不可解な都立広尾病院移転計画に医師会幹部らが反発 新国立競技場、築地市場に続く第3の難題浮上

2016.09.27

不可解な都立広尾病院移転計画に医師会幹部らが反発 新国立競技場、築地市場に続く第3の難題浮上
2016.09.30 週刊朝日



 新国立競技場、築地市場に続き“第3の移転問題”が本誌の取材でわかった。東京都立広尾病院で移転計画が突如、持ち上がり、3月に用地買収の予算370億円が計上された。だが、現場の医師らは「経過が不透明」と猛反発。疑惑の“核心”には前都知事の独断があった。


 小池百合子新東京都知事が築地市場移転の延期を表明した8月31日、都庁の第一本庁舎25階の114会議室では医療専門家ら約15人が集められていた。

 会議の名称は「第1回首都災害医療センター(仮称)基本構想検討委員会」。

 だが、2時間にも及んだ論議の中で、首都災害医療センター構想についてほとんど言及されぬまま、会議は途中から紛糾。

 出席者が口々に疑問を呈したのは、今年3月に370億円もの用地買収の予算がついた広尾病院(渋谷区)の移転計画の不透明さだった。

 同席した都の病院経営本部幹部によると、医師会幹部を含む医師らが堰を切ったように「なぜ、広尾病院を青山へ移転する必要があるのか」「なぜ、事前に私たち医師には知らされなかったのか」「新しい病院の基本構想を話し合うより、まず不透明な経緯をきちんと説明してほしい」と相次いで意見を述べたのだ。

 「広尾病院の移転計画は、これまでメディアでほとんど報じられていません。ですが、築地市場の豊洲移転問題と根っこは同じです。都は昨夏、広尾病院を現地で改築する方向で動いていたのに、秋に急きょ、2023年に移転すると方針転換。1月には16年度予算原案に用地買収費として370億円を強引にねじ込んだ。築地移転に続く、第2の爆弾となる可能性がある」(東京都の病院経営者)

 本誌が入手した内部資料などによると、昨年5月、都はみずほ情報総研に「広尾病院の改修・改築のあり方に関する調査業務」を業務委託。その結果は「現地改築が合理的」という意見だったという。

 ところが、5カ月後の10月、今度は伊藤喜三郎建築研究所に「広尾病院整備に係る調査業務」を委託。

 その内容は「改築の実現性を検討するとともに、他の候補地への移転可能性についても検討し、基本構想を策定する」と変貌していた。

 2度目の調査と時期を同じくして、恵比寿にある広尾病院の移転先として青山が浮上していた。

 「昨秋、都の財務局から、『広尾病院を、青山の“こどもの城”跡地に移転させようと思うから、可能性を検討してほしい』という話が突然、持ち込まれました。都の予算というのは、9月頃までには固まりますが、8月末の時点では移転話はなく、改築でいこうという雰囲気で用地の予算も上げていなかった」(都幹部)

 この“空白の1カ月”に一体、何があったのか。

 「最後は舛添要一前都知事のトップダウンで青山への移転が決まり、慌てて予算案を作りました」(同)

 16年1月19日には日刊建設工業新聞が、伊藤喜三郎建築研究所が都から受託した調査で、広尾病院の現在地建て替えは困難、移転改築の必要ありとの結論に至ったと報道。

 2月から開かれた都議会の予算審議では、広尾病院の問題に関しては、自民党都議ら3人から概略についての質問が出ただけで、予算案は3月25日にシャンシャンと可決された。

 都政に詳しいコンサルタントはこう話す。

 「都議会でろくろく質問が出なかったのは、病院問題に詳しい人が少ないから。また、条例がらみだと都議も放っておきませんが、条例のからまない予算だと、スルーされがち。都としては、そんなこともお見通しだったのでしょう。今年1月に予算案を出さないといけないから、昨年10月にアリバイ的に調査を別の会社に出し、お墨つきをもらった上で予算を急いで通したのではないか。まさに“伏魔殿”と呼ばれる都庁の体質の問題だと思います」

