししていく考えだ。

 伊万里松浦病院の現在の病床数は112床あり、仮に現在の規模で移転してくるとすれば、この112床を市内全体で減らすことが究極的には求められる。

 社会保障費の抑制のため、国が削減や他施設への転換の方針を示している「介護型」の療養病床が市立診療所に30床ほどあり、まずはこれが削減対象となりそうだ。民間の病床については市に削減を求める権限はないが、将来的な削減の意向などを聞き取り、計画に反映させる方針だ。

 もう一つ、審議で重要となるのが地元医師会の意向だ。木村幹史会長によると、松医会では同病院移転への賛否は「完全に五分五分」。「(伊万里・有田地区のように)医師会の総意として反対はしない」とする。

 だが、病院経営や雇用への影響を不安視し、移転に反対する意見も根強い。友広郁洋市長は「市内の医療機関に理解をいただくための最大限の努力をしていきたい」とも述べているが、市と機構のコミュニケーション能力も問われそうだ。

◎建て替え急務も 「現地存続」根強く/見通し見えず 

 松浦市との県境に接する伊万里市山代町の浦之崎地区にある伊万里松浦病院。患者の約3割は松浦市民が占め、県境地域を支える病院として両市の住民から長年親しまれてきた。

 ただ、1960年代に建てられた病院は老朽化。建物は一部ブロック造りで耐震基準も満たしておらず、建て替えが急務。患者数の減少で赤字幅は年々拡大しており、地域医療機能推進機構は現地建て替えは採算が合わないと判断し、移転建て替えを検討してきた。

 昨年2月には伊万里市に旧市民病院跡地への移転を打診したが、同跡地から約3・5キロの距離に伊万里市と有田町が共同設置した基幹病院の「伊万里有田共立病院」があり、伊万里・有田地区の医師会は「機能している地域医療のバランスが崩れる」と反対。交渉が行き詰まると、機構は一転して候補地を松浦市に変え、昨年9月、同市に打診するに至った。

 一方の松浦市はこの打診を早期からチャンスと受け止め、松浦市議会も1月に松浦市移転を求める決議を採択。友広郁洋市長は、市役所の正面の旧消防署跡地周辺を無償貸与する方針も表明した。

 ただ、伊万里市内でも住民が1万人以上の署名を集めるなど現地存続を求める動きが活発化。同市は現在地建て替えを求める要望書を機構に提出し、松浦移転の流れに「待った」を掛けた。機構が両市と交渉を続ける中、両市の間では自らが意図しない綱引き状態が続いてきた。

 3月には機構の尾身茂理事長が松浦市と伊万里市を訪れて両市長とそれぞれ会談。「伊万里市内存続は難しい」との考えを示して松浦移転の意向をにじませたが、伊万里側の反対も根強く、移転先の方針は先送りになった。4月には病院が立地する山代町区長会が佐賀県選出の国会議員3人とともに機構と機構を所管する厚生労働省医政局を訪れて現地存続を求め、伊万里側の動きは続いている。

 機構は移転先の方針決定について「なるべく早く」としてきたが、松浦移転にはハードルが多く、移転までの道のりは見通せない状況が続く。「いつになれば決まるのか」。先延ばしが続いてきた移転問題に、両市の関係者からはぼやきも聞こえ始めている。