そんなに怖いか?会計監査 - コラム - 先見創意の会

2016.09.13

そんなに怖いか?会計監査 - コラム - 先見創意の会

特別養護老人ホーム(特養)や保育所などを経営する社会福祉法人が厚生労働省の「決断」を固唾を呑んで見守っている。2017年4月から「収益が一定規模以上」の社会福祉法人に会計監査人制度の導入が義務付けられるためだ。財務管理や事業計画が健全に行われているのか─チェックされる。「地元には公認会計士が少ない」「どこまでチェックされるのか」「監査料はいくらになるのか」…。戸惑いと不安が広がっている。

◆内部留保が引き金

社会福祉法人(以下、法人と表記)に対する世間の目は依然として厳しい。一部の法人による経営権の無届転売や杜撰な財務管理が次々に表面化。昨年3月末、社会福祉法の一部改正案が成立し、法人は統治能力や財務規律の強化、余剰財産による地域貢献などが義務付けられた。

法人関係者が最も関心を寄せているのが会計監査人の必置義務だ。17年4月以降、「収益が一定規模以上の法人」は公認会計士または監査法人と契約し、損益対照表や損益計算書などの財務諸表などを監査してもらい、所轄する自治体に届けて承認を受けなければならなくなった。

財務規律がこれほど厳しく求められることになったのは、家族や縁故者による経営支配や不公平な取引、お手盛りの会計処理─などについて以前から法人経営に疑問や批判が今も続いていることが大きい。

3年前には、厚生労働省が「(会計処理上)特養には1施設当たり3億円の内部留保がある」との資料を公表。折しも介護職員の不足と低賃金が問題になっていたこともあり、政界やマスコミから「特養は介護職員に十分な賃金を支払いもせず、3億円もの使途不明金を溜め込んでいる」と激しい非難が巻き起こり、法改正の機運が一気に高まった。

当時、厚生労働省は「特養の内部留保には施設整備の時に借り入れた補助金の処理金額などが含まれ、預貯金などの余剰金を示す一般企業の内部留保とは内容が異なる」と反論してきたが、財務規律の厳格化の流れは変わらなかった。また社会福祉法人に対する課税の是非をめぐる論議が再燃し、非課税の継続を主張してきた厚労省は法改正による自主管理の強化へ舵を切らざるを得なかった経緯もある。    

◆黒船到来で開国か?

だが、法人の間では介護監査人制度に対する戸惑と不安が広がるばかり。大きな原因が2つある。1つは地元に公認会計士と監査法人が少ないことだ。九州の理事長は「東京や大阪ならともかく、片田舎の法人は会計監査人を探すだけでも容易ではない」と言う。

日本公認会計士協会によると、今年7月末現在、会員は約2万9,000人(監査法人含む、準会員など除く)いるが、首都圏や近畿圏など大都市に集中し、地域による偏りが著しい。さらに社会福祉法にも精通すると「自主申告」している協会の社会保障部会会員ともなると、1600人余、55監査法人にとどまる。

もう1つは監査の報酬だ。同協会の14年度実績によると、1年間に支払われた報酬は一般企業で1社当たり平均1,092万円余(時間当たり平均12.300円余)、学校法人でも152万円余(同12,800円余)。

「介護報酬のマイナス改定が続き、介護職員の処遇改善さえ思うように進んでいのに、うちは450万円くらいかかる計算になる」と先の理事長は嘆く。

最善策はひとつ。会計監査人必置法人にならないことだ。一定規模以下の法人なら「努力義務」で済む。

厚労省は近く設置義務の法人の定義を政令で定め、線引きする。審議会の専門委員会の段階では、「サービス活動収益が10億円以上または賃借対照表の負債20億円以上」でまとまったが、法人団体は「収益20億円以上にしてほしい」と緩和を求めている。厚労省は審議会に「段階的に引き下げる選択肢もあり得る」と(譲歩に)含みを持たしている。

14年度データによると、社会福祉法人数は約1万9,800法人。「500法人程度にとどまるのではないか」「いや、1,000は突破するだろう」…。法人にとって会計監査人は幕末に突如寄港した「黒船」のような存在か。目下、噂が先行し、右往左往。果たして開国に繋がるのか。

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楢原多計志(関東学院大学 非常勤講師)