 都の病院経営本部関係者によると、青山移転の話は、広尾病院で働く医師ら医療スタッフにとっても寝耳に水だったようだ。都内の医療関係者はこう訴える。

 「『青山移転』を知り、びっくりしました。事前に私たち医師に何の説明もありませんでしたから。なぜ、都は370億円もの移転予算を決めるまでにわれわれ専門家を集め、改築か、移転かを論議する検討委員会を設けなかったのか。予算が通ってから検討委員会を設けるのは順序が逆でしょう。急いで決めなければいけなかった理由があるのではないか」

 1980年に建てられた広尾病院を青山にある「こどもの城」の跡地(国有地)、隣接する「共済青山病院」跡地(都有地)の両方を合わせた土地へ移転させる(19ページ図参照)。こうした「首都災害医療センター」構想の原案は石原慎太郎都政時代に持ち上がった。

 移転先は災害時に緊急車両専用道路となる国道246号(青山通り)沿いという好立地なので、基幹災害拠点病院としての機能を強化できるというのだ。

 しかし、広尾病院は近年、“赤字”続き。民間病院でも救急患者を受け入れるようになったこともあり、病床利用率が年々下がり、昨年度の利用率は60%台まで落ち込む。都が広尾病院へ補填した金額は昨年度は約27億円にも上った。

 都は「建物は築36年で老朽化しており、敷地が狭く、建て替えが必要」と訴えるが、移転計画が明らかになってから、異議を唱える医療関係者が相次いでいた。

 「都内で建築してから40年しか経っていない大病院というのは、新しいほうですよ。都内にはもっと古くて老朽化した大学病院がまだまだあります。広尾病院は免震は施されていないといっても、耐震改修はしてあります。すぐに移転しなければならない緊急性は全くない。災害拠点病院にするというが、都心部で災害が起こると、交通がマヒするので、機能しない懸念もあります」(都内の医師)

 実は渋谷駅、表参道駅にも近い移転予定地は昨年、NHK放送センターの移転先として候補に上り、話題になった。

 結局、NHKの籾井勝人会長が昨年6月、「移転費用がかかりすぎる」と断念を発表し、その代わりの候補として浮上したのが、広尾病院だったわけだ。

 「NHKに逃げられた後、国は売却先を探していた。民間に払い下げると、買いたたかれるので、都は格好の売り先。舛添さんと親しい大物議員が間に入ってねじ込んだ可能性もある。広尾病院を青山へ移転させれば、周囲の土地の値も上がり、建て替えは間違いなくビッグプロジェクトになる」(野党都議)

 前出の病院経営者はこう分析する。

 「広尾病院の移転には、他の病院の事例から見て、上物にもよりますが、建築費がだいたい500億円くらいかかるのではないかと推計しています。仮にそうだとすると、土地代370億円とトータルで900億円前後の予算がかかることになる。当初、検討されていた改築予算の数倍以上の巨費になる。患者が減り、赤字続きの病院にこんな巨費をかける必然性があるのか。あまりに不可解です」

 都には「東京地域医療構想」というものがあるという。地元の医師は訴える。

 「大きな病院もクリニックも地域で連携しましょうと、都が主導してやっているんです。要するに、医療はボトムアップが大切だという考え方。ところが、広尾病院の移転については、地域の医療関係者に知らせず、トップダウンだった。方針からも矛盾してます」

 都の病院経営本部は本誌の取材に対し、こう弁明した。

 「国有地の売買ということもあり、国サイドから、予算案を提出するまでは外部に口外しないよう、口止めされていました。それで、医療関係者にもお伝えするのが遅くなってしまった。医師たちから8月末の会議で指摘されたように、医療関係者、地域の合意形成が遅くなったという点は反省しています」

 トップダウンで移転を決めたとされる舛添氏に取材を申し込むため、世田谷区の自宅を訪ねたが、「本人はいません」とのこと。

 締め切りまでに、回答はなかった。

 移転に反対する医師らはすでに小池都知事と面会し、計画の見直しを進言したという。

 「小池知事は『わかりました』と答えました。どの程度深く認識されているのかはわかりませんが、築地市場の問題と同様、ぜひとも切り込んでほしい」(病院関係者)

 370億円の移転費用は今年度予算のため、来年3月までに国と都が土地の売買契約を結ばなければ、タイムオーバーとなる。

 舛添都政下で決まった第2の移転問題の後始末を、小池都知事は果たしてどうつけるのか。


 ■築地市場と広尾病院、二つの移転問題の共通点とは

 豊洲新市場の主要な建物の地下に、土壌汚染を防ぐための盛り土がされず、コンクリートで囲まれた空洞があった――。耳を疑うような出来事に、都政の現場は蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。ある都議も「ここまで大きな問題になるとは思わなかった」と驚き顔だ。

 疑惑の核心が謎のまま、都議会は9月28日に開会する。地下の空洞(写真)を最初に視察した共産党都議団の尾崎あや子都議は言う。

 「空洞について都は、『人が通って作業をするための場所』と説明していました。ところが、現地に行ってみると電気もありません。いつ、どこで、誰が空洞案を指示したのか、まったくわからない。知事には、この問題を徹底的に解明するよう求めていくつもりです」

 では、豊洲新市場の建物下に空洞をつくるよう指示したのは誰なのか。

 現在のところ、設計業者が11年6月に都に提出した基本設計書の段階で、地下空洞案を採用していたことがわかっている。

 当時の知事は石原慎太郎氏。石原都政時代には、大手ゼネコン会社の元社員が秘書となり、都政に影響力を持っていたことが知られている。

 ところが石原氏は9月13日のBSフジの番組で、「僕はだまされたんですね」と、空洞案についてまったく関知していなかったかのように話している。

 一方、08年5月に行われた知事会見で石原氏は、外部の研究者からの提案として空洞案について言及。「ずっと安くて早く終わるんじゃないかということでしたね」と語っていた。

 当時の副知事らもマスコミからの取材に沈黙していることから、これだけでは石原氏の指示だったとは断言できないが、都が「安くて早い」工事を求めていたことはたしかだ。

 前出の尾崎都議は言う。

 「豊洲新市場の建設は、東京五輪に間に合わせるために強引なスケジュールが組まれていて、共産党都議団は移転に一貫して反対でした。土壌汚染以外にも、店舗面積の狭さや、流通経路の使い勝手の悪さが指摘されていて、市場関係者は不安を抱いていました」

 市場関係者も、こう話す。

 「移転の話は、都の役人が市場で働いている仲卸業者の意見をちゃんと聞かず、勝手に進めた。計画が次々に変更されるなか、ほとんどの仲卸業者を無視することでは一貫していた」

 当事者たちへの説明をしない「合意形成の不足」、巨額の予算が次々に動く「莫大な経費」、重要な決定が記録も残されずに決まっていく「秘密主義」。たしかに、築地市場と広尾病院の二つの移転問題には、驚くほど共通点が多い。

 現在、都民のみならず、国民全体が都政を厳しく見ている。広尾病院の移転問題も火種になる可能性が出てきた。野党の都議は言う。

 「広尾病院の移転は大プロジェクトなのに、なぜ、都はもっと宣伝しないのかという疑問は前からあった。最近になって医師から批判の声があがってきて、都のやり方に問題があることがわかってきた。小池知事にはきちんとした説明を求めたい」

 小池知事が豊洲移転延期に続く大きな決断を迫られるときが、そう遠くない日にやってくるかもしれない。

 (本誌・上田耕司、西岡千史)


 ■広尾病院改築計画の経緯

 <2015年>

 5月13日    都の「広尾病院の改修・改築のあり方に関する調査業務」を、みずほ情報総研が約877万円で受託

 9~10月ごろ? 都の財務当局から都病院経営本部に、青山の「こどもの城」跡地に広尾病院の移転が可能か打診がある。この頃に、都の方針が改修・改築から「移転」に変わる

 10月19日   都の「広尾病院整備に係る調査業務」を伊藤喜三郎建築研究所が約734万円で受託

 <2016年>

 1月15日 16年度の予算として、土地購入費用370億円が計上される

 3月25日 都議会本会議で16年度予算が成立

 6月15日 舛添要一都知事が辞職願を提出

 7月31日 都知事選で小池百合子氏が当選。8月2日に就任

 8月31日 小池知事が緊急記者会見で築地市場の豊洲移転延期を発表

      「首都災害医療センター(仮称)基本構想検討委員会」の第1回会合が開催される。移転の経緯をめぐって委員から経緯の不透明さを指摘する意見が出る

 9月28日 都議会の第3回定例会が開会。10月13日まで(予定)